TRPGシナリオ製作術 【"飽き"の正体を知り、16個の対策を練る】

飽きるという言葉をテーマとして記事を書く場合、『TRPGシナリオをプレイ中のPLたちを飽きさせない工夫の話』と、『シナリオ制作に飽きてしまったシナリオ作者の感情への対処法の話』の2種類を書く必要があると思います。
なので、どっちも書きます。
まずは"飽き"という状態を把握するところからスタートしましょう。


秋 "飽き"の正体

章 飽きるのはポジティブな感情

飽きるという現象がなぜ起きるのか、これは非常にたくさんの情報がネット上にあるので簡潔に述べますと、自分自身の成長に繋がらないと脳が自覚した時です。
つまり、脳が勝手に判断しているため、心理の上では飽きたことに気付けていない可能性があります。

  • ゲームに飽きた=そのゲームをこれ以上プレイしても成長出来ないと自覚した

  • 見飽きた展開=その後の展開が予想出来てしまい、見ても新しい発見や驚き、感情を想起させない展開なので、自身の成長に繋がらないと自覚した

  • 飽き性=自分自身の成長に繋がらないと自覚しやすい性格で、何事もそつなくこなせるけど脳みそが勝手に成長限界だと判断して飽きちゃう

  • シナリオ執筆に飽きた=これ以上シナリオを執筆しても自身の成長に繋がらないと自覚した

  • 今まさに遊んでいるシナリオに飽きてきた=これ以上プレイしても得るものが無く、自身の成長に繋がらないと自覚した

上記のように、『成長に繋がらないと自覚した脳みそ』のことを"飽きた"と定義されています。
ということは、脳みそはかなりポジティブな気持ちで飽きたという感情を操作していることになります。前向きに自身の成長のためを思って、飽きたと自覚できるように脳内物質を調整しているということです。
この脳みそが脳内物質を調整してしまう現象を通して、一定以下の快楽物質しか出てこなくなってようやく人は"つまらない"、"飽きた"という感情に変換されます。そのため、実は"飽き"を自分自身の意思で改善することは手遅れになっていることが多く難しいです。

章 書くモチベーションが保てないという悩みは、飽きた可能性がある

では、よくある悩みとして『シナリオ執筆のモチベーションが保てない』というスランプ的な悩みについて考えてみると、この"飽きた"という状況が原因になっている場合と、そうではない原因がある場合とに分かれるでしょう。
もし"飽きた"が原因だった場合、執筆を続けることは改善になりません。イラストでも音楽でも小説でも、クリエイティブな制作物のモチベーションを保つためにはとにかく書きまくるのが正攻法だと言われる場合もありますが、これは"飽きた"が原因じゃない時の対処法です。

では、執筆に飽きたことによるモチベーション低下はどのようにして改善するべきなのでしょうか。
それは『成長』が鍵となります。"飽きた"に対抗するキーワードはどんな状態や状況でも『成長』です。

章 このシナリオつまんねーな=飽きたという可能性

PL視点で具体的に"今遊んでいるシナリオに飽きた"を表現し直すと、時間を無駄にしていると自覚したとも言い変える事ができます。
脳内物質が一定以下にまで下がってしまい、「もし仮にこのシナリオを遊んでいる時間を別の時間に当てれたら良かったのになぁ」という気持ちが湧いてしまうことです。これは前述した『成長に繋がらないと自覚した』から、成長の見込みがある他のコンテンツを遊びたいという事です。

「このシナリオつまんねーな」という気持ちは、言い換えると「このシナリオ遊ぶ時間で○○してた方が楽しかったんだろうな」という気持ちであると言えるでしょう。
"飽きた"という感情を覚えるときの脳内物質は、まさしく"楽しい"を司る脳内物質と同じものです。
楽しいを司る脳内物質の量が減ったことで人間は"飽きた"ことを自覚し、脳内物質の量が増えたら"楽しい"を自覚します。

ということは、この脳内物質を増やすためにはどうすれば良いのかというのがポイントになるでしょう。
つまり、つまんねーシナリオというものは飽きを感じてしまうシナリオということです。もちろん、飽きを感じてしまう対象や状況は人それぞれとはいえ、飽きさせない工夫=面白いシナリオにする工夫だと考えて良いでしょう。
そして、これまた『成長』という言葉がキーワードになります。

章 飽きているはずなのに止められない人々

逆に、コンコルド効果によって、本当は飽きているのに飽きたと認めたくない状態になる人も居ます。
コンコルド効果とは、既に膨大な時間やリソースを注ぎ込んでしまったが故に、引くに引けなくなってしまった状態にある人のことです。

