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「読者に対して真摯であること」 経済ジャーナリスト・後藤達也さんに聞いた、2万人が直接課金する個人メディアのつくり方

経済ジャーナリストの後藤達也さんは2022年4月、日本経済新聞社を退職してフリーランスになると同時にnoteを開設しました。

noteでは「経済をわかりやすく、おもしろく」発信する月額メンバーシップを運営。約半年で毎月2万人以上が購読するサブスクメディアに成長しています。

後藤さんのnoteでは月額500円で読み放題の経済記事が月15〜20本。
後藤さんのnoteでは月額500円で読み放題の経済記事が月15〜20本。
ニュースが多い月は30本以上の記事が出ることも。

40歳を過ぎて退職を決めた理由から、個人メディアのつくりかたまで。ネットで継続的に発信するためのコツを後藤達也さんに聞きました。

会社を辞めた時は本当にどうなるかわからなかった

ーー独立してフリーのジャーナリストとして活動しはじめて1年が経ちました。最初の1年間をご自身ではどう評価されますか。

会社を辞めた時はどうなるかまったくわからなかったんです。それこそnoteやYouTubeをはじめてみようとは思っていましたけど、それがどれくらい伸びるのかなんてわからないわけで。

自分の生計を立てるためにnoteはいずれ課金もしようかなと思っていました。日経新聞時代に使っていたTwitterアカウントがフォロワー37万人くらいでした。ただ、だからってnoteの有料会員に何人来てくれるかは読めないですよね。

Twitterなんてフォローするのも、フォローを外すのも気軽なもの。それとクレジットカード情報を登録して課金するのって全然ハードルが違うので、いざnoteで課金しますって言ったら、100人も集まらない可能性だってあるわけです。

ーー 7月からnoteのメンバーシップを開始しました。どのタイミングで手応えを感じましたか。

申し込み開始から6時間くらいで1000人を超え、5日ほどで3000人を上回りました。想像の上限を大きく上回る出足で驚きました。Twitter を見てくださるのもうれしいですが、「おカネを払ってまで読みたい」と思ってもらえるのはおカネそのものよりもありがたいことです。

ちゃんとした手ごたえという意味では、その後の解約が少なかったことも大きいです。月に会員の5%前後の退会はあるのですが、サブスクに詳しい人に聞くと「10%以内ならかなり上出来」とも聞いていました。

なので、月を追うごとに購読者に評価していただいているという自信につながっていきました。

経済ジャーナリストの後藤達也さん
経済ジャーナリストの後藤達也さん

Twitter、note、YouTubeをどう使いわけるか

ーー以前、Twitter、note、YouTubeを「三本柱」として運用していると仰っていました。それぞれどのような役割分担なのでしょうか。

まず、Twitterはアウトプットの形として短文と写真1点くらいですが、最大の強みはやはり圧倒的な拡散力です。日本のユーザー数は膨大で、もっとも効率よく、幅広い層にアプローチできるプラットフォームだと思います。

noteは長文のテキストが中心です。マネタイズもできるので直接課金のできる新聞記事に近いイメージですよね。

YouTubeは動画なので同じことを説明するにしても人から時間を奪ってしまいますが、よりビジュアルで効果的な伝え方もできます。広告収入という形でマネタイズも可能です。

この3つはいろんな人にとってアクセスしやすい媒体だと思いますし、自分自身のアウトプットの形にはまりやすいプラットフォームなので三本柱としています。

ただ3つの柱というのは、あくまで退職するときに考えていたことです。実際1年ぐらい経ってみると、noteはマネタイズという意味でも極めて大事になってきた一方で、YouTubeはリソース配分を少し落としていて、3本柱ではなくなっているかもしれないですね。

それにYouTubeはやっぱり手間がかかりますから、最近は外部とのコラボの場所として活用しています。ReHacQやNewsPicksさんとも収録していますし、外の会社や団体と協力してやっていきたいと思っています。テレビや書籍も大事ですし、TikTok とかほかのプラットフォームも今後は力を入れていきたいです。

1つの会社に40年間居続けることのリスク

ーー後藤さんは常にプラットフォームごとのバランスを意識していますよね。フリーランスとして独立するときには「60歳まで同じ組織にいること、それ自体がリスク」と仰っていました。

