「喫茶ランドリー」をつくった、グランドレベル田中元子さん・大西正紀さん #noteクリエイターファイル

noteで活躍するクリエイターを紹介する #noteクリエイターファイル 。今回は、まちに暮らす“あまねく人”に開かれた「喫茶ランドリー」を運営する株式会社グランドレベルをご紹介します。創業者の田中元子さんと大西正紀さんに、設立の経緯や、めざすまちづくりについてお話をうかがいました。

グランドレベルは「1階づくりはまちづくり」という理念のもと、そのまちに暮らす人々の能動性を高める空間づくりを行うプロフェッショナル。2016年に、事業の一つである東京・墨田区千歳にあるランドリーカフェ「喫茶ランドリー」の取り組みに注目が集まっています。

そのきっかけのひとつとなったのは、2018年1月のオープンから数週間後に投稿された1本のnote。

2016年から「グランドレベル研究所」と題してコペンハーゲンをはじめとする、世界各国のまちの一階の分析をnoteで発信し続けてきたグランドレベルの大西正紀さん。「喫茶ランドリー」オープン後、リリースでは語りきれなかった背景にある思いを丁寧に綴ったnoteは大きなバズを生みました。

(大西正紀さん)

「オープンして少しずつまちの人に知れ渡った頃に、noteがバズって、遠方からもお客さんが来てくださって、1ヶ月くらいずっと満席状態が続いていたんです。僕たちもオープン直後で手が回らなくて、食器が山積みになっていたんですが、その時に、お客さんが食器を洗い始めたんですよ!『このコーヒー、誰のですかー?』『ここですー』なんて会話も飛び交っていたり(笑)、人が来ると『僕ら出ます』とお客さん自ら声をかけてくれたり。あの時の一体感はすごかったですね」

“お店の人とお客さん”という関係性ではなく、同じ空間を共有する人として、その場所にいる人たちが自由に、能動的に動いていく。喫茶ランドリーでは、そんな光景が日常茶飯事。ママさんたちがパンをこねて、近所の自宅で焼いて、打ち合わせ中のビジネスマンにおすそ分けしたり、ミシンイベントがある日始まったり、子どもたちが駆け回っている横で、おばあちゃんが編み物をしていたり。

0歳から100歳までが集う、“内”と“外”の境界線を引かない「喫茶ランドリー」はどのようにして生まれたのか? グランドレベルの大西正紀さんと田中元子さんご夫妻のお話からその物語を紐解きます。

ネットで出会い、クリエイティブユニットを結成。“建築”を伝える

そもそものはじまりは今から20年近く前に遡ります。大西さんと田中さん、おふたりの出会いはインターネット。90年台後半、まだネット人口が10%未満だった頃、当時フリーターで建築に熱中しはじめていた田中さんは、建築の話をする友だちが欲しい!とYahoo!に掲示板を立てます。そこに書き込みをしたのが、当時大学で建築を学んでいた大西さんでした。

(田中元子さん)

「そのオフ会で出会って、付き合ったんです。そのうちに大西が大学に行く時に私もついていくようになって、彼が授業に集中している間に、私は周りにいる人たちに『何つくってんの?』『建築家は誰が好き?』とか話しかけて、望み通り建築の話をできる友だちをつくることができました(笑)」(田中さん)

90年代末から2000年にかけて、仲間たちと現在表参道ヒルズのある場所に建っていた「同潤会青山アパート」の再生を訴える運動をしていたおふたり(※2003年解体)。取材を受ける機会が増え、田中さんはその流れで出版社の担当者に声をかけられ、ライターとして建築にまつわる執筆活動を始めます。

大西さんは当時、ロンドンにあるアトリエ系建築設計事務所に就職したものの、会社が倒産してしまい帰国することに。そのタイミングで、ふたりでクリエイティブユニットmosakiを共同設立し、建築にまつわるメディアやイベントづくりを中心に活動してきました。

「ライターになりたいとか、何者かになりたいといのは全くなくて、とにかく好きな建築の役に立ちたくて。建築家向けというよりは、一般の人たちに向けてわかりやすい言葉で建築の魅力を伝えていきたいという思いが今でも変わらずあります」(田中さん)

現在も、田中さんは著書『グランドレベルとマイパブリック』(晶文社)を出版、大西さんはnoteを拠点に、それぞれ建築にまつわる発信を続けています。

大西さんのnoteの文章がわかりやすいのは、10年来建築を“伝える”仕事をされてきたから。それでも当時の大西さんは田中さんいわく「日本語が不自由だった」とか。

「それこそ、大学受験の時は、国語の偏差値50くらいだったんでした(笑)。それでも、mosakiで編集者として10年以上、いくつも田中の文章に触れているうちに憑依してきて、書けるようになりました。ただ未だに書くのには時間がかかりますね。特にnoteは反響が大きい分、一発勝負。自分が納得するまで何日も練って書いています」(大西さん)

