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メディアワークス文庫が「いま読みたい作品」とは?── 既存ジャンルを超える、新しい設定の作品に出会いたい #創作大賞2023

7月17日まで募集している、日本最大級の投稿コンテスト「創作大賞」。第2回となる今回は、15の編集部に協賛いただき、優秀作品は書籍化や連載などのクリエイターの活躍を後押ししていきます。

「どんな作品を応募すればいいの?」というみなさんの疑問や悩みにお答えするため、協賛編集部の「メディアワークス文庫」編集部の遠藤充香さん、大谷美貴さんのおふたりにインタビューを行いました。

ミリオンセラーになった『ビブリア古書堂の事件手帖』や『神様の御用人』など、多岐にわたるジャンルの小説を刊行するキャラクター文芸レーベルのメディアワークス文庫。創作大賞では、「おもしろければなんでもあり」ということで、複数の部門に参加中。このインタビューでは、“おもしろい” 作品をつくるためのポイントをお聞きしました。

メディアワークス文庫とは

 「おもしろければなんでもあり」な編集部

——遠藤さん、大谷さんのそれぞれ担当した作品をおうかがいできればと思います。

遠藤さん(以下、遠藤) 私がメディアワークス文庫で一番最初に担当したのは、電撃小説大賞の受賞作『博多豚骨ラーメンズ』でした。この作品は、博多の人口の3%が殺し屋であるという設定のもと、裏稼業の男たちが法でさばけない悪を斬る痛快群像劇でして。コミカライズとアニメ化を果たしました。

ほかにも、ラブストーリーやサスペンスやミステリーなども担当してきましたが、青春小説を担当していることが多いかもしれません。

——さまざまなジャンルの作品を担当されてるんですね。

大谷さん(以下、大谷) そうですね。小説だけでなく、漫画もやります。私は『まめきちまめこニートの日常 こまちとタビ』という漫画の担当もさせていただいています。

——メディアワークス文庫の読者層についても教えてください。

遠藤 創刊当時は30代以上の女性が主読者層だったのですが、来年(2024年)で創刊15周年を迎えることもあり、現在は40代以上がメイン層です。ほか、ここ数年で、映画化もされた『今夜、世界からこの恋が消えても』や『君は月夜に光り輝く』などの青春小説系のヒット作もあり、10、20代の読者も男女問わずふえています。


既存ジャンルを超える、新しい設定の作品を

——続いて、今回創作大賞に参加いただいた理由をうかがいます。「電撃小説大賞」という長年続いているコンテストもありますが、どうして創作大賞に参加してくださったんでしょうか?

遠藤 編集部としては、次のヒット作になるおもしろい作品を常に探しています。その一環として、「カクヨム」や「小説家になろう」、「魔法のiらんど」といったプラットフォームで、才能のあるクリエイターを見つける活動をはじめました。それぞれで魅力的な作品が生まれていることを感じながら、さまざまなコンテストにも参加しています。今回の創作大賞では、noteには小説以外の作品も数多く投稿があることから、ジャンルを超える作品が集まることを期待して、参加しました。

——おふたりが読むなら、どんな作品を選びますか?

大谷 設定の目新しさや新しいアイデアがある作品をぜひ読んでみたいです。売れ筋の作品が登場すると、そのスタイルを追従する作品がふえる傾向にあると思います。それらは原作にちょっとしたオリジナル要素を加える程度に留まりがちです。だからこそ、まったく新しいエッセンスを持った作品に出会いたいと思っています。

遠藤 私は、エッセイやコミックエッセイなどに見られる、ジャンルの枠を超えたテーマについて書かれた作品を読んでみたいです。個人的にとても感動した漫画に、特殊清掃員という実在の職業を描いた『不浄を拭うひと』という作品があるのですが、そういった特異な体験や深い理解を元にした作品に興味があります。これらの作品は、誰かの経験と知識が生み出す、ほかでは得られない視点とリアリティーを持つからです。

noteには、自分の職業や生活経験を元にしたユニークな作品を発表するクリエイターが潜んでいらっしゃるのではないかと期待しています。

大谷 作品に自身の体験を反映させることで、説得力は格段に高まります。読者層が40代以上になると、みなさん仕事経験や知識があるため、作品のリアリティーや説得力を求められるように感じます。だからこそ、そのような読者のみなさんを納得させられるように、さまざまな設定をしっかりと深く理解し、作品に落とし込むことが必要だと思っています。


おもしろさのつくり方

作品をおもしろいと感じる読者の顔がイメージできるか

——作品では、どんなところを見ていますか?

