見出し画像

「食の未来を守り広げるために全部やる」Food Expander 田村浩二さん#noteクリエイターファイル

noteで活躍するクリエイターを紹介する#noteクリエイターファイル。今回は、食の未来を拡張するFood Expander・田村浩二さんにお話を聞きました。

国内・フランスの一流レストランで修行を重ね、若干31歳でミシュラン星付き「TIRPISS(ティルプス)」のシェフに就任。世界12カ国で刊行される美食ガイド「ゴーエミヨ」期待の若手シェフ賞を受賞するなど、世界が認めるフレンチシェフである田村さん。

2018年8月の独立後は、「Food Expander」の肩書きを掲げ、料理人として、既存の枠にとらわれない新しい道を切り拓いています。インターネット上で「人生最高のチーズケーキ」と絶賛が相次ぐ「Mr.CHEESECAKE」は売り切れ必至。香りを食べるアイスクリーム「FRAGLACE」や選りすぐりのハーブとスパイスで調理した「AtarashiiHIMONO」を考案するなど、食の分野に新しい風を吹かせ、業界を超えて、注目を集めています。

noteでは、「料理人デザイン思考~個人で生き抜く働き方改革~」と題して、料理人として、経営者として、一個人として、日々思考したことを発信してくださっています。

料理を始めた原点に立ち返って生まれた究極のチーズケーキ

田村さんの料理の原点は、高校3年生の頃、親友の誕生日ケーキを焼いたこと。少年野球のコーチを務めていた父の影響を受け、小中高と野球に打ち込んでいた少年は、料理上手な母の背中を思い出し、ケーキを焼くことを思い立ちます。

「それまで野球以外のことは何もしていなかったんですが、母が料理好きで身近で見ていたので、料理ならできるだろうと、親友のためにケーキを焼いたんです。背が高くて坊主で目つきが悪い男がケーキを作って持ってきたんで、教室がざわついてました(笑)。親友や周りにいたみんながケーキを食べて、目の前で『美味しい!』と喜んでくれたのが、ものすごく嬉しかったんです」

自分がつくったもので喜んでくれる人がいる。その感動に突き動かされた田村さんは、料理の道に進むことを決意。

「野球でプロを目指していたけど叶わなかったので、料理では一流になろうと腹を括りました」

田村さんはその決心通り、調理師専門学校で学び、数々の一流レストランで修行を積み、本場フランスへ。帰国後、ミシュラン星付きレストランの厨房を任され、賞を受賞し、世界に通用するトップシェフとなります。

画像1

「でも、賞を獲った時に違和感があったんです。賞を獲る前と獲った後で、僕自身も、作る料理も何も変わらない。それなのに、来るお客さんが変わる。結局、僕が作った料理ではなく、僕の上に乗っかっているものが評価されているんだなと感じたんです。高校時代に友だちが喜んでくれたのが嬉しくて料理を始めたのに、気づいたら賞を獲って有名になるための料理を作っていた。食べた人が純粋に美味しいと喜んでくれる料理を作りたい。そんな気持ちで、チーズケーキを焼き始めたんです」

閉店したお店の厨房で、食べた人の喜ぶ顔が見たくて、自身も好きだったチーズケーキを試作。料理をする純粋な楽しさが湧き出て、無我夢中に。そうして、自信作「Mr.Cheesecake」が誕生しました。Instagram Storiesから火がつき、注文が殺到。2018年4月に焼き始めたチーズケーキは、6月には1,000本を超えていました。

どんなに忙しくても発信を怠らない理由

田村さんがチーズケーキを焼き始めたのは、週休1日16時間労働が基準とされるレストランの厨房に立っていた頃。

「毎朝4時に起きて、チーズケーキを焼いて、9時頃からレストランの仕込みをして、3時頃から配送作業や取材対応をして、5時頃から23時頃までは厨房に立って、閉店後午前1時頃まで打ち合わせをして、2時頃に就寝。3ヶ月くらいは2時間睡眠の生活をしていましたね」