「自分の手癖が憑依していて恥ずかしい」という田中さんは大西さんのnoteは一切読んでいないそう。冒頭のnoteの記事も「バズったらしいね」とちょっと他人事(笑)。

「1階づくりは、まちづくり」趣味の屋台から株式会社設立へ

建築にまつわるメディア発信からはじめたおふたりが次に行き着いたのは「コーヒーの屋台」。そこからグランドレベル、喫茶ランドリーへと発展していきます。

「あの、でも、屋台もグランドレベルも喫茶ランドリーも全部、私の見切り発車なんですよ」(田中さん)

2013年当時、神田の雑居ビルの4階に構えていたオフィスに自家製のバーカウンターをつくって、訪れた人にお酒をふるまっていた田中さんは、まちに繰り出したい!と思うようになり、オリジナルの「パーソナル屋台」を建築家に依頼して制作。自分の屋台を引いて、公園などで無料で珈琲をふるまうプロジェクトを始めました。そして、屋台を引いてまちに出るうちに、グランドレベル(1階)の重要性に気づきます。

「屋台は自分の“趣味”としてやっていたんですけど、ふるまうことで人が喜んでくれて、その場所がちょっと賑わって、そういう目の前の現実が、究極は世界平和につながると思ったんですよ。そんななかまちの1階が目につくようになって、“グランドレベル(1階)が街をつくっている”と確信すると同時に、日本のまちの1階には人の居場所が圧倒的に少ないことに危機感を覚えて。例えば4階に人が集まっていても、まちの人は誰も気づかない。まちの人と変化を共有するためにも、まちづくりは、1階からコトを起こせ!という気持ちになって、1階の専門家になることにしました」(田中さん)

「僕らは、“まちづくり”という気負いはなくて。ただ人が好きで、そこに暮らす人たちにとってまちに居場所がない状態と、1階がもったいない使われ方をしているのをなんとかしたいと思ったんです」(大西さん)

今ではそう語る大西さんですが、当時は田中さんの思いにすぐに通じたたわけではなかったと言います。田中さんも「いつもはじめは何も通じないよね」と笑います。

「急に“1階づくりはまちづくり”だから株式会社をつくると言い出して、何の事業をするの?と聞いても、わかんないと。それでも、株式会社をつくるんだと言って聞かなくて。当時の僕らは個人事業主で、それまでの仕事も軌道に乗ってきたので、法人化の準備もしていたのですが、それも諦めて、もう勝手にしてくれ、と(笑)」(大西さん)

「乗っ取ったんです(笑)。多くの人が通行するようなポテンシャルの高い土地は、行政や鉄道会社が持っているケースが多いんですよ。そういう場所をよりよくする私は行政や大手と仕事をすることになるから、個人事業主じゃなくて、株式会社じゃなきゃだめだ思ったわけですね」(田中さん)

こうして2016年9月、1階に特化したまちづくりを行う「株式会社グランドレベル」が創業されます。その過程で、ふたりはコペンハーゲンですばらしいグランドレベルを体験。大西さんもすっかり魅了され、その熱狂を伝えたいがためにnoteをはじめたほど。

(左 : 田中さん / 右 : 大西さん)

スタッフもお客さんも“あまねく人”が自由に動く「喫茶ランドリー」誕生

グランドレベルを立ち上げた頃、建築不動産コンサルタントの友人から、墨田区の住宅街に建つ築55年の建物を再生し、1階にどんな事業を入れるべきかという相談をもちかけられたおふたりは、コペンハーゲンで印象に残っていたランドリーカフェを提案。ところが、自分たちが理想とする“ランドリーカフェ”に理解を示し実現してくれる事業者は見つからない。しかもコインランドリーに置かれる洗濯機は想像以上に高額! でも、その困難をプラスに変えてしまうのがグランドレベル。

「事業者が見つからなかったので、自分たちでやることにしました。途中でコイン式の洗濯機が高くて購入できなかったことで、挫折しそうになったのですが、建築家が私たちがコインランドリー業をやりたいわけではなくて、あくまで、街に暮らす人々が気軽に足を運べる空間をつくりたいということを理解してくれて、『普通の洗濯機を入れたら?』と提案してくれたんです。そこからプロジェクトは一気にドライブして、ミシンやアイロンも設置した“まちの家事室”付きの喫茶店というコンセプトが生まれました」(田中さん)

