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「∞(むげん)プチプチ」を生んだおもちゃクリエイター・高橋晋平さんのアイデアの源

noteで活躍するクリエイターを紹介する #noteクリエイターファイル 。今回は、おもちゃクリエーターの高橋晋平さんにお話を聞きました。

株式会社バンダイで約10年、大ヒット商品「∞(むげん)プチプチ」を筆頭に、くすっと笑ってしまうアイデアに富んだおもちゃを開発してきた高橋さん。2014年に株式会社ウサギを創業してからも、玩具やゲームの開発から講演、書籍執筆まで、活動の幅を広げながら、遊びゴコロあふれるアイデアを生み出し続けています。

noteでは、創作の裏側や働き方、子どもとの遊び方などを発信。最近、noteを題材にしたカードゲーム「ショートショートnote」を開発しました。

「笑いを取りたい欲求には勝てなかった」

大企業を辞めて起業。その決断をする前、高橋さんは岐路に立っていました。

「会社に勤めていた当時の僕にはふたつの迷いがありました。ひとつが健康。入社5年目に倒れて、1年半寝たきりの生活になってしまったことがあったんです。根が真面目でひ弱なので(笑)。ふたたび体調が悪くなってきて、もう二度と倒れたくないしどうしようかなって。

もうひとつはキャリア。僕は会社の本流であるアニメキャラクタービジネスを通らずに、ふざけたおもちゃを10年つくり続けていたんですね。自分のアイデアで一からおもちゃを開発するイノベイティブ・トイの部署を志願して、運良くやりたいことができていた。でも大企業で順当に進むなら、本流を経験しなくちゃいけない。会社でマネジメントを学んでいくのか、現場でクリエイターとしてものづくりを続けていくのか。めちゃくちゃ悩みました」

しかも高橋さんは当時、家を購入し、お子さんも生まれたばかりだったそう。

「僕も家族も世間知らずで、大企業に勤める以外の生き方を知らなかったので、会社を辞めたら野垂れ死ぬんじゃないかって。びびってたし不安でした」

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それでも起業を選んだのは……?

「僕はとにかくひとを笑わせたい。笑いを取りたい精神が異常なんです。それが人生のモチベーションのすべてというか、癖ですね。ひとを笑わせることができるのは、会社でのマネジメントではなく、起業して自分でものづくりをする道だろうと。不安よりも『笑いを取りたい欲求』が勝ってしまった。ちゃんと稼げなかったら再就職すると妻と約束して、会社を辞めました」

笑いに取り憑かれた男、弱さを武器におもちゃをつくる

高橋さんが人生のモチベーションにするほど、“笑い”の虜になったのは大学時代。

「高校までは暗黒時代で。友達がいないから学校でも一言もしゃべらないし不良に追いかけ回されるし……。テレビで観るお笑いが好きだったので、大学デビューを狙って、落語研究会に入ったんです。人前でビクビク震えながら漫才やコントをやるわけですが、僕が元気な感じで強がって『なんでだよっ!』とか全力で叫んでも全然ウケない。なんでだよ?って2年くらい迷走して、なんの変哲もない自分の虚弱話をぼそぼそつぶやいたら、はじめて笑いが起きたんです。このような僕を笑ってくださる方がいるんだ、とそれはもう感動しまして。

それまで親にも『おまえの卒業文集だけつまらない』とか言われていたので、コンプレックスが裏返って、以来、笑いを取ることが人生の喜びになった。芸人になる実力も勇気もないけど、自分のできることで笑ってもらえればそれでいい。だからおもちゃをつくっています。僕は笑いに取り憑かれた男なんですよ」

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得意な「おもちゃづくりのアイデア」でひとを笑わせようと意気込むも、起業して2年は鳴かず飛ばず、迷走していたと振り返る高橋さん。突破口になったのも、大学時代のこの“笑い”の体験でした。

「起業してから誰かと出会って『なんか一緒にやりましょうよ』って話になったときに、『僕の強みはアイデア力です』とかぶちかますわけですよ。企画って実態がないので、つい相手が求めていることに応えるよりも、自分のアイデアすごいだろって押し付けてしまって。でも、そんなコミュニケーションの仕方では次の仕事につながらないんですよね。

失敗を繰り返して2年、やっと気づいたんです。強みではなく弱みを先に話していけばいんだって。自虐ネタで開眼した大学時代のように。僕は弱いままでいたほうが笑ってもらえるし受け入れてもらえる。弱そうに見えるけどこのひと本当に弱いんだなって(笑)。

