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マネジャーの仕事(ミンツバーグ):極私的読後感(35)

ミンツバーグ先生は、経営学者として一般的な知名度はあまり高くない。ドラッカーやポーターのような華々しさや、麗々しい飾り言葉は、ミンツバーグ先生には、無い(と、思う)。

ただ、その中身、いや読後の”効き目”というか、腹落ち感は、極私的な感想としては抜きん出て高い。雑な言い方をお許し頂けるならば、「煙に巻かれた」感が無い、という感じだろうか。

<目次>
日本語版への序文・序文・緒言
第1章 マネジャーの仕事
第2章 マネジャーの職務に関する現代の学説
第3章 マネジャーの仕事にある明確な特徴
第4章 マネジャーの仕事上の役割
第5章 マネジャーの仕事の多様性
第6章 科学とマネジャーの職務
第7章 管理業務の未来
訳者あとがき・参考文献

第一に、この本はもともと1972年執筆である為、今日当たり前に使われているネットやメール、SNSというツールは無く、電話と郵便、テレックス(わかるかな?)が主なツールの時代なので、時間の使い方やコミュニケーションが本書が(今現在の)実態と合わないのでは?と思うかも知れないが、ここがミンツバーグ先生の偉大なところで、そういう違和感は、ほぼ無い。

では、何故色褪せないのか?

それはp.54あたりから書かれている、マネジャーの時間配分、受け取る郵便の内容別比率、継続時間(一つの事を続けてやっている時間)などを事細かに測定して、それらのファクトから考察を加えているからだ。つまり、理論から理論を生むのではなく、実際の経営者やマネジャーの行動を記録し、分析した結果から理論を紡ぎ出しているのだ。

なので、ツールは変われどもやっている事自体は変わらないので、ちゃんと腹落ちするのだ。そう、本質を掴んでいるからだ。また、次のような記述でマネジャーの仕事を解き明かしていくのだ。

マネジャーには自分自身の活動の大半について、これを決定する力がないという命題を支持する証拠がある。電話のベルが鳴り、日めくりカレンダーには一群の会議日程があふれ、部下がひょっこりと訪れ、予想もしないときに問題がもちあがる。そして、これらすべてにつきまとうのは、どれもが同時進行で、郵便物の処理を滞らせると大変だという恐怖である。確かに、この職務は弱い者を飲み込み、強い者を閉じ込めるようにデザインされている。
(p.82-83)

郵便をメールやビジネスSNSと読み替えるだけで、特に違和感が無いのではないだろうか?

そして本書で最も価値があるくだりが、第4章にある「マネジャーの10の役割」だ。

これは私個人としても、ノートに貼って常に見直す程、マネジャーの役割を明解にまとめてある。p.151に表になっているのだが、価値がありすぎて引用が憚られる。是非、自分で読んで会得して欲しいところだ。

また、第7章のp.303以降で、「能力(スキル)開発」という項目で、ミンツバーグ先生は8つの管理に必要なスキルを挙げている。

・ピアー・スキル(同僚とのネットワーク構築と維持)
・リーダーシップ・スキル
・コンフリクト解決スキル
・情報処理スキル
・曖昧さのもとでの意思決定スキル
・資源配布スキル
・企業家的スキル
・自己反省のスキル

この8つのスキル、今でも多くのビジネスノウハウ本で取り上げられているのではないだろうか?

そう、ミンツバーグ先生の本は、泥臭くて汗臭い記述から、クリアな芯を引き出してくる感動というような何かがあるのだ。

多くの報われない戦い。強いられているマネジャーという名の実務家の皆さんに本書が届いて、癒される事を願うばかりだ。

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