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人喰らう神々のこと III

数十年前にベストセラー作家となったカルロス カスタネダの著書「無限の本質」には、「捕食者」についての記述がある。師のドン ファンは、弟子であるカスタネダに伝えて曰く、宇宙は捕食的であり、人間は捕食者どものエサなのだと。

「われわれ人間が鶏舎で鶏を飼育するように、捕食者どもは人舎でわれわれを飼育する。そうしておけばいつでも食い物が手に入るってわけだ」(無限の本質 p.273)

宇宙の深奥から来たという捕食者は、人間の精神に、何らかの方法を用いて干渉し、思考を誘導し、苦悩と葛藤を抱えさせる。彼らにとっての栄養物を生成させるために。それが現代の人間存在であり、人々を苦悶させ続けるしくみが、意図的につくられたのだとも。

捕食者はわれわれ人間に唯一残されている意識の部分である内省につけこみ、意識の炎をつくり出して、それを捕食者特有のやり方で冷酷に食いつくしていく。(無限の本質 p.276)

これはまるで、ロバート モンローが記した、ルーシュを収穫する「誰か」のようではないか。

彼らはこれらの意識の炎を燃え上がらせる無意味な問題をわれわれに与える。われわれの疑似意識のエネルギーの炎を餌として食べ続けるために、そうやって我々を生かし続ける。(無限の本質 p.276)

カスタネダは、この話を聞いて、にわかには信じられず、しかし吐き気をもよおしたという。もし、これらの話が真実の一端をでも含んでいるのだとしたら、邪悪といわずして何といおう。

カスタネダは師から、捕食者による干渉はある時点からはじまったのだと教えられた。それ以前の人間は、もっと純粋でパワフルな存在だった。それが、あるときを境に、何らかの意図により、人間には捕食者の心が植え付けられ、いさかい、あらそいの絶えない世界が形成されたのだと。

人間は家畜同然であり、飼育されるなかで苦悩と葛藤にさいなまれ続け、その結果として、何らかの生成物(カスタネダのいう「意識の炎」、モンローの記した「ルーシュ」)を生産する畜物として飼育され続けている。

ところが、当の人間は、万物の霊長を自認し、食物連鎖の頂天に君臨する最上位の存在として優越感にひたっており、その実、苦悩と葛藤にまみれているという。これ以上の悲喜劇があろうか。

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