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策士~狡猾…だが、華麗な源氏~



原作  中村 宙史

大和朝廷最大権力者、白河法皇の圧政から抜け出し幽閉する事で武家が世を統べる事になった時代……
その力を欲しいままに奮い続け平家は、その総大将 平清盛は大いに驕っていた……

以仁王は傍若無人に気の向く方、気ままに権力を奮う平家に対して全国の源氏共に戦う命令文書を出した。
世にいう、以仁王の令旨である。

以仁王は後白河法皇の第三皇子である。
若い頃から天童と言われるほどの秀才で
その才を恐れた後白河法皇は以仁王を朝廷から離れさせ比叡山延暦寺に押しやっていた。
だから、以仁王の実の父は比叡山延暦寺天台宗座主 最雲法親王であり、令旨を降した時の名前も養父、最雲にあやかり最勝親王と名乗っていたほどだ。
だから、そんな以仁王にとって実父、後白河法皇は気に入らないし嫌いな人物であった…

以仁王には信頼のおける臣がいた。
今回の令旨の案の一部を提案した者で源氏だが唯一、高位で平家に使えた者である。
それが源頼政であった。
令旨を出すまでに源頼政と以仁王は厳密に事を漏らさないようにしていたが、宮中を出入りしていた、下賤の者として平家に仕えた源行家が口を滑らせた事により事が露呈し……
京の都は三条高倉にある以仁王の屋敷に平家の軍勢が迫ることとなった。


迫りくる平家軍に対して源頼政は、
屋敷に火を付けることで、自分が今回の黒幕であることを明らかにした。
『君を死なせてはならない』
『何としても、清盛から逃がさねばならない』

回想シーン 手紙

「君の御謀反が残念ながら早くも露見致しました。土佐の幡多へお流し申そうというので、検非違使庁の役人どもが君の御屋敷へ向かっております。急いで御所を出発して、三井寺へお入り下さいませ。頼政もまもなく参りまする」

源頼政『君は宮中の出、故に馬にはのれぬ…とはいえ…牛車で君を逃亡させても、牛車では平氏にはすぐ見つかろう…』

頭をかしげ悩む頼政

源頼政『確実に君を脱出できる方法は・・・・・。』

宇治川に目をやる頼政。

源頼政『は!! 舟じゃ…舟で逃そう


源頼政『君を舟の荷に紛れて運ぶ!これしかあるまい!舟なれば、鶴丸様も共に運ぶ事が出来ようしな!』

渡辺長七唱『流石、見事な策にござりまする、であれば清銀兄弟!舟を用意するついてまいれ!』

清銀太郎『は!』
清銀治郎『は!』

源頼政『……待て!』

渡辺長七唱『は?!どうなされました?』

源頼政『事は一刻を争う事になろう、渡辺!其方は水軍から儂の為に…いや、君の…平氏討伐の為に命を落とす覚悟のある配下を数名儂の元につれてまいれ!』

渡辺長七唱『は……はは!!承知仕った!』

源頼政『清銀兄弟は君と君の子、鶴丸様を載せれるのみの舟を用意いたせ!』

清銀兄弟『は!』

頼政は、水軍渡辺党の頭領でもあった。
その水軍渡辺党は瀬戸内海や淀川の荷役作業も取り仕切っていたのである。

この策こそ、
頼政が考えついた究極の脱出方法で
瀬戸内海に通ずる淀川上流の宇治川のほとりにある平等院を戦いの場所に選んだ理由だった。
宇治平等院に着くと頼政は宇治橋の橋板をはずし時間稼ぎをするため…

 渡辺長七唱『殿…覚悟ある者らを連れて参りました……』
源頼政『…うむ…よく覚悟してくれたの…皆の者…大義!!…』


源頼政『君は何としてもここから脱出させなければならない!!逃亡隊は4隊作る!
その内3隊は影武者隊だ……
逃走経路も4経路。
東西南北方向に散っていく。
我が軍はここで平家軍を迎え撃つ。
三井寺を出る時平家には我々は南都興福寺へ向かうと言って出た。
平家軍もこの事は察知しているはずであろう……
平等院内に以仁王がいないと分かれば、平家軍は先ず興福寺のある方向を追うであろう…
興福寺へ向かう南路隊の君には愛用の笛 小枝を持たせよう。
この隊は僧兵中心とする。故に筒井浄妙!この隊の君の影武者は其方の弟子に任す!』

