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『旅の空』ネパールの旅 憧憬のヒマラヤの向こうに 11

9日目~10日目  ~ルザ(4390m) → ショマレ(4150m) → トゥクラ(4620m)~

 今回のトレッキングでは5000m以上のピークを3つ目指す。一つ目のゴーキョピークを踏み、次に目指すのは、エベレストベースキャンプの近くにあるカラパタール(5540m)だ。そこまではさらに4日の行程。一度大きく下り、東へひたすら歩く。宿を転々とすることにも慣れた。夜中に屋外トイレへ行くために、暗闇をヘッドランプの光で歩くことにも慣れた。しかし! しかしである。このショマレ(4150m)とトゥクラ(4620m)では、「さすがにもう疲れちゃったなぁ」という気分になるような体験が待っていた。

 まずショマレ。この日は下りのみの楽な行程だが、ひたすら距離を稼いで歩いた。くたくたになってたどり着いたのに、楽しみの夕食のダルバートはいまいち。それはまぁご愛嬌としても、眠る部屋はなにやら物置の地下牢のような趣で、なんともヤな感じだ。そしてとどめは夜中、いつものようにやっとの思いで寝袋を這い出し、ヘッドランプを頼りに外へ出ると、目の前に現れたのは巨大なヤク(角(つの)あり高地牛)! もう心臓止まるかと思った。あの角はけっこうコワいんだよ。

 そして翌日のトゥクラは、なんと言っても飯がまずかった。ダルバートにも飽きて、ゆでたジャガイモを頼んだのだが、固くて味がしない。高地だから贅沢は言えない。食事はともかくとして、重苦しい気分になったのはその夜。ラクパさんやほかのトレッカーと世間話をしていたら、夜更けになって、フランス人のパーティーが騒がしく駆け込んできた。メンバーの一人が重い高山病にかかっているのだ。相当に苦しそうで、事態は深刻と見た宿の主人は、高度の低い隣村まで、夜のうちに担ぎおろす判断をした。他人事とは思えず、ぼくらにとってはここが厳しい環境であることを再確認する。

 なんとなくブルーになっていた夜だったが、その日泊まった部屋からの眺めは最高だった。窓からは、あのアマ=ダブラム(6856m)が見える。そして、トイレに起きれば空には無数の星。どれが星座だかわからないくらいの数の星あかりに、アマ=ダブラムの鋭い山容が浮かび上がる。まだ歩ける。

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