例えば、惰性で遊んでいるスマホゲームがそれにあたります。課金してそこそこ遊んでいるものの、次第にログインボーナスを貰うだけになり、新しいコンテンツがゲーム内に追加されても徐々に熱意が下がって遊ばなくなる……という流れは、ある意味では正常です。
というのも、人の成長にはどうしても限界があり、その限界を感じた脳みそは快楽物質の量を減らし始めます。ゲーム内で出来ることをやり尽くしてしまえば、そこから先はプレイヤー自身が能動的に楽しみを見出さない限り、ゲームをプレイすることに飽きて辞めたくなるでしょう。

しかし、熱意が下がっていることは自覚していても、課金しているという状況のため、辞めたくても踏ん切りが付かないままズルズル遊んでしまうような状況の人もいると思います。
これは、今までお金や時間を消費したことの見返りをどうにか回収したいという気持ちによって起きる現象です。
このような人は、ゲーム内で出来たコミュニティーもあるでしょうし、飽きていることを自覚して辞めろとは言えず、無理に辞める必要は無いかもしれませんね。

秋 飽きる前に脳内物質を出しまくれ!

どのような"飽きた"場面も、成長がキーワードとなりますが、それは単純な成長とは違います。
例えば、成長という要素だけ見れば『無限にレベルがアップするRPGは面白い工夫といえるか』ということを考えてみれば簡単です。
無限にレベルアップするというだけでRPGが面白くなるなら、全てのRPGはそうなっているはずですが、無限にレベルアップするRPGは少数派です。勿論、無限にレベルアップすると聞いてワクワク出来るタイプのプレイヤーがいらっしゃることも事実ですが、今回はより多くのPLがワクワクできるようなTRPG的アプローチを考えてみたいです。

重要なのは、プレイヤーの脳みそに"楽しい"を司る脳内物質を出し続けさせることが出来るかが最重要です。永遠とその脳内物質を出させ続けるのは無理でも、少しでも長く、少しでも多くその物質を出してもらうように工夫しましょう。
その工夫の結果は『成長』というキーワードに関わることが多いです。
まず参考として、流行ったゲームや漫画を例にして、考えてみましょう

章 Vampire Survivors ヴァンパイアサバイバーズの場合

ある時期全てのゲーマーがプレイしたんじゃないかと言われるぐらい流行ったゲーム、ヴァンパイアサバイバーズというゲームがあります。
画面の上下左右から敵が現れるのを倒し続けて、レベルを上げて武器を強くして、30分生き残ることをクリア目標としているゲームです。
このゲームの"飽きた"を防ぐ工夫は、失敗してもすぐにやり直せる点と、長くても30分でクリア出来るという点です。
ゲームを初めたばかりの頃は、何をどうすれば良いのか分からず、何度も敵に倒されることになります。しかし、その失敗のお陰で学びを得て、少しずつ生き残る時間が増えていきます。生き残る時間が増えていることは、タイム表示があるので一目瞭然です。
自分の戦略が上手く行っているのかどうか、数字でデータとして一目で分かるようになっています。つまり、成長を実感しやすい一工夫というわけです。

そんな状態でプレイし続け、いずれ30分戦い続けることができた時、とんでもなく強い死神が現れて殺され、ほぼ強制的にゲームオーバーになります。つまり、長くても終わりが30分でやってくるようになっているのです。これは、ダラダラと長く続けることによるプレイヤーの集中力の低下を防いでいるともいえるでしょう。

ゲームオーバー画面になる度に、プレイヤーは一度冷静になれますが、それでも何度も何度もプレイしたくなるのは、自分の戦略が上手く行っているという"成長"を『生き残ったタイムというデータ』として直感的に理解出来ているからであり、集中力が無くなって凡ミスしてしまう前に強制的にゲームを終わらせて一区切り付けさせる事によって、あえてリプレイすることを狙っているともいえます。

脳みそは成長を実感すると、それが例えゲームの腕前であっても快楽を司る脳内物質を出します。成功体験もまた脳内物質が出るチャンスです。しかも、上手いプレイヤーは30分ごとにゲームをクリア出来るので、30分事に脳内物質が出せます。
それにプラスして、敵が落とす宝箱というアイテムを入手すると、稀に大量の報酬が手に入るという射幸心を煽る工夫も追加され、ヴァンパイアサバイバーズはプレイヤーが飽きを感じるより前に刺激を与え続けるゲームに仕上がっています。

