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いい夫婦の日と老人たち

芸人になる前、僕は、一年ほど映像制作のバイトをしていた。

そのとき、介護施設のPR動画の仕事があり、取材と撮影のアシスタントとして同行したことがあった。

確かそこは、病院とケア施設が併設されてるような、新しい施設だった。

今でも思い出す。

あの日は11月22日だった。

なぜ覚えているのかというと、朝の集会の撮影中に笑えることが、あったからだ。

毎朝行っているという、その集会では、医師の女性が、ホワイトボードの前で、挨拶をしていた。

部屋にいる20人くらいの、お年寄りたちに向かいあって、ホワイトボードに大きい字で、日付を書き、「今日は11月22日、いい夫婦の日ですよー」と言った。

笑うお年寄りたち。

どことなく、笑いの波もスロウな感じがした。

そして、医師の女性は続ける。

「みなさん、人生の大先輩だから、きくけど、いい夫婦でいるための秘訣とかってありますか?」と尋ねた。

すると、お年寄りたちは、間髪いれずに、「忍耐!」「根性!」「我慢!」「諦め!」と、入り乱れるように、発言し、室内に大爆笑が起きた。

さっきまで、部屋全体がスローテンポだったのに、急にハイウェイに侵入してしまったような錯覚が起きた。

そして誰1人、いい夫婦の秘訣に「愛情」や「優しさ」なんて言わなかった。

そこも、医師の女性にツっこまれ、また笑いになっていた。

「我慢」「根性」「諦め」でその場の、全お年寄りが、うんうんと、共感しながら、笑いあっていた。

毎年、いい夫婦の日になると、あの日の光景を思い出す。

やっぱり、「笑い」のもつ軽さは人生の最後の最後まで欠かせないはずだ。

歳とってから「愛が大事」とか真面目な顔して、言うような爺さんより、みんなを笑わせられる爺さんになりたい。

あんなにお年寄りが笑ってるのは、若いこちらも嬉しかった。

また書きます。


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