10分で分かる血管芽腫(hemangioblastoma)

概要

間質細胞と豊富な小血管による腫瘍。嚢胞を作る。出血しやすい。
VHL病に関連することがポイント


定義

腫瘍細胞である間質細胞(stromal cell)とそれが分泌するVEGFなどにより増殖した反応性の多数の小血管で構成される腫瘍
WHO grade 1

von Hippel-Lindau (VHL)病

  • 孤発例が70%だが、VHL病の一部としての発症が30%

  • 常染色体優性遺伝

  • 約36000人に1人、国内に200家系(難病センターHPより)

VHLは3番染色体短腕に位置するがん抑制遺伝子であり、VHLの遺伝子代謝物はHIF-1αタンパクのユビキチン化酵素であるため、VHLが機能を消失すると、HIF-1αが分解されず、さまざまな遺伝子群が恒常的に発現し腫瘍化する

<VHL関連腫瘍性病変>
中枢神経系(小脳・延髄・脊髄)の血管芽腫
網膜血管芽腫
腎嚢胞、淡明細胞型腎細胞癌
膵臓の神経内分泌腫瘍・嚢胞
副腎褐色細胞腫
内リンパ嚢腫
精巣上体や子宮広間膜の嚢胞
多血症(腫瘍発生の異所性エリスロポイエチン産生による)

頻度と疫学

  • 全脳腫瘍の1.5%、小脳腫瘍の28%

  • 成人の原発性後頭頭蓋窩腫瘍では最も頻度が高い

  • 男女比なし

  • 血管芽腫全体の発症年齢は平均46.6歳だが、VHL患者は10歳ほど若く32-33歳

  • VHLは65歳までのその浸透度は90%以上となる (つまりほぼ全員発症)

部位と症状

  • 孤発例では70-80%が小脳半球に発生。他脊髄(3%)、延髄(2-3%)

  • テント上発生はごく稀(100例以下)

  • VHLは65%が多発

  • 症状は部位によって異なる。(頭蓋内圧亢進症状、小脳失調症状、脳神経症状や脊髄症状)

画像

  • 70%が嚢胞性で30%が充実性

  • 嚢胞部分はT2WIで髄液と等信号かやや薄い血性を示唆する高信号

  • 壁在結節は均一に造影される

  • 充実性腫瘍は均一に増強される境界明瞭な腫瘍

  • 血管造影では、AVシャントを反映して流出静脈の早期描出が見られる

病理

  • 腫瘍細胞は、多くの脂肪滴やグリコーゲンを含み、明るい細胞質の多角形の間質細胞

  • 血管網が豊富な網状型(reticular type)と胞巣状に配列する(cellular  type)がある

  • 鍍銀染色で繊細な膠原繊維が腫瘍細胞を取り囲んでいるのが見える

  • 間質細胞は、vimentin陽性だが、S-100は一部陽性、GFAPはほぼ陰性
    血管内皮細胞は、CD34, CD31が陽性

治療と予後

  • 基本は手術

  • 手術後の再発率は10-27%

  • 嚢胞壁を摘出する必要はなく、壁在結節のみで良い

  • 充実性腫瘍は手術合併症リスクが高いと言われている。

  • 多くの栄養動脈が流入し出血しやすい

  • 術前の栄養動脈塞栓の有効性が高いが、リスクに見合うか、塞栓物質について議論中。

  • AVMと海綿状血管腫の間のような手術

<経過観察>
- ハイリスク群(遺伝子検査陽性例、または家族歴がある場合、他臓器の 発症で VHL 病と診断された場合)は 11 歳より 2 年毎に造影 MRI 検査を 行う。
-小脳など:2cm 以下、脊髄 1cm 以下の無症候性腫瘍でも嚢胞や腫瘍 周囲に浮腫を伴う場合は急速に増大する可能性があるので 1)、半年~1 年に 1 回の経過観察を行う。
<外科的治療>
- 中枢神経系の血管芽腫は症候性のものは脳幹深部髄内腫瘍を除いて 手術摘出を行う。
- 無症候性腫瘍には原則的には症候性となったときに行うが脊髄腫瘍で は 1cm 以上、または増大傾向があるものは無症状でも手術が推奨される。
<放射線療法>
- 外科手術が困難な場合、定位放射線治療が考慮される。
- 脊髄・脳幹部発生のものも含めて効果は期待される。
- 無症候性病変に対する予防的照射は勧められない。
- 腫瘍制御率は治療後 5 年で 8 割ほどである。
- 拡大する嚢胞には適切な治療法ではない。

フォン・ヒッペル・リンドウ(VHL)病 診療ガイドライン 2017 年版


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