筒井浄妙『…は!…殿、冥府でお待ち申し上げまする!』

弟子とともに深々と頭を下げる

源頼政『次に南路隊じゃが仮に君が平家に捕まり、王が偽者で有ることが知れた時は、次に平家が捜索するのは恐らく北路隊だろう。
北方向の丹波にわしらの所領地があるからだ!   この隊には武士団を付ける。
この北路隊の以仁王も偽者であることが知れた時は、次の捜索は近江源氏など源氏の仲間が多くいる東路隊だろう。
しかし、この東路隊は幻の隊とする。
平家がいくら探し回っても、元々編成されていない幻の逃亡隊だ。
平家は幻の東路隊を何日も探しまくるであろう……
本物の君と鶴丸は西方を行く。
西路方面は平家方の土地だ。
平家の方に逃げるなんてよもや平家軍は誰も気付かないであろう。
君と鶴丸は舟荷に紛れて運ぶ。
舟の手配は唱に委せる。
この本物隊はできる限り少人数とし、清兄弟らが同行せよ。
目的地は越後の小国…よ
そこには私の息子頼之達が居る。
必ず匿ってくれよう。』

源頼政『平家軍は必ず南路隊を追うはずだ。
興福寺からは興福寺の僧兵が君を迎えに向かっているからの……
南路隊がこの僧兵と合流し、以仁王が興福寺へ逃げ込むことができたとしたら、王が囮であったことが知られてしまう。
それでは、本物の君の命が狙われる。
心して聞け…!!
興福寺からの僧兵達と合流する前に……平家軍に追いつかれた時に、君を殺せ!
わざと平家軍に追いつかせろ。
追いついた平家軍に矢で応戦すれば敵も矢を放ってくるはずだ。
その時だ。
馬上の君の腹を矢で射ろ。
馬上から君が落ちるのを敵は見るはずだ。
平家軍から放った矢が君に刺さったと見えるはずだ。
すかさず、君の首を刎ねよ。
そして君の顔の皮を刀で剥ぎ取れ。
偽物を本物と見破れなくするためだ。
君の首は君の着ていた着物でくるみ、首を守り、戦え……』
源頼政、泣き始める
『……そして、その場所で全員討ち死にせよ!!
決して生きて捕まるな!!
よいな!……』

 
源頼政『六条助大夫!』

六条宗信『は!これに!』


源頼政『其方は君の死と、全員討ち死にしたことを確かめよ…
逃げる僧兵がいたらお前の手で討て!
その結果を我に知らせよ……
その知らせを聞いたら、我が軍も全員打ち死しよう…長七唱!』

渡辺長七唱『は!』

源頼政『事が全て終わりし時に其方が儂の首を刎ねよ!』

渡辺長七唱『は?…は!?………お断り申し上げる!………いや、じゃあ!!』

源頼政『儂は酷い主じゃ……散々其方らに世話になっておいて…君の平家への憎しみを利用して君の意識を平家討伐に差し向けその君を守る為に其方らに必ず命を落とすようになどと…儂は儂だけが生き残る事は許されぬのよ…長七唱…他の誰でもない、儂の1番の忠臣である其方が儂の首を刎ねてくれ…』


覚悟の頼政は鎧・兜は付けなかったのである。

北路隊を呼ぶ頼政

源頼政『よいか…南路隊の君は平家軍によって討ち取られる事にした。
しかし、君でないことが知れた時のために、北路隊の君も途中の綾部付近で死んでもらう。
南路隊の君が矢傷を負い、落馬した後、偽者とすり替わり、ここまで逃げてきたが、腹の矢傷が重く途中の綾部で命を落としたということとせよ!』

上総の足利忠綱
『以仁王如き、大した兵もおらぬであろう!何故、苦戦しておる!』

足利兵『は!以仁王と思しき隊が4隊いるものと…』

上総の足利忠綱 七十歳
『先方は源頼政殿の隊じゃったの?
戦の先陣は頼政殿に任せ我らはゆるりと以仁王を討伐せん!
以仁王は馬に乗っておるであろうで矢で撃ち落とせ』

下野の足利忠綱 17歳
『お待ち下され!大殿!』

上総の足利忠綱
『下郎が!下がりおれ!』

下野の足利忠綱
『く!老害め!儂、1人で以仁王は討つ!』

ナレ



 頼政の最後を見届け、その首を刎ねた渡辺長七唱

渡辺唱『ああああ!うわああああ!』

頼政の首を抱えて戦場を去っていく…


これぞ、我が命も使って大切な者を守ったこれぞ、真なる策略家であろう……
彼の血筋は戦国時代、本願寺顕如に仕えた下間家まで永らえていくのであった
     
                           完

#創作大賞2023

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