いまは「人生100年」時代なので60歳以上になっても、良くも悪くも元気です。「長生きリスク」とも言われますよね。元気で過ごしていたら、それだけ消費もしたくなるし、年金だけでは苦しい。60代・70代になって現役時代ほどお金を稼げなくても、ある程度は生活していけるくらいのお金を得られることこそが「老後の備え」だと思うんですよね。

その点で言うと、いまの会社のシステムだと、60歳や65歳まで1つの企業のルールに従ってパフォーマンスを出してきた人には、そこを離れると一切通じなくなるリスクがあると思います。それが私が退職を決めた大きなポイントです。日経新聞にすごく不満があったとか、やっていた仕事がつまらなかったというわけではありません。

経済ジャーナリストの後藤達也さん

長い目で見たらいまの40歳ぐらいの年齢で、ふんぎりをつけて抜け出すのが老後の備えだと思った、ということです。そしてその結果として、やっぱり世界は広がりました。

人脈も広がるし、フォロワーといいますか、私のことを知っていただける方々も増えてきましたので、そうするとまた一方で新たな仕事も見えてきます。スティーブ・ジョブズが言った「コネクティング・ザ・ドッツ」という言葉が好きなんですけど、いろんなことを試していると、後になってそれらがどんどんつながってきて新しいものが生まれるっていう世界が、いま目の前に広がっています。

もちろん1つの会社でしっかり勤め上げることにやりがいがあったり、適性があったりすることもあるので、全員辞めたほうがいいですよ、なんて無責任なことは言いません。

ただ、1つの会社に40年間居続けることは、特にいまの時代は相応にリスクがあるなと個人的には思っています。

直接課金で大事なのは「長期的な信頼」

ーー記者のその後というと、いろいろな仕事があると思いますが、後藤さんはnoteの読者から直接課金を得ています。そこのメリットはいかがでしょうか。

まずは、どれだけキレイごとを言っても収入がなければ持続できません。その点ではnoteのようなメンバーシップ型は、作り手と読者の皆さんがコンテンツを通じて、信頼を築いていくイメージです。お互いに長い目でWin-Winになれると思います。

クリエイターは購読者に喜んでいただけるよう、感謝の気持ちをもって、コンテンツをつくり、購読者は応援の意味も込めて、気持ちよく課金していただいていることも多いと思います。

そこは広告収益モデルとは作り手目線で相当違う点だと思います。過去にnoteの記事でも書きましたけど、広告収入はその瞬間にどれだけ見られたかが極めて大きいわけですよね。だからサムネイルも煽り気味になりがちだし、話すこともエッジを利かせるようになります。

たとえば、YouTubeでは両論併記のように「Aもいいけど、Bみたいなところもあるよ」ってリスクヘッジしてしまうと、コンテンツのエッジが立たなくなる。「Aです、Aですよ」「皆さん、Aですよ」「いいですか、Aです!」みたいな感じの伝え方のほうがよく見られるんです。

でも、それってバランスを欠いていますよね。Bの要素も伝えるほうが真摯な情報発信だと思います。ビューは稼げないかもしれないけれど、長期的に信頼してもらうためには真摯さは大事です。

それに対してnoteみたいなメンバーシップ型になると、継続課金なので「煽り」や「バランスを欠いたコンテンツ」があったら、こんなのもう読みたくないよ、とフォローを外されて終わりなわけです。

だから当然、目先の1ヶ月の収益を上げることよりも、長く続けてもらうことのほうが重要ですよね。「いま読まれる」より、「何年後、何十年後も信頼してもらえる」ことに意識を置いて、コンテンツをつくっています。

ーーnoteのメンバーシップに入ってもらうために何か工夫されていることはありますか。

やっぱりTwitterが起点になっているところが大きいです。明確に分析しているわけではなくて肌感覚ですけど、まずTwitterで私の存在を知ってもらって、認知してもらった上でnoteに来てくださるというのが基本動線だと思うんですね。

なのでTwitterを見てくださっている方に、noteのリンクを踏んでやってきてもらえるような工夫はしていますし、その上で「これなら月に500円払ってもいいな」と思ってもらえるコンテンツや見せ方は意識しています。

