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【年末雑文1】チバユウスケが好きだった、見知らぬ人や見知ってる人へ

 土曜から熱だして「うーしぬー」とか言ってた死にかけがなんとか復調してカレーを食っていた時のことだった。体調不良の時はいろんな妄想がより加速しだすがそれよりも圧倒的な現実が昼飯中に襲ってきた。

 チバユウスケが死んだ。
 いや、チバユウスケが11月26日に息を引き取っていたことが公表された。

 そこから洪水のようにsnsでは「チバユウスケ」の名前が押し寄せてきた。
 悲しかったろう。 

 うんざりしただろう。

 うんざりしただろうさ。俺はあなたのあさましい気持ちを知っている。何を勝手に悲しがっているんだ。最も、死にたいくらい悲しいのはワタシだ。

 そんな気持ちの洪水を、見えている洪水の裏側で倍以上に感じている俺がいた。俺はその洪水から一歩引こうと思った。
 でも、どうしても、病み上がりだからか、10分で完食できる食堂のカレーが結局30分もかかってしまった。
 


なぜか自分はこの言葉をすっと出すことができた。
はっきり覚えてもいない、
ある雑誌の最終号、the birthdayの「I'M JUST A DOG」というアルバムについてのレビューのおぼろげな印象から着想を得ていた。

家に帰って、そのレビューを眺めてみる。

無邪気な不良の季節は過ぎて、年季の入ったアウトサイダーと化した彼らの最初の到達点。(田中宗一郎)

「snoozer #86」

そのレビューはそう結ばれている。そうだろうな。それがもう12年前。そりゃ犬なら死ぬさ。チバの死に驚きを隠せなかったダチ(チバの死を知ったのはかれのツイートからだった)にも、もうあと少しでガキができる。
 何かが死ねば、まだ何かが生まれる。

いつだって犬歯のような鋭い声でチバは音楽を切り裂いてきた。そしてそれをロックンロールにしていたんだろう。Dr. Feelgoodのようにやりたい。その気持ちだけをもってオアシスのリアムに匹敵する音を創造した声、しかし、その場所から死の呼び鈴は鳴らさられた、というわけだ。
死因は食道がん。 
そうだろな。妥当な結末だ。

みんなまだ何かを求めるのか? と俺は思う。突き放すようだが、あんたらしっかり生きているんじゃないか? 野良犬のようにではなく、しっかりタグがつけられた飼い犬として。

社会が義務と引き換えに差し出してくれる権利や幸福より、自由を手に入れたがる連中がいる。社会の一員として権利を主張することに興味がなく、たとえ底辺を這いつくばることになろうとも、自由を愛する連中がいる。どんな理想的な社会に暮らしていようと、それが息苦しくて、その外側に逃げだす人間だっている。

「snoozer #86」

またあのレビューの冒頭を見ている。

自由か。この国は最もその根幹を触れず過ごす人の多いことか。
俺よりも賢しいあなただから知ってるさ。わかってるはず。
この国のムラ社会になんだかんだ迎合し、その話題すら避け生きる、器用な職人気質のあなたたちなら。

だんだん耳が痛くなってきた。
まだきっと溶連菌が喉で断末魔を響かせている。
さっさと眠ってしまおうと思う。

ぼーっとTMGEを聞いていても、本当によくわからない歌詞だなと思う。
まるで出典の出てこない悪魔を見ている気分になる。
どこにでもいるようで、どこにもいない獰猛な狂犬だった。
葬儀はメンバーと家族のみでしめやかに行われたという。見たところ淡々と日々ブログを更新している、クハラカズユキの気持ちはいかばかりなのか。
「おまえの後ろで叩かせてほしい」
と、大学生の頃チバとの時間をはじめた、あの人が。
さんざん泣いていい人は、あの人くらいかなと思うのだ。何様かと思うが。

誰もが幸福を手に入れたがっていると思うのは大間違いだ。そして、彼らは世の中が間違ってるとも言わないし、自分が正しいと主張しようともしない。ただ放っておかれたいだけだ。

「snoozer #86」

 放っておかれたい野良犬の死。
 それを受け止めれないあなた。あなたたち。
 俺はあなたたちに向けてこれを書いている。
 チバユウスケの死を悲しむすべての人に向けて書いている。
 
 カレーを30分かかっても食べきれなかったのは、勿論俺が泣きながらカレーを食べていたからだが、チバユウスケのことで泣いていたわけじゃない。
チバユウスケの音と言葉の遠吠えに、共鳴して鳴り響く幾千のあなたたちの声と、慟哭を想像して泣いていたんだ。その声に少しでも優しい声をかけてやりかっただけなんだ。
だけど、自分からはこんな言葉しかsnsに投げ込めなかった。屑鉄のような犬小屋にいる老犬の自分ができる事はこれくらいしかなかった。


 それでも、俺はこの意味のない言葉をここに残しておきたい。

チバユウスケが死んで、本当に悔しかったであろう、11年前このレビューを書いたあなたのために。

 「チバユウスケみたいな人としか結婚したくない」
 と友人に語った、snoozerのプレゼント企画でチバの黒ブリーフに憤慨しながら必死でハガキを送った、いまだチバユウスケのような漆黒の白馬の王子を待つ、見たこともないあなたのために。

 そもそもSNS不精なあなたや、もうすぐ親になるあなたや、あの時のフジで一緒にチバを見た、あなたのために。

 この文はほとんど意味はない。だけどこうするのは、何か届けたいからだ。勝手に送りつける。大丈夫。遅かれ早かれ君にも俺にも、やってくる。
 

世界の終わりは そこで待っていると 思い出したよに 君は笑い出す

「世界の終わり」


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