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ひろゆきさんは経済学の知識がほぼ皆無だと思う理由

 NewsPicksというチャンネルにアップされた論破王ひろゆきさんと経済評論家の上念さんが経済について議論してるこの2つの動画に関して、経済学を学んだことがない人向けに解説したい。

「ミクロ」と「マクロ」は完全に別の考え方

 ひろゆきさんが「デフレでも好景気であれば問題ない」みたいな主張をしている。

「牛丼屋さんをやっているとして、200円から180円に価格を下げたら、倍売れました。だから利益は増えました。これ、何か困るんすか?」

 これは正直言って、経済学に触れたことのある人間なら誰しも「あ、本当になにも知らなそうだな」って思う発言。例えるなら「自民党と共産党の区別が付いてないのに日本の政治を語っている」「サッカーがラケットを使うスポーツだと思って話をしている」ぐらいだろうか。

 まず経済学の大きな分け方として「ミクロ経済学」「マクロ経済学」という2つの基礎的な考え方がある。

 ミクロ経済学は「1つの経済主体について利益が最大化するような意思決定とか行動はどういうものかを考える」みたいな話。経済主体というのは、1人の個人とか、1つの企業とか、経済活動を行う最小単位のこと。だから、牛丼屋さんの利益が値下げによって増えたみたいな話はミクロ経済学の中で考える。

 ゲーム理論という話を聞いたことがあるだろうか。「囚人のジレンマ」という話が有名なのだが、2人の共犯の囚人がいて①「2人とも自白したら」②「一方が黙秘してもう一方が自白したら」③「2人とも黙秘したら」それぞれ懲役何年か、みたいな話。これは「個人それぞれ」の戦略の決定の話だからミクロ経済学で扱われる。

ゲーム理論で一番簡単な例。ゲーム理論によってオークションにおける落札価格の決定なども数学的に証明できる

 一方でマクロ経済学っていうのは「一国全体の経済について考える」お話。だから「総需要」とか「総供給」とか「GDP」つまり「国内総生産」というような「全ての合計」みたいな概念が出てくる。上念さんが丁寧に説明していたが、物価というのは「国内全体における色んなモノとかサービスの価格の『総合的な平均』」を表してる。デフレ・インフレっていうのは物価が下がっている・上がっているっていう話だから、デフレ・インフレに言及しながら国の景気の良し悪しを考えるのはもちろんマクロ経済学となる。

 ひろゆきさんと上念さんはデフレと景気の関係について色々話していたのだが、突然ひろゆきさんが牛丼屋の話を始めた。

「牛丼屋さんをやっているとして、200円から180円に価格を下げたら、倍売れました。だから利益は増えました。これ、何か困るんすか?」

これは、突然マクロ経済学からミクロ経済学に話が変わってる。

 「国全体の経済状況の話」→「ある特定の経済主体(企業)の利益の増加の話」という風に変化した。これは極論ですらない。別の話をしている。だからひろゆきさんが牛丼屋の話をしている時は国の景気についての話をしていないしできるわけもない

デフレとは何か?

 それから次のようにも発言していた。

「牛丼と卵の値段が両方下がる時ってありますよね。それで景気が良ければ何の問題もないですよね」

 デフレとは物価が下がっている、つまりモノやサービスの値段が下がっている状況を指す。冷静に考えてほしいのは「そもそも色んなモノの価格が下がる要因は何なのか?」という疑問である。

 一言で答えると「不況だから」である。不況になってしまったから、皆がお金を持っていなくて売れないから価格を下げざるを得ないと皆が考えた。その結果デフレに行き着く

 物価が下がらなければいけない商品が売れないくらい、国全体の(民間)消費が冷え込んでる=総需要が低迷している。消費も減ってるし商品価格も下がってるから企業の売上が減る。すると(名目)賃金が下がるに決まってる。不況→賃金が下がって消費が減る→商品が売れないから価格を下げる→物価低下→賃金が下がる→・・・と繰り返すことをデフレスパイラルと呼ぶ。だから国全体としてみたらモノは売れないし(名目)賃金は下がっているという状況だ。

 ここでひろゆきさんの発言を考えてほしい。「牛丼と卵を売ってる人間だけ儲かってたって景気が良いとは言えない」のだ。「消費が冷え込んでいるから価格を下げた」という要因によってどこかの企業の利益が増加しても、結局国全体として見たら不景気であることに変わりはない。

 さらにひろゆきさんの発言はこのように続く。

「たとえばじゃあ、牛丼屋さんも(価格を下げて)そうやって儲かりましたと。で、卵屋さんも、じゃあその卵の生産量が上がって、卵の値段を下げることで儲かりました。何が問題なんすか?」

 「卵の生産量が上がって、卵の値段が下がった。」この文章をよく読んで欲しい。原因から結果まで、全部マクロに関係ない。

ひろゆきさんがもう景気の話をしてないことに驚いたんだよね

 卵屋は不況とは関係なく生産量の増加によって値下げできて儲かった。これはミクロ要因の値下げである。完全にマクロに関係ない話


結論:ひろゆきさんは経済学を1秒も勉強したことがなさそう

 ミクロの教科書でもマクロの教科書でも、一番最初にそれぞれが扱う経済現象について説明がなされるのが普通だ。経済学部の1、2年生が初めて受けるミクロ経済学の授業でも「ミクロではこういうことを考えます。それでは、授業の詳しい内容に入っていきます」と教授がミクロの意味を「一番最初に」説明してくれる。
 上に載せた2つの動画を視聴した限りでは、ひろゆきさんは「経済学の最重要基礎であるミクロもマクロも、1ページも教科書を読んだことがなく、授業を1秒も聞いたことがなさそう」という印象を受けた。

 「デフレでも好景気は存在しまーす」とドヤ顔で主張してポールクルーグマンがどうたらこうたら言っていたが、経済学を1秒も勉強したことがなさそうなひろゆきさんが何を理解できたのだろうか?日本でデフレと好景気が同時に成立するのは「日本の排他的経済水域で巨大な油田が見つかって採掘が始まり、日本におけるエネルギー価格が低下しまくった」ぐらいの変化が起きなければ無理である。こういった変化や技術革新による供給側の好ましい変化を「正の供給ショック」という。しかし日本のデフレは明らかに円高不況に起因する。

 こういう何も知識が無さそうな人に経済の議論をさせて何が有益だと思ったのだろうか。視聴者を稼げれば誰でもいいのだろうか。NewsPicksというメディアの性質がうかがえた。

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