オープン当初は手探りでお店に立ちはじめたおふたり。プレオープン初日には、レジも用意してなかったため、お釣りがなく、一週間ほどは屋台と同じように無料で珈琲をふるまっていたのだとか。アルバイトの募集もかけなかったと言います。

「人の手は借りたかったけど、お店の経験がないので、誰にどう頼んだらいいかわからなくて。コンビニとかによく『明るくて元気な人募集!』とか書いてありますけど、それ見てくるような人を取りたくない(笑)。うちは0歳から100歳まで、どんな人にも自由にくつろいでほしいし、何をしてもいい場所にしたかった。それは文字にしても伝わらないので、この場所、空間を好きになってくれて、その状態を維持してくれる人と一緒に働きたいと思って、公募はやめました」(田中さん)

現在、喫茶ランドリーで働くスタッフは、全員地域のママさんたち。その一人はアルバイトの初日にロールケーキを焼いてきて、「ここで売りましょう」と提案したそう!もともと珈琲とトーストしかなかった喫茶ランドリーのメニューは、その後、ママさんたちの提案でどんどん増えて、今ではカレーライスも食べられます。お店の家事室では、「うちの常連」だと言う男の子たちが遊んでいますが、彼らはママさんたちの息子さん。

「うちで働くスタッフは、珈琲飲み放題、洗濯回し放題、子ども連れて来放題です」(田中さん)

人の能動性を喚起して、クリエイティビティを爆発させたい

気取らないおしゃれさと安心感が同居する喫茶ランドリー。その空間づくりは明確なコンセプトを持って、田中さんが中心となって行ったそう。

「ここは何でもしてもいい自由な空間だけど、真っ白な空間ではなく、こんなことが起きたらいいなと思うことをデザインで誘導しているんです。人の能動性を喚起するという目的を持って空間をデザインしています。プロのクリエイターはクリエイティビティを安定供給するのが仕事だけど、本来クリエイティビティというものは万人に備わっています。それを刺激して、不安定に爆発させたい」(田中さん)

そのために、家具一つ、照明一つもこだわりを持って慎重に時間をかけて選んだそう。

「おしゃれ空間をただ消費するのではなくて、自分の道具のように愛着が湧くような安心感のあるものを選んでいます。私たちは日本の喫茶店や海外でも地元に愛されているようなカフェが大好きで、いろんな都市を訪ねるごとにたくさんのお店に足を運んできました。そういうところは全部、参考にしました」

喫茶ランドリーは特定の誰かではなく、まちに暮らす老若男女に開かれた「居心地のいい安心感のある場所」。

今後は、喫茶ランドリーでまちの人たちの能動性を刺激する実験を行いながら、建築やまちづくり、空間づくりのコンサルティングをてがけていきたいというグランドレベル。

「喫茶ランドリーは、編み物に工作や音楽演奏でも、普通やれる喫茶店です。『こんなことやっていんですか!?』と、びっくりされることもありますが、実はこういう“小さなやりたい”の実現こそが、ビジネスのはじまりだと思うんです。喫茶ランドリーは、都市や街の縮図だと思っています。常に人の能動性を刺激して、“小さなやりたい”が実現できるグランドレベル(1階)をつくり続けたいですね」(大西さん)

「今の日本は田舎のロードサイドの風景と都心の風景が、そんなに変わらなくなりました。没個性的な街に変わり続けていることに対して、どのようにして人の個性や能動性のスイッチを押す“デザインの補助線”を描いていくか。まだいろいろできること、やりたいことがたくさんありますね」(田中さん)


■ クリエイターファイル

田中元子
株式会社グランドレベル代表取締役。1975年生まれ。独学で建築を学び、2004年クリエイティブユニットmosaki(モサキ)を共同設立。2010年よりワークショップ「けんちく体操」に参加。2016年「1階づくりはまちづくり」をモットーとした株式会社グランドレベルを設立し、2018年「喫茶ランドリー」をオープン。主な著書に『マイパブリックとグランドレベル —今日からはじめるまちづくり』(2018|晶文社)ほか。
http://glevel.jp/
http://kissalaundry.com/
大西正紀
株式会社グランドレベル ディレクター・リサーチャー/ベンチ研究家。1977年生まれ。2003年日本大学大学院理工学研究科建築学専攻修士課程前期修了。その後、設計事務所 Ushida Findlay Architects UK勤務を経て、mosakiを共同設立。2016年、株式会社グランドレベルの創業に参画。以後、世界のベンチからパブリックスペースの活用、都市計画まで、グランドレベルの視点で世界の事例を研究している。
note : https://note.mu/masakimosaki

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