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「雪あるいは月明かりのような音楽」を求めて――SADAさんと音楽会議

『Mothers マザーズ』は5人の脚本家が集まり、それぞれが「母」をテーマとした20分の短編映画をつづるオムニバス映画です。脚本家・高橋郁子さんもこの映画に参加し、『夜想』と題した作品を制作しています。

『Mothers マザーズ』と『夜想』についての詳細は以下の記事をご覧ください。

今回は『夜想』の音楽制作についてのエピソードをお届けします。

この前段として、映像チームから仮編集の動画をもらっていました。この映像をもとに、SADAさんが音楽を制作していきます。
SADAさんがどんな方かはこちらの紹介をどうぞ。

実際の音楽制作の作業に入る前に、作品のイメージを擦り合わせるところから始まりました。
脚本・監督の高橋郁子さんと大切にしている点を確認し合い、それをもとにSADAさんが音楽を制作します。

デモは打ち合わせ後まもなく上がってきましたが、これは長い旅の始まりにすぎませんでした。
音楽変遷の旅、はじまり、はじまり。

①登場人物の解釈編

一番最初のデモが上がった段階では、郁子さんとSADAさんの作品の解釈は真逆と言ってもいいほど異なりました。
誤解のないように念のため申し上げておきますと、この解釈の違いはSADAさんの読みが浅かったから起こったわけではありません。(どちらかというと、ネットミームで言うところの「クソデカ感情」によるものでした。愛が重すぎたんです)

郁子さんが作品を作る際に大切にしているのが「作品の余白」。これは、解釈によって作品の見え方が変化することを意味します。
なにも観客だけではありません。スタッフにだって起こりうることです。
特に、まだ作品にはっきり色がついていない段階では、むしろ起こりやすいことなのかもしれません。

解釈が郁子さんと異なるものになった理由は……SADAさんの人柄の良さによるものでした。
この時のSADAさんの解釈そのものはネタバレになってしまうので、公開は控えます。ぜひ完成した『夜想』で「ここのことかな?」と想いを巡らせてみてください。

作品の解釈が異なれば、充てる音楽も当然変わるもの。
SADAさんの音楽も郁子さんとの議論を経て大きく方向性が変わりました。
いつかSADAさんの解釈バージョンの『夜想』も観てみたいなと思いました。この解釈もとても素敵な物語なので……!

②音のイメージの解釈編

――「雪や月明かりをイメージさせる音楽が欲しいです」

これが郁子さんからの導入部分への音楽のオーダーでした。作品全体の印象を決める、大事な部分です。
ちなみに、「雪」のイメージだからといって物語の季節が「冬」というわけではありません。あくまで音に対するイメージです。
与えられたイメージから自由に創れるのはクリエイターとしては挑戦し甲斐があって魅力的だな、と思います。
ただし、これはオーダーした側とそのオーダーを受ける側双方に同じイメージがある場合。郁子さんとSADAさんの場合はどうだったのでしょうか。

「雪や月明かり」のイメージは、ほぼほぼ郁子さんとSADAさんの間で一致していました。
しかし、難しかったのはその後。

「この辺りが『不穏』に聞こえます」という郁子さんのオーダーに対して、なかなかゴーサインが出ません。なぜなら『不穏な音楽』へのイメージが二人で違ったからです。

普段から便利な使われ方をしている言葉ほど、実は人によって千差万別の感情を指しているブラックボックスなのかもしれません。同じ「ヤバい!」という言葉で一つになれたような気でいるのは危うい共感なのでしょうか。

話をもとに戻しまして。
最終的には、曲ごとに「この曲は不穏、こっちの曲は暖かい」などを細かく記載して二人の認識を擦り合わせていきました。

Zoom会議中のSADAさんと郁子さん

とても書ききれなかったので次回も引き続き、音楽制作の裏話をお送りします。
朗読を意識した『夜想』ならではの音楽事情をどうぞお楽しみに!

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