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監督・脚本:中江 裕司『土を喰らう十二ヵ月』

☆mediopos-3049  2023.3.24

水上勉『土を喰う日々 ―わが精進十二ヵ月―』を原案に
沢田研二主演・中江裕司監督の『土を喰らう十二ヵ月』が
昨年十一月十一日に公開されて以来
ようやく地元の小さな映画館で上映された

「土を喰らう」とは「旬を喰らうこと」
「四季の移ろいの中で、
自然が恵んでくれる食物をありがたく頂くこと」

沢田研二演じるツトムの物語では
北アルプスを望む信州を舞台にして
「さんしょ」という犬一匹と山荘で
土を喰らいながら暮らす作家の一年間が
季節の移り変わりと共に描かれている

撮影にはコロナ禍の影響もあり
当初予定されていた一年をこえ一年半かかったというが
先日その苦労の甲斐もあり
沢田研二はこの二月「第76回毎日映画コンクール」などの
主演男優賞を受賞している
受賞挨拶も録画映像で流されていたが
その淡々とした語りにもその魅力が溢れている

実のところ若い頃の沢田研二にはあまり関心をもてなかったが
ヒットソングではなくたとえばボリス・ヴィアンの
シャンソンを歌っている姿を観て以来
次第にその魅力がわかるようになってきた
こうして演じる沢田研二にも独特な味があって
ほんとうにいいお顔をされている

この映画の見所はたくさんあり
料理は料理研究家の土井善晴が担当
映画での料理はじっさいにその指導のもとで
沢田研二が作っていたのだという

音楽が大友良英だというのもそうだが
沢田研二の歌う主題歌の作詞が覚和歌子
作曲・編集が大村憲司だというのも少しばかりうれしい

そしてなにより脇役陣にも見所が多い
松たか子や火野正平といった役者もなかなかだが
とくにうれしかったのは
久々にその姿をみた奈良岡朋子である

若い頃その奈良岡朋子の声がとても好きで
朗読された声を録音したカセットテープなどを
繰り返し聴いていたことを思い出す

ちなみに昨日少しだけふれた
道元の「典座教訓」のことも
映画の一シーンででてきたりもする
今日この映画をとりあげてみる気になったのも
それがきっかけとなっていたのかもしれない

四季の移ろいのなかでその旬を食べるということだが
小さい頃はそれと意識しないまま
そうしたうつろいのなかに溶け込んで生きていて
むしろそうした季節感を意識化することは少なかったけれど

こうしてそれなりに年を経てきて
このところようやくそうした季節のうつろいを
意識的に感じられるようになってきたような気がしている
その意味でもこの映画は
沢田研二のようにそれなりに年を経てきた人にとっては
とくにこころの深いところに届いてくるのではないか
そんなことを思った次第

■監督・脚本:中江 裕司『土を喰らう十二ヵ月』

出演:沢田研二 松たか子 西田尚美 尾美としのり 瀧川鯉八 / 檀ふみ 火野正平 奈良岡朋子
監督・脚本:中江裕司『ナビィの恋』  
原案:水上勉『土を喰う日々 ―わが精進十二ヵ月―』(新潮文庫刊)            
      『土を喰ふ日々 わが精進十二ヶ月』(文化出版局刊)
料理:土井善晴  音楽:大友良英 
製作:『土を喰らう十二ヵ月』製作委員会
配給:日活 制作:オフィス・シロウズ
©2022『土を喰らう十二ヵ月』製作委員会

※以下、特設サイトより引用

◎一年半をかけて撮影した沢田研二の待望の主演作

1960年代にデビューして以来、ミュージシャンとしても俳優としても、唯一無二のオーラを放ち続けている沢田研二。昨年は代役で主演した『キネマの神様』で話題を呼んだが、実はその以前から、一年半がかりの映画の撮影に取り組んでいた。それが『土を喰らう十二ヵ月』である。
北アルプスを望む信州を舞台に、犬一匹と山荘で暮らす作家の一年間を季節の移り変わりと共に追った本作は、沢田研二の今の魅力を封じ込めた待望の主演作である。

◎水上勉の料理エッセイを中江裕司監督が脚本化

原案は、『飢餓海峡』などのベストセラーで知られる水上勉が、1978年に雑誌ミセスに連載した料理エッセイ。少年時代に京都の禅寺で精進料理を学んだ水上は、自ら収穫した野菜や山菜を駆使して料理を作り、それを食す歓びや料理にまつわる思い出を味わい深い文章に仕立てあげた。その世界観を元に、『ナビィの恋』の中江裕司監督が脚本を執筆。
自然を慈しみ、人と触れ合い、おいしいご飯を作り、誰かと食べられることに感謝する日々を送る男の姿を通して、丁寧な生き方とはどういうものか、真の豊かさとは何かを問いかける。

