万能はネギに鍛えられたか


豊葦原の瑞穂の国において「万能ネギ」が大変な重荷を背負っているのは周知の事実です。「いやいや、それはお前の思い過ごしだろ」という手厳しい意見もあるかもしれません。ですが、少し想像してみればわかることです。もしも貴方が「万能人」と呼ばれたらどうでしょうか。一回こっきりならまだしも、その生命が存する限り「おい!そこの万能人!」と呼ばれ続けるのです。これは地獄の責め苦に等しい所業でございます。

以上の理路によって、万能ネギを窮地から救うべく、早急な対処(改名)が求められます。もちろん、万能ネギ側から報酬を頂くつもりは一切ありません。こういう事柄は無報酬で行うからこそ楽しいのです。第一、万能ネギに見返りを要求しようとするならば、彼らと意思の疎通を図る必要があります。いくら異文化交流が盛んな現代とはいえ、ネギと良好な良好な関係性を構築するのは至難の業です。禰宜ならまだしも、一般人には荷が重すぎます。

グダグダ言っていても埒が明かないので、改名作業を推し進めていきましょう。まずは「万一ネギ」です。万能ネギの苦悩の元は「全方位性」にあります。「私は万能ネギなのだから、あらゆる事柄を受け入れなければならない」という姿勢こそが諸悪の根源なのです。なので、万能から万一に変えることで「万一ネギということは、こいつはネギじゃないのかもしれないな」という留保が生まれるのです。「万能ネギということは、こいつはネギに違いない!」という早急な判断から解放されることは、ネギにとっては無上の喜びなのです。

次は「万引きネギ」です。盗人の視界に万能ネギの姿が入り込んでしまったら「なに?万能ネギだって?万能ということは守りも万全なのか?フッ笑わせやがる。オイラの手にかかれば、こんなものを盗むのは造作もないぜ」という具合に盗みの対象になること請け合いです。ですが、万能から万引きに変えたらどうなるでしょうか。「万引きネギということは、こいつはすでに盗まれているのか?盗難済みなのか?すでに盗まれているものを盗むことはできないな・・・」となって諦めるしかありません。いい気味ですね。

最後は「満腹ネギ」です。どこぞの大食漢がお腹を空かせて彷徨い歩いていると想定します。そんな彼の目には、万能ネギの姿は殊更に魅力的に映ることでしょう。色鮮やかな緑と白のコントラストに加えて、スラリとして食べやすそうな形状は食欲を大いにそそります。ですが、万能から満腹に変えることによって事態は一変します。「なに?満腹ネギだと?初期状態で腹一杯だというのか?・・・なんだか見てるだけで俺の腹も膨れてきたな・・・」となり、大食漢の魔の手から解放されるのです。窮地を脱した後、安堵感と膨張感が負担になり、満腹ネギはポッキリと折れてしまいましたとさ。合掌。

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