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悪魔由来の化粧品

「悪魔由来の成分を含んだ化粧品を肌に塗ると、みるみるうちに肌が爛れ落ちるらしい」 私が小さい頃、こんな噂があった。大人になった今の私は「そんな馬鹿なことがあるわけない」と一笑に付すことができる。だが、子供の頃の私には、そのように簡単に処理することはできなかった。紛れもない恐怖だったのである。「人生を縛る縄」は無数に存在するが、私にとっては、この噂は紛れもなくそれに属していた。 そもそもの話、悪魔のビジュアルとメイクは親和性が非常に高い。悪魔の顔といえば、アイシャドウを塗りた

    • アンパンマンの顔へのダメージはパワーダウンに直結する

      アンパンマンのことをあまり知らない人でも「顔が濡れて力が出ない」というセリフは聞いたことがあるでしょう。アンパンマンは、水に濡れたり、カビや泥で汚れたりすると、本来の力が出せなくなってしまいます。犬の鼻が濡れるのにも「匂いをしっかりと嗅ぎ分ける」という理由があるように、アンパンマンの顔が濡れるのにも「水も滴る良い男パンを演出する」という理由があるのです。前者は生存する上で欠かせない行為として、後者は人気を集めるための演出として分類することができます。「演出過剰である」という声

      • 些細な邂逅

        小雨そぼ降る昼下がりのこと。私は、自室において半睡半醒の状態に耽溺していた。すると出し抜けに「いやはや、懇ろな関係になりたいなぁ」という声が襖の奥から聞こえてきた。その声には切迫感がまるでなく、これ以上ないほど弛緩しきっていた。 「あなたには大変に気の毒な話なのですが、ここに居る私という存在は、そこに居るあなたという存在とお近づきになりたいのです」 私は、襖の奥から聞こえてくる台詞の内容を検分してみた。どうやら、こちらに害意があるわけではないらしい。私は逡巡することなく、襖を

        • 元気を100倍にしてどうするつもりなんだろう

          アンパンマンの有名なセリフの一つに「元気100倍、アンパンマン!」というものがあります。「そんなに元気いっぱいになったら、顔が膨張して破裂しちゃうんじゃないの?」という疑問を抱く人もいるでしょう。かくいう私がそうです。アンパンマンが件のセリフを得意げに言い放つ度に「顔が破裂してあんこが飛び散るんじゃないだろうか。もしもあんこが飛び散った場合、制作スタッフ一同がおいしく頂くのだろうか」という不安に駆られます。心臓の内部にドキンちゃんが棲みついているんじゃないかと疑うぐらいドキド

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          奇妙な頬杖

          その頬杖は、見る者に奇妙な印象を与えた。一見すると、取るに足らない頬杖である。だが、注視してみると、それが歪なものであり、その姿形に対して疑問を抱かずにはいられない。ある者は読みかけの本をそっと閉じ、その頬杖をちらりと見やった。視線が向けられているという事実を頬杖に気取られてはならない。頬杖に感知された瞬間、頬杖を構成する諸要素の一切は瓦解する。頬杖はその瞬間を今か今かと待ち侘びているのだ。 ただ、頬杖にしても、野放図に朽ち果てるつもりは毛頭ない。頬杖の周辺には「頬杖という

          奇妙な頬杖

          アンパンマンの頭の中身はあんこじゃなくても構わない

          アンパンマンの頭の中には、あんこがたっぷり詰まっています。ですが「中身はあんこじゃなければいけない」という決まりがあるわけではありません。あんこ以外のものを頭の中に入れても大丈夫です。黒柳徹子のように頭の中に飴を入れても良いし、韓国映画のように頭の中に消しゴムを入れても良いのです。「でも、アンパンマンっていうぐらいだし、本当はあんこじゃなければいけないんじゃないの?『平服(私服)でお越し下さい』と書かれているから平服で行ったのに、周りは皆スーツを着ていて恥をかくパターンじゃな

          アンパンマンの頭の中身はあんこじゃなくても構わない

          会長の煩悶

          私は、ある集団の長、すなわち某団体の会長を務めているのだが、一人の会員の復帰を待ち望んでいる。会員達に優劣を付けるのは気が引けるが、彼は特別であり、会における求心力は私よりも遥かに高い。言い訳めいたことだと思われるだろうが、私の求心力が低いのではない。人並ほどはあるはずだし、そう思い込みたい。改めて強調するが、私の能力が低いのではなく、彼の能力が特段に優れているのである。であるからして、彼の復帰というのは、私だけではなく、全会員にとっての切なる望みなのだ。率直に言って、私は彼

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          アンパンマンは博愛主義者

          アンパンマンは「この世界に住んでいる全ての人が好きである」と公言してはばかりません。テレビという公共の電波を利用した番組内での発言なので、文字通りの公言です。「そんなことをわざわざ公言するなんて、後ろ暗いところがあるんじゃないの?」という意見もあるかもしれません。確かに、このセリフだけをピックアップすると、頭がおかしい奴だと思われる可能性もあります。ただ、アンパンというのは菓子パンの一種なので「頭がお菓子な奴」ではあるのです。考えが甘い人などを糾弾する際にはピッタリの言葉です