章 ダンジョン飯の場合

ダンジョン飯とは、ファンタジー漫画、アニメ作品であり、とある事情で貧乏な主人公たちが、節約のためにダンジョン内のモンスターなどを食べることで飢えをしのぎながら目的のためにダンジョンの奥深くまで潜っていくグルメ+ファンタジー漫画です。
かなり差し迫って大切な大問題を抱えた状態で、いち早くダンジョンを潜っていかなければいけないにも関わらず、準備もそこそこにしか出来ないほど金銭も残りわずか、仕方なく食事をダンジョン内のモンスターで賄おうとして、どうにか工夫して食事をするために主人公がモンスターを調理するグルメ漫画的な展開です。
大体1話で1つの食事が描かれ、その流れで物語は徐々に進展していき、いわゆる親しみやすいRPGファンタジーな世界観のダンジョン内の一喜一憂もネタとして差し込まれていて、テンポよく話が進んでいきますが、このスピード感はグルメ漫画としてのテンポ感にノッて物語が展開されていくからこそのスピード感であり、毎話ごとに『このモンスターはどうやって調理するんだろう』という問題を主人公たちは解決していきながら、ダンジョン攻略を急がなければならない理由も徐々に判明していきます。

ただ急いでダンジョンを攻略していくパーティの様子を漫画にしても、それは読者層にとって既視感のある展開にしかならないので、いわゆる"見飽きた展開"を真っ向から描かなければなりません。しかし、そこにグルメ漫画としての要素がプラスされたことで、常に『モンスターの食べ方』、つまり『モンスターの可食部』や『モンスターの出汁の取り方』などなど、今まであまり考えてこなかったことを読者は想像し、モンスター料理を研究している主人公が答えを導き出す流れのお陰で、読者にとって常に新鮮な展開を提供できています。
「確かにそのモンスターはそうやって食べたら美味しそうだ」と読者は納得することによって、次の話に期待して思わず続きを読み進めてしまう展開になっているのは、間違いなく"飽きさせない工夫"の題材選び、コンセプト設定だと言えるでしょう。

なぜなら、納得という感情を言い換えると『事象を(自分なりに)理解した』ということです。例えこれがモンスターの食べ方という事象だったとしても、脳は『事象を理解した』ことを"自身が成長した"と思って喜んで脳内物質を出してくれます。つまり、納得は成長であり、成長は楽しいし気持ち良いのです。
脳内物質が足りなくなってしまって"飽きた"という状態になる前に、納得の連続で飽きさせない工夫をしているのがダンジョン飯という作品の面白さといえるでしょう。

秋 執筆に飽きた場合も、成長が鍵

成長したと自覚することが、脳内物質の快楽を司る物質を出すということを把握していれば、分かりやすい社会的欲求である『承認欲求』を得る事だけが創作物を完成させることへの喜びではないと理解出来ます。

章 情報収集と理論武装から"納得"にもっていく

イラストや音楽、小説などの制作も同じことですが、人から称賛される喜びは成功体験と承認欲求を同時に手にするので強烈な快楽を生みます。
しかし、人から称賛されるような内容物を制作しなければ成功体験も承認欲求も満たせません。
そのため、人は制作物をより良い物にするために、制作テクニックを情報として集めようとします。もしくは、自分のやり方があっているのか理論的な正解を探し始めます。(ネガティブな言い方ですが、物事の理論を知りまくって自分を正当化しようとする"理論武装"という言葉もあります)

筆者の他記事を読んで下さっている読者の方々もまた、シナリオ制作テクニックの情報収集をしています。まさしくこれが、成長への第一歩です。
様々なテクニックを学ぶと、『本当にそのテクニックは有効なのか』という気持ちが湧くと思います。つまり、納得する前の段階です。なので、今度は学んだテクニックを試してみる段階になります。
重要なのは、"納得"まで持っていくことです。学んだ後は自分で試して、テクニックに納得するまで頑張りましょう。納得したとき、そこで自身の成長を感じた脳みそは脳内物質を出し始めます。
この脳内物質が出ている間は、モチベーションが復活するはずです。スランプを脱出することになりますし、学んだテクニックで作品が完成すれば、完成させた達成感によって再び脳内物質が放出され、モチベーションの維持になります。
このサイクルを回し続けることによって、いずれ自分の作品の数も充実し始め、作品のクオリティも上がっていき、納得の数も増えていきます。

