表記別おしっこ怖さ査定ノート
前置き 日本語の難しさ
日本語は難しい言語であると言われる。単なる噂である可能性もある。僕には真偽を判断できない。なにせ僕自身、第二外国語として日本語を学んだ経験がないからだ。英語やフランス語や中国語と比べたとき、日本語が抜きん出て難しいかどうかはわからない。
「自国語が他の言語に比べて傑出してなにかである」と主張することは、ことによってはナショナリズム的、あるいはエスノセントリズム的な意味合いをもってしまいかねない。あんまり根拠なく「日本語は他国の言語と比べて難しい」と言い切ってしまいたくない部分はある。
とはいえ、体感的事実として日本語はまま難しい。他の言語と比較してどうかはわからないが、とりあえず単品として見たときに易しい言語ではなさそうだ。僕自身、言葉の扱いについてはそれなりに学んできたし、日頃コントをしたり、文章を書いたりしている。先日は本も出した。そういう作業の中で、日夜日本語の難しさを実感する日々だ。
「日夜日本語の難しさを実感する日々だ」という短文にさえ、「日」という語が異なる読みをともなって3回出てくる。これは相当ややこしい。
そうだ、日本語はややこしい。難しいかはさておき、ややこしい。同じ意味を表す言葉があまりにも多い。ひらがな、カタカナ、漢字と表記法に3つもバリエーションがあるのもまたややこしい。僕自身、日本に生まれ育ったから多少は使いこなせているというだけだ。仮に外国に生まれていたならば、こんな面倒な言語を細かいところまで覚えようとはしなかっただろう。
前置きが長くなった。今日は「おしっこ」を表すさまざまな表現について、さまざまな表記法で見比べて、その怖さを査定してみようと思う。以降、それしかしない。
表記別おしっこ怖さ査定
No.1 尿
・全く怖くない
・最もフォーマルな表現
・学会などで用いられるのも頷ける安定感
怖さ:1(1〜5)
かなり安心できる部類の変換。
No.2 にょう
・ちょっとだけ怖い
・少し違和感こそあるが、ひらがなのためやわらかな印象
・真ん中の「ょ」の居心地が悪そう
・少し生き物じみている
・動いてそう
・生き物だとしたら爬虫類か両生類の感じ
・動くときの音も「にょう〜にょう〜」なんだろうなって思う
・途中から「うにょ〜うにょ〜」って思いそう
怖さ:2(1〜5)
はじめだけ気持ち悪いけれど、慣れればどうにでもなる変換。強気でいればいい。友達が飼ってるヘビとかトカゲとかに近い。だんだん慣れる。
No.3 ニョウ
・怖い
・角ばっているのに、型にハマってくれない感じがある
・それとなく緊張感があって、こちらに対して何かをしでかしてきそうなトーンがある
・本当に尿のことを思い浮かべていいのか、自信を奪われる
・わら半紙に書かれていそうだ
・昭和未解決事件に出てくる怪文書の響きがある
・猟銃が絡んでいてもおかしくなくて、Wikipediaとかでもまとめられていて、僕よりも祖父のほうが詳しい
怖さ:3(1〜5)
得体のしれない暴力の匂いがまとわりついていて、普通に嫌かもしれない。フリガナでギリ。単品で見るとちょっとおぞましい。ゾッとする。
No.4 しっこ
・怖くない
・そればかりか、無個性でさえある
・どこか郷愁にかられるところがある
・プリミティブだ
・物心のつくより前のよう
怖さ:1(1〜5)
優しい。どちらかと言えば、こちらが危害を加えないように注意する必要があるくらい優しい。
No.5 シッコ
・ちょっと怖い
・本当にちょっと怖い
・ぱっと見て、尿のことだとわからない
・何度見ても、まだ見慣れていないような感じがする
・都会的
怖さ:2(1〜5)
若干の緊張をしてしまう。上京したとき、やっぱり新宿とか渋谷、俺の場合は特に渋谷で緊張したのだけど、「シッコ」もそこからあんまり遠くない。渋谷〜原宿〜青山あたりのゾーンに近い。「シッコ」はお洒落なのかもしれない。高校生のファッションの最先端は「シッコ」なのかもしれない。なんか本当にそんな感じ。
No.6 おしっこ
・怖くない
・最もプレーンでカジュアルだ
・着飾っていることもなく、かといってざっくばらんでもない
・僕の身の程にあっている
怖さ:1(1〜5)
表題にできるほど見慣れているだけあって、親近感もある。本当にどうってことはないし、これが駄目になったら、もう全部駄目なんだろうなって感じ。