          アンパンマンは博愛主義者

          落下猿・名高いハム

          逆さまに落ちてゆく猿がいた。猿の表情は険しく、その顔を覆う表情筋の一切は強張っていた。猿は、敵の姦計に陥って、そのような危機的な状況に瀕しているのだが、怒気をあらわにしなかった。そもそも猿が怒り心頭に発したからといって、事態が好転するわけではない。猿は、自身が落下する過程において、怒りの感情が消失する様子を見た。正面からまじまじと見たのではなく、横目でちらりと見ただけなのだが、見たということには変わりない。自身の内に次々と湧き起こる感情を注視して、その一切を丁寧に検分する余裕

          落下猿・名高いハム

          助けることを躊躇しないアンパンマン

          アンパンマンは、目の前に困っている人がいたら、ほぼ無条件で助けてます。その対象が敵か味方か、善か悪か、人かパンかなどは一切関係ありません。救助するべき対象を見かけたら、本能的に身体が動いてしまうのです。根っからの主人公体質ですね。まるで、FFⅨのジタンです。彼もアンパンマンと同様に、困っている人を放っておくことができません。ジタンの有名なセリフに「誰かを助けるのに理由がいるかい?」というものがあります。このセリフを聞いたアンパンマンは「理由はいらないけど、視聴率はいる」とキッ

          助けることを躊躇しないアンパンマン

          猫と庇

          真夏の昼下がり、猫は民家の庇の下でまどろんでいた。庇が作り出す影は、猫の身体を覆い尽くすには十分な大きさだった。猫は、ごろごろと気ままに寝転がりながら、影が作り出す清涼さを味わっていた。猫は今、庇の恩恵を存分に享受している。だが、そのことについて特別な感慨を抱いているわけではない。涼むのに丁度良い影があったので、ただそこに居るだけだ。猫の脳裏に、感謝の気持ちが沸き上がることなど期待できない。得手勝手こそが猫の本懐なのである。 庇は、真夏の直射日光を防ぐだけではなく、降雨や積

          アンパンマンはばいきんまんを憎んでいるわけではない

          アンパンマンは、暇さえあれば、ばいきんまんと戦っています。もはや戦うことが生活の一部になっているほどです。その気になれば、ばいきんまんを直視せずに戦うこともできるのではないでしょうか。ブラインドタッチみたいな感じですね。勝手なイメージですが、アンパンマンはタイピングがめちゃくちゃ速そうです。かな入力で「はひふへほ」の文字列をもの凄い速さで打っているイメージがあります(ばいきんまんをボコボコにするイメージで)。愛用しているキーボードはもちろん、親指シフトです。親指を鍛えることに

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          到達を拒む声・おじいさんのバランス

          遥か昔、ある屋敷の瓦棒の上に、大きな卵が載っていました。その卵は橙色をしていて、ところどころひび割れています。その奇異な姿形は、人々の目を強く引き付けました。その卵は、時折、奇妙な声を発しました。その声は、耳に届いた瞬間にまるごと消え去ってしまうような刹那的なものでした。聞き取ろうと奮闘しても、声は瞬く間に暗い淀みの中に引きずり込まれてしまいます。聞くに堪えない声ではなく、聞くに達しない声なのです。その声はやがて「到達を拒む声」と呼ばれるようになりました。 幾星霜を経て「到

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          相手に気を遣い過ぎるアンパンマン

          アンパンマンは、とにかく相手に気を遣います。ゲストキャラクターに対する態度を見れば、アンパンマンがいかに気を遣っているかが一目瞭然です。たとえば、ゲストと協力して敵を倒したときには「○○(ゲストの名前)のおかげです」というように、必ず相手に花を持たせるのです。しかしながら、気を抜いてはいけません。その花には「油断という名の毒」が含まれているのです。油断は慢心につながり、慢心は敗北を引き寄せます。アンパンマンが相手に花をもたせるとき、そこには「お前は徒花に終わるんだよ」というメ

          相手に気を遣い過ぎるアンパンマン

          ヒトの子の夕方

          ヒトの子は、夕方に躍動する。陽が落ちる直前、周囲の景色が夕闇に染まる頃、その身体性が最大限に発揮されるのだ。ヒトの子は、小高い丘の上に佇んでいる。一見すると、ただぼんやりと時間を浪費しているように見えるが、その内実は全く違う。ヒトの子の内部では、専横なる生命が疾風怒濤の勢いで炸裂しているのである。その日、ヒトの子は、長い長い休息から目覚めたのだ。 ヒトの子は、ぽりぽりと身を掻きながら、大きなあくびをした。あくびを一つするのも大儀そうな様子である。四肢の末端に残存する眠気を振

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          アンパンチという呼称について

          アンパンマンといえば「アンパンチ」です。「アン」を付けることで差別化を図っていますが、普通のパンチと変わりません。言うなれば、平凡パンチです。今ふと思ったのですが、チーズの鳴き声の可能性もあります。ご存じのように、チーズは「アンアン」と鳴きます。007が二度死ぬように、チーズは二度鳴くのです。「チーズは某女性週刊誌の購読者なのではないか」という噂もありますが、真偽のほどは定かではありません。チーズを拷問して真実を聞き出したいところですが、動物愛護管理法に阻まれてできません。潔

          アンパンチという呼称について