犬の介護が始まって

「昔の犬の寿命はもっと短かったよね。」

いま一緒に暮らしている愛犬が10歳を超えたころからの、父の定番のフレーズです。予防接種のたびに「素晴らしく健康ですね。」と動物病院の先生からお墨付きをもらっていた我が家の愛犬も今年で16歳。前立腺が肥大してきている、ということで去勢をした以外では病院のお世話になったことはありませんでした。

かねてから犬の認知症などの話は家族の間でも上がっていました。その時は「犬でも認知症になるんだ…。」程度の認識で、やはり実際にその立場に置かれるまでは対岸の火事状態。「〇〇さんちの××ちゃん、もうトイレもわからなくなっちゃって、夜中に2回も起きて散歩に連れて行かなきゃいけないんだって。」へー。大変だね。という程度。

15歳を迎えた秋。ついにその兆候が。

「最近散歩のときに、足元をぐるぐる回るんだよね。」犬を飼うにあたって我が家では犬の散歩は僕と妹の二人が担当でしたが、働き始めてからは母の担当になっていました。確かに目が白内障のように濁ってきていましたが、人の年に換算して70歳すぎ。やっぱり年だし仕方ないよね、とその時は落ち着きました。

その一か月後。

仕事から帰ると、床一面にトイレシーツが。「なんかトイレがわからなくなっちゃったみたい。」母曰く、トイレのにおいは嗅ぐ。でもそのあと床で用を足してしまったらしい。このときはまだ決まった時間に粗相をしたため、時間になったらトイレシーツを敷くということで解決していました。夜はいままで通りの時間に寝ていたため、人も困らず。本当の苦難はここからでした。

一か月ごとに進む認知症。

我が家の愛犬はちょうど月が替わるごとに症状が増えていきました。まず家の中をぐるぐる徘徊。まだここまでは平気です。翌月はトイレ以外で粗相。この時は時間が決まっていたので対処は簡単。問題はこの次の一か月から。ついに寝方がわからない、というところまで症状が進行しました。そうなると犬の生活リズムもずれるみたいですね。うつらうつら船を漕ぐのですが、倒れたりぶつかったり、はたまた頭ががくんと落ちる衝撃で起きてしまう状態でした。こうなると人の手なしでは寝ることができません。日夜問わず犬の介護状態です。まだ寝た切りではなく食欲もあるので、そこは安心していましたがそれもつかの間。視力が格段に落ち、鼻も利かなくなってきて、ご飯の場所がわかりません。これはやむなしと手で食べさせていますが、容赦なく噛みつくのでたまに血を見ることも…。

「介護は大変だけど、でもやっぱり可愛いから!」というと妙に惨めというか、自分を慰めるために言っているのではないかと思われがちです。確かに犬とはいえ介護は大変です。つい先日は家がうんちまみれでした。当の本人はなにかに塗れた足で和室に立っていたのですが。家族総出で床にこびりついたものをこそげ落としたり、足を拭こうとして咬まれたり。それでも愛らしいと思えるのは、今までともに過ごしてきた家族だからこその特権でしょうか。

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