No.7 オシッコ
・めちゃくちゃ怖い
・肉を伴った変態性を感じる
・あくまでも愛だということにして、エスカレートしていく
・ときに、舐め回されそう
・もしくは、浴びられそう
・人が繁殖する仕組みについて疑いがなさそうで怖い
・笑顔がニタっとしてそう
・根源的な不快感がある
・自分が快感を得ることを知っているようにそこにいるキモさがある
・手続き的に吐き捨てるように言ってそうな荒々しさがある
・あまり自分にとって魅力を感じないアダルトコンテンツのよう
怖さ:4(1〜5)
怖い。離れておきたい。なんかたまにSNSとかで、風俗のレビューとかを見ることが有るけれど、そういうのに顕著な文体って感じがする。もしかしたら皆持ってるかもしれない部分だけど、隠さなきゃいけない場所、みたいな感じ。
No.8 小便
・怖くない
・フォーマルに近いが、同時に親しみやすさがある
・名付け方が大便ありきで、つつましさを感じる
・漢字の硬さがありつつも、少し優しさがある
怖さ:1(1〜5)
全然大丈夫なライン。「尿」のフォーマルさはそのままに、ちょっとだけざっくばらんにしたような感じ。全然普段から使いうる。
No.9 しょんべん
・怖くない
・悪ガキを装っているのが透けて見えて、かわいいくらいだ
・グレているくせに、まだやわらかな部分が残っているくらいの奴っぽい
・自分にでも、手懐けられそうな感じがある
怖さ:1(1〜5)
怖そうな気もするけれど、別に怖くない。どうにでもなりそうだ。僕の中にも「しょんべん」と言いうる要素はあるから、そこと手を繋いで受け入れるみたいな感じ。自分を受け入れることで受け入れる感じ。
No.10 ションベン
・実は怖くない、くらい
・別に少し怖い
・「しょんべん」よりも、少しだけ本格的にグレている感じがある
・本格的にグレているぶん、自分に手懐けられそうな感じはない
・本格的にグレているぶん、節度がある
怖さ:2(1〜5)
実害はないけれど、少し怖い感じ。ちょっとビビっちゃうんだけど、意外とそこまで大した過激さはなくて安心しちゃう、みたいなところがある。そこで好感度を上げすぎないことが大事なのかなぁ。
No.11 しょうべん
・怖くない
・表記としては見かけない割に、本当にまったく怖くない
・優しさと丸っこさと艶やかさが揃っている
・字面だけなら、うどんな気さえする
・見かけ無さも相まって、おしっこであることを脳が認識しなくて、だんだんうどんに思えてくる
・昨日の朝、450円で食べたような気さえする。もしかしたら、財布の中に「しょうべん」の割引券が入っているかもしれない。それを使えば大盛りが無料になってもおかしくない。なんかそれくらい油断してしまう。
・地方ショッピングモールフードコートの響きがある。「しょうべんはあんば並ばないのが良いよなー」とか言えちゃう。
怖さ:1(1〜5)
まったく怖くない。うどんな気さえするし、うどんだと思えばうどんになってくる。本当に怖くない。でも、別に内実はおしっこなので、油断大敵っていうことなのかもしれない。教訓がある。
No.12 ショウベン
・めっちゃくちゃに怖い
・猟奇的で、こちらに対して殺意がある
・「ニョウ」を全ての面において鋭くしたようだ
・機械の目をしていて、僕のことを睨んでいる
・ずっと「ショウベン、ショウベン、ショウベン…」とぶつぶつ言っていて、気持ちが悪い
・既に僕は顔を覚えられていて、次の角を曲がったところで、僕のことを待ち構えている。僕は何らかの怒りを買ってしまっており、彼が僕を許すことはないであろう絶望的な確信がある。。ついに僕は許されなくて、いつか僕は殺されてしまうかもしれない。この文章をショウベンに書かされている可能性だってある。避けられぬ死と、その後も続くであろう仄暗い地獄の響きがする
怖さ:5(1〜5)
怖いので、想像さえしないほうがいい。
怖い順
1 ショウベン
2 オシッコ
3 ニョウ
4 にょう
5 シッコ
6 ションベン
7 小便
8 尿
9 しっこ
10 しょんべん
11 おしっこ
12 しょうべん
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