遠藤 「この作品をつくる動機」が作家さんにしっかりとあるかどうかを見ています。文章が上手いかどうかって、実はあまり気にしていません。文章の技術は一緒に上手くなることができますが、動機の強さは作品の魅力を大きく左右します。

そして、読者の顔が見えているか。つまり、だれがその作品をおもしろいと思って読んでくれそうか。読んでほしいひとたちにどんな夢を与えたいかとか、そういったビジョンがしっかり見える作品は担当したくなりますね。

大谷 私も同じような感じですね。この作品全体で伝えたいことがしっかりとしていて、この作品の売りはここだと一言で明示できるものが伝わってくるような作品。そういったものがあるといいなと思いますね。

——ほかには何かありますか?

遠藤 少し技術的なことになるかもしれませんが、物語をきちんと終えられているどうかも大事です。たとえ続編のある物語であっても、書籍化の際には一冊ごとに区切りをつける必要があります。期待感を残しつつ、応募作の終幕をきちんと締めることが大切です。

なので、もしアドバイスをするなら……「一度きちんと物語を終わらせる」ということを意識してもらうといいかもしれません。なぜなら 「いいセリフ」と「いい終わらせ方」だけは、編集者から教えることが難しいからです。


セリフは「つくる」のではなく「言ってもらう」感覚で

——続いて、キャラクターやセリフのつくり方についてお聞きしたいです。

遠藤 キャラクターについて考えるとき、まったく新しいものが読者に受け入れられるわけではないことを認識しておく必要があります。キャラクターが読者から共感を得られるかや、感情移入できる装置になりうるかどうかは非常に大事なポイントだと思います。

富士見L文庫の『わたしの幸せな結婚』は、多大な困難に直面する主人公が、権力も美貌もある青年と運命的に出会い幸せになっていく、いわゆるシンデレラストーリーです。このような一定の型が存在し、その型のなかでキャラクターが光り輝くセリフを言うとき、読者は感情が動かされ、キャラクターに対する好感度が高まります。

たとえば、あまりにも仕事ができる女性キャラクターは、感情移入しづらいと感じられて嫌われることがあります。なので、読者の需要やストーリーの典型を理解した上で、どの部分に新しさを付け加えていくかを意識してもらえればと思います。読者が読んでいて応援したくなるキャラクターをつくることが理想ですが、最終的には、没入したくなる、こうなりたいと思ってもらえるキャラクターになれば最高ですね。

——逆に、推奨しないキャラクターやセリフのつくり方はありますか?

大谷 たとえば、特定のエピソードを進行させるために、無理やりキャラクターに言わせてしまうような展開。キャラクターは一人の人間として描かれるべきで、彼らがどのような思考を持つのかを理解し、その上で行動させることが重要です。

実際に出会った人を元にキャラクターを考えたり、実際の会話からおもしろい結末をつくり出すといった方法も効果的。これはファンタジー作品にも当てはまります。ファンタジー作品は現実から離れているかもしれませんが、実際にはリアリティーを表現する機会はたくさんあります。人間関係やシチュエーションといった普遍的な要素はどの世界にも存在するので、それらを用いてリアルさを出すことも可能だと思いますよ。

——編集者のおふたりは、作家さんが考えたキャラクターに対してどうフィードバックしますか?

大谷 初稿を読んだときに、キャラクターの個性がつかみにくく、行動や思考に一貫性がないと感じた場合は、「このキャラクターの背景は何で、なぜそのように思考したのか?」と確認することもありますね。

時には「このキャラクターたちが特定の状況でどのように行動するのか?」といった具体的なシチュエーションを想定して、作家さんに聞いてみることも。たとえば「もし彼らが喫茶店で会話を交わすとしたら、何を話すだろう?」といった具体的な場面を考えてみるとか。それらのシチュエーションを通じて、キャラクターの行動や思考を具体化することが重要です。そうすることで、地に足がついたキャラクターになるはずです。