章 作品を発表することはデメリット無し

作品の発表が出来る機会が増えるという事は、誰かに注目してもらえる機会が増えるということです。
今の時代、大量のTRPGシナリオが有償無償で発表されているなかで、自分の作品を発表する回数を増やすことは、野球に例えるとバッターボックスに立つ回数を増やすことと同義です。何度も何度も作品を発表しているうちに、いずれヒット作も出るでしょうし、ホームランだって打てるかもしれません。ヒットやホームランによって成功体験や承認欲求を満たすことが出来れば、もはやスランプに陥る心配も無くなることでしょう。
そうなると今度は『良い作品を世に出さなければならないプレッシャーとの戦い』になりますが、今は一旦考えずに置いておきます。

まずは、バッターボックスに立たなければ、ヒットもホームランも打てないということです。『とにかく数を作れ』というスランプ脱出方法は、遠回しに言えば同じことですが、とにかく作ってしまうと粗製乱造になってしまい、自身の評判も落としてしまいます。
数を作る前の段階に『テクニックを吸収して納得する』という工程を挟むことによって、より良い精神状態で、より良い品質の作品作りに望むことが出来るはずです。

章 当たり前だけど、うつ症状に気をつけよう

脳内物質のお話をするついでにですが、うつ症状の方はこれらの脳内物質が不足して、本来脳内物質が出なければいけない時にも出づらくなっている、もしくはすぐに吸収されてしまって枯渇しやすい状態にあります。
今まで興味のあった事がつまらなくなってしまって、暇な時間に何をしてもつまらないなんて状況なら、うつ症状を疑って病院に行きましょう。
まず環境を改善するよう言われますので、ストレスの原因になっているものから離れて下さい。その後、薬を飲めば改善される可能性があります。

秋 シナリオに飽きさせない工夫を施すには

今度はシナリオ制作術としての"飽きさせない工夫"のお話を考察してみます。前述した通り、成長は大事なキーワードですが、単純な成長システムは意味がないとも説明しました。
例えば、『無限にレベルアップできるシステム』は飽きを防止できるかと言えば、半分正解といえる状態です。無限にレベルアップすることが、ゲームの楽しみに繋がるかどうかの方が重要です。
では、飽きさせない工夫とはどういうものでしょうか。以下に箇条書きしてみます。

  • ルールとセオリーの把握と、ルールやセオリーを破壊する存在によって、PLは戦略を考えることが出来る

  • ゲームのルールは小出しで慣れてもらい、戦略を組み立てることに慣れてもらう

  • TRPGなんだから、PLのやりたい戦略を好きなだけやってもらう

  • ゲームデザインは簡略化とリアル化の取捨選択であり、リアルにすればするほど複雑なルールになるので、PLが慣れる時間が必要であり、時間が伸びるのは飽きるリスクを増大させる