組織ジャーナリストの本当のライバルとは

ーー後藤さんは新聞記者時代から積極的にSNSで発信してきましたよね。

そうですね。他にもやっている記者がいて、おもしろそうだなと思って自分でもやってみました。いまから振り返ればSNSに挑戦して本当によかったと思います。

ーーそれはどんなところでしょうか。

新聞記事って、多くの上司や同僚と議論しながらつくっていくものなので、最終的に自分の書きたい要素が世の中に出ないこともあり得るんですよね。

それに対してTwitterは100%書きたいことを書けるし、「書かない」という選択もできるので、しがらみがなく発信できる。そして読者の声もダイレクトに見える。「これおもしろいかな?」と思ったら全然反響がなかったり、逆に「これちょっと受けるかわからないけど」って公開したらものすごい反応があったり、その試行錯誤がやりまくれるわけですよ。

その結果、自分だけでつくったものが外からダイレクトに評価されるのがすごくおもしろくて、一気に風穴が開いて、世界が広がりました。もっと風穴を広げたい、他のこともやってみたいなと独立を決めました。

いまの時代って本当にどんな人が何に関心を持っているかってわかりにくいし、仮にそれがわかったとしても、すごいスピードで移り変わっていく。でも組織ジャーナリズムだと社内調整が必要だし、10年前・20年前の成功体験を引きずって新しいチャレンジができなくなっている面も否めないと思います。

この先、5年〜10年で組織よりも個人の発信力にどんどん比重が移っていくと思います。これは私みたいに新聞社を出て個人でフリージャーナリストを名乗る狭義のケースだけではありません。

わかりやすい例で言うと、成田悠輔さんや堀江貴文さん。高い知名度でファンも多く、自身のSNSでも自由に発信できる。彼らは政治家や経営者ら、各界で活躍している人ともたくさん会っている。ある意味でジャーナリストなんですよ。

読んでくれるファンがいて、発信できるプラットフォームが手元にあり、かつ場合によってはサラリーマンジャーナリストよりも取材をしているんですよね。

なので、ときどき「後藤さんのライバルって誰ですか?」と聞かれることがあるんですが、伝統的な報道機関よりも、こうした人たちではないかと思うこともあります。

そんな動きはどんどん広がっている。伝統的な報道機関は他のいろいろな場所にいる「個の発信者」と対峙していかなければならないと思います。

この記事のインタビューはメンバーシップ参加者向けの公開取材として行われました。
この記事のインタビューはメンバーシップ参加者向けの公開取材として行われました。
参加者の皆さんも積極的に質問されていました。

ネットの発信で実験「やらない手はない」

ーーそうするとたとえば、いま新聞社に勤めている若い世代は、少しずつ自分のコンテンツを外のプラットフォームで実験してみるとか軸足をずらしていく活動は求められそうですね。

そうでしょうね。会社がどこまで認めてくれるのか、というのは別問題だと思いますけど、やらない手はないと思います。日経新聞にいたときも後輩に「Twitterは絶対にやった方がいいよ」って言っていたんですけど、人によっては慎重ですよね。

「うまくいかずに失敗したら恥ずかしい」とか、「批判をされるのが怖い」とか、二の足を踏む人もいるんですけど、記者って、自分で取材して責任を持ってアウトプットして、時には批判されることも覚悟して、責任を持ってアウトプットしているわけですよね。

だから、TwitterやSNSを怖がるのは、つじつまがあわない気がしますし、もったいないと思います。

ーー今後、ネットでの発信や活動でやっていきたいことはありますか。

ちょっと偉そうですけど「金融リテラシの健全な向上」という私なりのミッションがあります。これは10年経っても20年経っても変わりません。

それを実現する手段がいまはnoteやYouTubeなんですけど、これから何がどう変わっていくのかはわからないですよね。半年後にはTwitterの形も相当変わっているかもしれません。だから年単位で目標を立てること自体にはあまり意味がないと思っていて。

いま出版の準備もやっていますし、他のいろいろなプロジェクトを水面下で検討している段階です。おもしろそうなことはどんどんやっていきたい。それで1年経ってみたら、1年前には想像していなかったような人たちと仕事をしていたり、想像してなかったような喜びとか発見を感じられたりする世界ができていればいいなと思っています。

後藤達也さん
note:https://note.com/goto_finance/
Twitter:https://twitter.com/goto_finance


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