遠藤 作家さんとの会話で、「キャラクターにセリフをつくるのではなく、セリフを言ってもらう感覚にならないと」というやりとりをよくしますね。前者では、何かを達成するためにキャラクターにセリフを言わせる目的が見えてしまいますが、後者では、シチュエーションと目的を伝えたあとはキャラクターは自由に行動できるからです。

これは、舞台や演劇に近い感覚かもしれません。舞台に立つまでには役者に演技指導を行い、特定のシチュエーションでの対応を伝えますが、一度舞台に立ってからは役者に任せるというような。キャラクターが自由に動き、物語が自然に進むようにすることが大事だと思います。


クオリティーを上げるには誰かに読んでもらうこと

——作品のクオリティーを上げる方法はありますか?

遠藤 誰かに読んでもらうことだと思いますよ。周りにいる本好きの友人や知人に読んでもらうだけでもいいと思います。みなさんの原稿は何万人もの人々に読まれる可能性があるわけですから、他人に読ませることを怖がってしまったらもったいないですよ。

——最初に公開して、その後推敲を重ねていくこともアリですよね。

大谷 そうですね。作品をnoteに公開して、さまざまな人に読んでもらうのもいい方法です。コメントやフィードバックをもらったときは、それを元に自分で考えて修正するかどうか検討するといいかもしれません。

遠藤 自分が書いたことをいったん忘れて、自分自身を読者に変えたとしても、その作品がおもしろくて笑えたり、感動して泣けたりするなら完璧ですよね。書きながら泣いたっていう作家さんもいますから。大号泣しすぎて危うく家族に通報されそうになったこともあるそうです(笑)。


応募者に向けたメッセージ

——最後に、応募するクリエイターに向けたメッセージをお願いします。

遠藤 6部門もエントリーしているって時点で、だいぶ欲張りですよね(笑)。だから、「おもしろければなんでもあり」と編集部メッセージにも書いたとおり、自分がおもしろいと思う作品をぜひ応募していただければと思います。

もちろん、自分がおもしろいと思うのは最も重要なことです。しかし、それだけでなく、ほかのひともおもしろいと感じる視点を持つことが必要です。

大谷 多くの読者は、さまざまなジャンルの作品を読みます。そのため、ひとりの人間が「おもしろい」と感じるものは多様なはず。それは、特定のジャンルだけが優れているわけではないという意味です。大事なのは、「誰にとって」その作品がおもしろいと感じられるのか、と考えること。そのひとにとっておもしろい作品であれば、どのジャンルでも読んでもらえるはずですから。


メディアワークス文庫
2009年12月創刊のキャラクター文芸レーベル。ミリオンセラーとなった『ビブリア古書堂の事件手帖』や『神様の御用人』のほか、エンターテインメント・ノベルとしてラブストーリー、ミステリー、中華ファンタジーなど、様々なジャンルの小説を刊行。 コミック、実写ドラマ化などメディアミックス展開も盛んで、 近年では電撃小説大賞受賞作から『ちょっと今から仕事やめてくる』や、青春ラブストーリー『君は月夜に光り輝く』、『今夜、世界からこの恋が消えても』などが映画化・大ヒットを果たしています。

https://mwbunko.com/ 


創作大賞のスケジュール

  • 応募期間     :4月25日(火)〜7月17日(月) 23:59

  • 読者応援期間:4月25日(火)〜7月24日(月)23:59

  • 中間結果発表:9月中旬(予定)

  • 最終結果発表:10月下旬(予定)


創作大賞関連イベントのお知らせ

【毎週木曜20:00〜】創作大賞RADIO

5月11日から週替わりで協賛編集部の担当者が出演し、求める作品像や創作のアドバイスなどをお話しします。

詳しくは、創作大賞特設サイトをご覧ください。


開催済みイベントのレポート

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『ジャンプ』とともに歩んできた小説レーベルであるJUMP j BOOKSは、オリジナル作品をはじめ、『岸辺露伴は動かない』『鬼滅の刃』などのノベライズを刊行しています。「漫画家の作品というお題に沿って物語をつくる才能もみたい!」ということで、お題のイラストを提示。編集長の千葉佳余さんに、JUMP j BOOKSが出会いたいクリエイター像や、お題として提示されたイラストの意図、イラストから物語を膨らませるためのポイントなどを伺いました。


text by 平野太一

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