  • リスクとリターン計算を常に行ってもらうために、色々な種類の選択肢を提示し続ける。その選択肢にはどんなリスクとリターンがあるのか直接教えちゃっても良い

  • リソースをPLに意識して管理してもらい、ランダムイベントや敵の出現によって、良い塩梅にリソースを削っていく

  • ホットスタートとクリフハンガー(レイニー止め)は飽きさせない工夫

  • 線でつながっていく情報と、最後に全て分かるバラバラの情報を同時進行させ、シナリオ中にストーリー展開を推理させつつ、クライマックスの驚きも確保しておく

  • 無駄な解説シーンと説明シーンを省き、退屈な時間を除去する

  • ストーリー中盤はPLに題材のコンセプト(そのシナリオの面白いポイント)を推しまくり、中だるみを防ぐ

  • 伏線回収はストーリー中盤から終盤の間に集中させて、中だるみを防ぐ

  • テーマに沿って、序盤から終盤にかけて徐々にテーマ性を高めていくことで、テーマについて常に意識してもらう

  • クライマックスでの伏線回収は『どんでん返し』、エンディングでの伏線回収は『話のオチ』なので、飽きさせない工夫というよりクライマックスを盛り上げる工夫である

  • 最近の流行りは起承転結ではなく『(承)転結』と言われるぐらい、スピード感が大事かも

  • TRPGだからダイスロールは醍醐味なんだけど、シナリオ指定の無駄なダイスはTRPGのスピード感を破壊する

  • 必殺の飽き回避とは、飽きる前に終わらせること

上記の説明が必要そうなものをいくらか説明します。

章 戦略とは

TRPGシステムはたくさん存在しますが、そのTRPGシステム特有の戦略とは別に、シナリオ内の問題を解決するための戦略を考えてもらえるように作りましょう。
ソード・ワールドにはソード・ワールド特有の戦略がありますし、シノビガミにもダブルクロスにもクトゥルフ神話にも特有の戦略が存在しますが、それはそれとして、シナリオ内の問題を如何に解決するのか考えてもらいましょう。
『(他のシナリオの解決法と同じく)バーンと行ってドカンとやってハイ終わりって感じだよね』と思わせないように、シナリオ内の問題にはオリジナリティを追加して、一筋縄ではいかないことをPLに見せて、そのシナリオオリジナルの戦略を考えないといけない展開を用意しましょう。
既存のシステム依存の戦略でクリアできるシナリオは、見飽きた展開だと思われる一因となってしまいます。
そこに一工夫か必要です。

章 リスク、リターン、リソースと情報

リスクとリターンは良いとして、リソースについて軽く説明すると、『プレイヤーが取り扱える資源や資産のことであり、ゲーム的に言うとキャラクターが持っているアイテムや、HPやMPなどのステータス、仲間のNPCといった、増減するもの』です。
他記事にも書きましたが、リスクとリターンは選択肢によって提示できます。そして、それらの選択肢で得られるものも失うものもリソースと情報です。
ランダムイベントや敵の出現によってもリソースは増減しますし、情報を得たり得られなかったりします。
リソースをPLが管理しなくても良いと感じてしまうと、雑な戦略でゴリ押ししようとするかもしれません。(逆に綿密な事前準備によってゴリ押しを可能にしようとするプレイングは立派な戦略です)
リスクばかりでリターンの無い選択は、そもそも選択肢に入りません。
リターンにはアイテムやステータスの増減だけではなく、NPCの追加や情報の入手といったリターンでも良いですし、何ならリターンはオリジナリティを出せるポイントなので作者の腕の見せ所です。

章 ホットスタートとクリフハンガー(レイニー止め)

ホットスタートとは、主人公達が危険な状態から物語が始まることです。いきなり緊張感を引き上げ、起承転結の"起"を魅力的な展開にしてストーリーに引き込む手法です。本来は脚本のテクニックとして『最初の5分間』で読者や視聴者を引き込ませないと飽きられるという考え方から生まれたテクニックです。
例として面白いのはアニメ『ルパン三世』かもしれません。劇場版やテレビオリジナル版のルパン三世は、ほぼ決まって『何かを盗んだルパン三世が警察や銭形警部などの追手を撒くところ』からキャラクター紹介しつつ本編をスタートさせますし、かの有名な『カリオストロの城』でも、モナコの国営カジノからお金(偽札ですが)を盗んだところからスタートします。
ルパン三世の場合は様式美としてホットスタートしているような気がしますが、物語の雰囲気によってはホットスタートは有効なテクニックです。

クリフハンガーとは、崖っぷちに掴まってなんとか生き残った主人公、めちゃくちゃピンチだ! っといったところでストーリーを一旦終了させる手法であり、海外ドラマでよく使われる手法です。こちらは、『続きがどうなるのか気になるところで終わらせる』のと、『スッキリ問題解決して良かった良かったといったところで終わらせる』のとでは、続きが気になるところで終わらせるほうが視聴率を維持出来たことから手法として確立されていきます。日本では『引き』という言葉で表現される手法です。
そして、あえて趣味に走って『レイニー止め』という言葉に触れますが、こちらは『マリア様がみてる』という少女小説の刊行中に起きた出来事です。
物語のキャラクター同士が険悪なムードになってしまったのですが、マリア様がみてるシリーズは女の子同士の友情を描いた作品だったので、読者たちは非常にやきもきした状態で小説を読み進めていたのですが、なんとその険悪なムードが解消されないまま、次回に続いてしまいました。
次回作は3ヶ月後になりましたが、この間マリア様がみてるのファンたちは苦痛すら感じていたとのこと。そうして待たされたファンたちは、次回作で無事に解決してカタルシスを感じたと言われています。ちなみにこちらは製作者側が意図して無かったとのことですが、今では意図的に行われていることもあるとかないとか。
TRPGは長時間に渡って遊ぶことになるので、シナリオ側で休憩出来るような区切りを設けておくと引きのテクニックも使用可能です。