◎監督・脚本:中江 裕司

1960年11月16日、京都府生まれ。琉球大学農学部卒業。80年に琉球大学入学と共に沖縄に移住。琉球大学映画研究会にて多くの映画を製作。92年、『パイナップル・ツアーズ』の第2話「春子とヒデヨシ」でプロデビュー。99年、『ナビィの恋』を監督。沖縄県内をはじめ全国的に大ヒット。2003年、『ホテル・ハイビスカス』が、全国公開され大ヒット。05年に那覇市に「桜坂劇場」をオープンし、運営会社のクランク代表取締役社長に就任。映画監督として活動しながら、桜坂劇場を経営している。

◎料理研究家・土井善晴が映画に初挑戦

白胡麻はすり鉢で皮をむいて、胡麻豆腐にする。筍を炊いて木の芽をたっぷり盛って仕上げる。原案エッセイの中に登場する豪快にして繊細な料理を、目にも耳にもおいしく再現したのは、家庭料理の第一人者として知られる料理研究家の土井善晴。本作で初めて映画の料理を手がけた土井は、食材選びや扱い方、手さばきの指導や器選びに至るまで、深く作品に携わった。

◎松たか子ほか、実力派の豪華俳優陣が結集

毎日の家事をひとつひとつ丁寧にこなす性格でありながら、13年前に亡くなった妻の遺骨の処遇を今も決められないでいる主人公のツトムを、独特の色気を漂わせて演じる沢田研二。
彼を支える共演陣にも豪華な顔ぶれが揃った。ツトムの山荘を時折訪ねてくる担当編集者で、年の離れた恋人でもある真知子に、『ラストレター』の松たか子。ツトムの手料理を、口いっぱいに頬張る食べっぷりが愛らしい。さらに、ツトムの義母に奈良岡朋子、山歩きの師匠の大工に火野正平、恩人の住職の娘に檀ふみと、味のあるベテランが脇を固めている。そして、地元長野の人々が中江監督のワークショップを経て多数出演している。

◎スクリーンで、主人公と十二ヵ月を体感する

タイトルの「土を喰らう」とは、旬を喰らうこと。四季の移ろいの中で、自然が恵んでくれる食物をありがたく頂くことだ。その食に向き合う精神は、今この瞬間を大切に生きることを意味している。楽しくも厳しい里山の暮らしから、そんな人生の極意を学んでいくツトムの物語は、日々の生活に追われ、旬を感じることが難しくなってしまった私たちに、人としての豊かな生き方を体感させてくれる。

◎物語

〈立春〉

作家のツトム(沢田研二)は、人里離れた信州の山荘で、犬のさんしょと13年前に亡くなった妻の八重子の遺骨と共に暮らしている。口減らしのため禅寺に奉公に出され、9歳から精進料理を身に着けた彼にとって、畑で育てた野菜や山で収穫する山菜などを使って作る料理は日々の楽しみのひとつだ。とりわけ、担当編集者で恋人の真知子(松たか子)が東京から訪ねてくるときは、楽しさが一段と増す。皮を少し残して囲炉裏であぶった子芋を、「あちち」と頬張る真知子。「おいしい。皮のところがいいわ」と喜ぶ姿に、ツトムは嬉しそうだ。

〈立夏〉

荘から少し離れたところに、八重子の母チエ(奈良岡朋子)が畑を耕しながらひとりで暮らしている。時折様子を見に来るツトムを、チエは山盛りの白飯、たくあんと味噌汁でもてなした。八重子の墓をまだ作っていないことを、今日もチエにたしなめられた。帰りには自家製の味噌を樽ごとと、八重子の月命日に供えるぼた餅を持たされた。

〈小暑〉

塩漬けした梅を天日干しにする季節、ツトムの山荘に文子(檀ふみ)が訪ねてくる。彼女は、ツトムが世話になった禅寺の住職の娘。住職に習った梅酢ジュースを飲みながらの昔話。文子は、亡き母が60年前に住職と一緒に漬けた梅干しを持参していた。「母は、もしツトムさんに会うたらお裾分けしてあげなさい、と言うて死にました」と文子。夜、ひとりになったツトムは、作った人が亡くなった後も生き続けている梅干しの味に泣いた。

〈処暑〉

チエが亡くなった。義弟夫婦(尾美としのり、西田尚美)に頼まれて山荘で葬式を出すことになったツトムは、大工(火野正平)に棺桶と祭壇を頼み、写真屋(瀧川鯉八)に遺影を頼みと、通夜の支度に大忙しだ。東京から真知子もやって来て、通夜振る舞いの支度を手伝うことに。
夜、思いがけなくたくさん集まった弔問客は、チエに作り方を習ったそれぞれの味噌を祭壇に供えた。

葬儀のあと、真知子を栗の渋皮煮でねぎらったツトムは、「ここに住まないか」と持ち掛ける。「ちょっと考えさせて」と応じた真知子だが、しばらくして、ふたりの心境に変化を生じさせる出来事が起こる――。

◎『土を喰らう十二ヵ月』特設サイト

◎『土を喰らう十二ヵ月』本予告

◎映画『土を喰らう十二ヵ月』主題歌・沢田研二「いつか君は」
作詞/覚和歌子 作曲・編集/大村憲司


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