そんな超多忙な生活を送るなか、noteやTwitterでの発信も怠りませんでした。田村さんがnoteとTwitterでの発信を本格的に始めたのは2018年1月。

「賞を獲った後、シェフとして自分を表現するためには何をすればいいのかを自問自答していて、発信はその一つの手段なんです。職人としていいものを作れば見つけてもらえると思っていたけれど、そうじゃないことに気づいて。自分という存在を知ってもらうために、SNSをやらない選択肢はないと思い、コツコツ続けています」

しかも、発信する内容は、レシピではなく、タイムマネジメントや個人の働き方が中心です。

「12年間、長時間労働が当たり前とされる飲食業界に身を置いて、自分の時間をいかに捻出するか工夫し続けてきたので、そのノウハウは、同業者だけでなく、あらゆる人に役立つと思ったんです。飲食業界だけに向けた発信では意味がない。僕は、自分が身を置く狭い世界だけで仕事をしていればいい時代はもう終わったと思っているんです」

画像2

すべては食の未来を守り、広げていくために

目の前の仕事に捉われない広い視野とバイタリティはどこから湧き出てくるのでしょうか。

「『食の未来を守って、広げていきたい』という思いが強くあります。そう思うようになったきっかけは、フランスで修行をしているときに醤油の作り方を聞かれたこと。なんとなくわかってはいたけれど、説明できなくて。そのことにショックを受けて、日本の食材を知りたいと、帰国後すぐに生産者を回り始めました」

田村さんは、唯一の休みである日曜に、30都道府県の生産者を訪ね回り、そこで新たな課題に直面します。

「いい食材を作っている生産者さんも跡取りがいなかったり、売り上げが立っていなかったり、10年20年先になくなってしまう可能性がある。料理人として、食材を探すのではなく、食材を守らないといけないと考えるようになりました。それができるのは、レストランの厨房に立つことではないと思ったんですね」

だから田村さんは、独立する際、自分の店を構え料理を提供する道は選びませんでした。

「生産者から家庭まで、オーガニックからテクノロジーまで、同時多発的にあらゆることをやって、他の業界の人たちも巻き込んでいかない限り、食の未来は守れないし、広がっていかない。だから僕は料理人として、これまで培ってきた食の知恵や技をさまざまなレイヤーに合わせて伝えていく。レストランで対30人の料理を提供するよりも、対1万人規模でできることをしたいんです」

現在、「Mr.Cheesecake」は会社として5人のスタッフと一緒に、飲食業界では異例の8時間労働週休2日の働き方で、「トーキョーチーズケーキ」として本場パリとNYへの進出を企む。家庭でも楽しんでもらいたいから著書『人生最高のチーズケーキ』でレシピも公開!

チーズケーキのみならず、田村さんは、国産のバラ干物、さらにはまで、世界に誇れる日本の食材と技術を伝承していくため、生産者と消費者をつなぎ、食をアップデートするプロジェクトを多数仕掛けています。

「食は誰にとっても身近なものだから、すべてがコンテンツになるし、僕は料理人として、食に関わることならなんでもできると思っています。一つのことに縛られずに、あらゆる可能性を信じて、伏線を張って、いつかつながったらいいなと思って、今できることを全部しています」

思考を伴った行動を積み重ねる田村さんは留まることを知らない。その舞台はこれからどんどん広がっていくでしょう。すべては食の未来を拡張するためにーー。

画像3

■クリエイターファイル
田村浩二(タム3)FoodExpander

母の料理で育てられた味覚とシェフとしての経験を組み合わせて様々な食に関することを書いています。食の様々な可能性を未来へ拡げるお仕事をしています。天秤座のAB型。ミスターチーズケーキ。お仕事はこちらまで→lodoriter@gmail.com
note:@koudy
Twitter:@Tam30929
読んでいるnote:塩谷舞さん、ハヤカワ五味さん、平田はる香さん、黒田 明臣さん

text by 徳瑠里香 photo by平野太一

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!