どちらのテクニックも、飽きさせない脚本技術という点で一緒です。

章 中だるみ

中だるみという言葉は一般的な言葉としても、脚本的な言葉としても存在します。
一般的には、物事の途中で集中力が切れてしまうことです。
脚本用語としては、業界的な事情などにより無理やりストーリーを伸ばそうとして、スタートとクライマックスに当初予定していた展開の各種脚本テクニックが分散してしまって、中盤の展開になんとか面白い要素を追加しようとして、結局失敗してしまっている状態のことです。

つまりは、どちらの意味でも中盤が一番飽きられるということです。脚本用語としての中だるみは、TRPGシナリオを商業で書いている方にしか関係のない話ですが、一般的な意味での中だるみは、TRPGシナリオとして何としても防ぐ必要があります。
集中が切れてしまう現象は、人それぞれトリガーが違うと思いますので、具体的な対策法を提示しきることはできませんが、ついついクライマックスやエンディングが盛り上がるような展開を心掛けがちですが、実は中盤こそ気を使うべきポイントです。
しかし、PLが戦略を練ったり、選択肢のリスク選択に悩んでいる時間は中盤にやっていることかと思いますので、上記ポイントは最低限抑えておく必要があるかと思われます。

章 飽きに対する必殺『区切り、短縮、圧縮』

飽きというものはどうしてもやってきます。人はなんでもかんでも成長を感じて脳内物質を出してくれるものですが、それも長時間出すのは難しく、量を増やすのも難しいです。
なので、単純にシナリオのプレイ時間を減らしたり、休憩や日を改められるような区切りを意図的に配置することは重要です。

長時間シナリオを書こうと思った場合、区切りを意識してみてください。山あり谷ありというシナリオの中で、クリフハンガーやホットスタートなどを組み込むことで、長時間シナリオでも飽きが来る前に一旦ストップしてPL側の気持ちを維持できます。

短いシナリオを書こうと思った場合でも、中身をギュッと圧縮して提供することを忘れないようにしましょう。描写中に伏線を張り、情報を出し、としているうちにプレイ時間が伸びてしまうようなシーンは圧縮してください。

章 無駄なダイスロール指定をしない

TRPGのダイスを振る時間は醍醐味でもありますが、ダイスを振る時間に見合った効果を得られるようなシーンを心掛けましょう。ダイスを振る時間は意外と冗長さを感じやすいタイミングであり、PCの命が懸かっている重要な一投というわけでないなら、緊張感もそこまで生まれません。
遊びでダイスを振ってRPに活かす遊び方をしているPLやGMなら、スピード感を担保したまま無駄なくシナリオのプレイ時間をタイムキープしてくれるでしょうが、シナリオ側でダイスロールを指定する以上は無駄なダイスの時間にならないように必ず工夫してください。

ダイスをロールする場合は、成功しても失敗しても"PLにとって面白いゲーム体験"にする必要があります。『ダイスロールに失敗して情報が出ませんでした』とする場合、『情報が出なかったせいで面白い展開になる』ように工夫すべきです。ダイスに失敗すると面白い展開にならない可能性のあるダイスロールは不要です。
ちなみに、"面白い展開"は『ギャグシーンにしよう』という意味でもありません。『失敗したからこそ面白い展開』という考え方にピンと来ない方は、僭越ながら筆者の他記事もご覧ください。

秋 まとめ

"飽きる"という感情は、シナリオ作者は自分自身に対してもシナリオを遊んでくれるGMやPLたちに対しても防ぐ必要のある現象であり、クリエイティブな趣味や仕事にとっての天敵です。
しかし、正体を知ってしまえばなんてことはありません。飽きが来たら、まずは成長限界を感じてしまった脳を落ち着かせ、まだまだ成長できると実感させてあげましょう。

結局『脳みそ』も人間の体を構成する内臓の一つであり、胃腸や肺とあまり変わりません。心や意識、行動で良い状態を保つことができます。しっかり睡眠を取って、しっかり運動し、しっかり勉強し、しっかり"納得"しましょう。

ちなみに、PLやGMとしてTRPGに飽きを感じてしまった場合、いったいどんなことを学び、納得すべきでしょうか? ボイスセッション時のRPのための演技力でしょうか? それとも、台本無しのTRPGらしくアドリブでしょうか? まだ筆者はTRPGに飽き感じていないので困ってはいませんが、アドリブはどうやって鍛えられるのでしょう?
飽きてしまってTRPGを辞めてしまったゲーマーの方々もいらっしゃるとは思いますので、必ずいつかは飽きが来るのでしょう。その時は一体、何を学んで納得して飽きる状態を回避すべきなのでしょうか?

この記事がシナリオ制作の一助となることを願っています。

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