なので仕事でもたとえば、『僕はおもちゃ開発者だけど立体的な絵が描けません』って先に弱みを見せちゃう。そうすると『うちはデザイナーがいるから大丈夫』って、相手が生かしたい強みの凸(でこ)を、僕の弱さの凹(ぼこ)に重ねてくれるんですね。僕が弱いまま、凸ではなく凹でいることで、仕事がうまく回り出したんです」

noteを続けていたら「しゃべり」がうまくなった

そんな高橋さんがnoteを始めたのは2019年。そのモチベーションもやっぱり、“笑い”にありました。

「みんなやってるしなあくらいの気持ちではじめたら、見事にハマってしまって。僕にとってnoteを書くのは、ネタを見せるような感覚なんですね。手応えを感じたのは『盲県』のnote。感触フェチの僕がいつもやってる遊びを写真つきで丁寧に解説しただけなんですが、笑ってくれるひとがいた。うれしかったですねえ。ウケたくてnoteを書いています」

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「ウケる」以外にもいいことがいろいろあったそう。

「それまでリアルな世界をうろついて出会ったひとに弱みを見せるところから仕事が生まれることが多かったんですが、コロナでできなくなってしまった。でも、noteを書くことでインターネットをうろつくことができるようになったんです。noteを通じていろんなひとと出会って、コミュニケーションが増えて仕事につながることもある。noteにはたくさんの恩恵をいただいています」

noteを続けるうちに、高橋さん自身にも変化が。

「しゃべりがうまくなりました。僕は大学時代からずっと噺家にも憧れていて。噺家のようにひとを笑わせるおしゃべりがしたい。『しゃべって、書いて、しゃべる』を繰り返していると、内容も整っていくし、すらすら話せるようになる。noteに書いたネタで講演の機会をもらうこともありました。notoのおかげで、おもちゃづくり以外にも、書くこと、しゃべること、笑いを取る手段が広がっています」

ゲームで作品を褒め合って、たのしく創作を続けていく

数々のおもちゃやゲームを生み出してきた高橋さんの最新作、「ショートショートnote」。

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200個のことばが書かれたカードから2枚を引いて、組み合わせたものをお題に、決められた時間内で、みんなで一斉に物語を書いて、読み合うゲームです。最終的に一番「スキ」を集めたひとが勝ち。このアイデアはどのようにして生まれたのでしょう?

「僕はあらゆるものに対しておもちゃやゲームにならないかな?と思考する癖があって、noteをゲームにしたいと勝手に思っていたんです。アイデアのルーツは、遠隔で鳴かせる鳩時計をつくったときに、ファンの集いとして、鳩時計を題材にその場で小説を書いてみんなで読み合うイベントをしたんですよ。6人くらいしか集まらなかったけど(笑)めちゃくちゃ盛り上がった。即興で小説を書けと言われたら案外書けるもんなんだなあと、それなりに手応えもあって。時を経てコロナ禍で友人たちと集まってボードゲームができなくなったときに、このときの体験とnoteが掛け合わさって、これだ!と」

200枚のことばのカードは、600個のアイデアから厳選されたもの。

「アイデアを生むプロセスとして、僕はいろんな案を出して最終的に一番いいものを選ぶスタイルなんです。このゲームのお題となることばも、思いつく限り600個書き出して、これはほしい!という組み合わせを考えながら300個に絞って、最終的に200個を選んだ。『ハナ』とか『MD』とか『のおと』とか、これなに?ってひとによって捉え方が変わることばを入れたのがこだわりです」

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監修を務めたショートショート作家の田丸雅智さんによる、物語をつくるときのヒントカードも入っています。完成したあとのテストプレイは、大いに盛り上がったそう。

「『イライラする・めがね』ってお題になったとして、制限時間が3分だと短いと思うかもしれないけど、これが意外と書けるんですよ。はじめて書いた小説をひとに見せるのは恥ずかしいんですが、きっとみんな褒めてくれるから大丈夫。仲のいいひとたちとの遊びの場で面と向かって批判はしないし、自分も褒められたいですから(笑)。このゲームではじめて書いた小説が褒められることで、物語の創作をたのしめるようになって、さらには未来の小説家が生まれたら、最高にうれしいですねえ」

noteでは、高橋さんと田丸さんにショートショートの書き方を学びながら、参加者のみなさんと「ショートショートnote」で遊ぶイベントも企画中です。

「僕はゲームやおもちゃをつくるとき、どういう流れで会話が生まれて笑いが起きるかを考えています。やっぱりそこから。家庭でもギャグを言ったりして妻と子どもたちをいかに笑わせるかばかりを考えていますし。体力はないので僕にはそれしかできない。これからもひとを笑わせられることなら、なんでもやっていきたいと思っています」

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■noteクリエイターファイル
高橋晋平/おもちゃクリエーター

株式会社ウサギ代表。おもちゃ・ゲーム系プロダクト/遊び系事業開発支援。∞プチプチ、simpei、OQTA、アンガーマネジメントゲーム、MouMaなど。落研出身/全国で講演。『企画のメモ技』など著書4冊。
note:@simpeiidea
Twitter:@simpeiidea

text by 徳 瑠里香  photo by Takahiro Tamaoki


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