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石川直樹「高所順応の旅」(『地上に星座をつくる』)/「地上に星座をつくる 第122回 高所順応を維持するために」(「新潮」)/稲垣史生『DEEP LIFE 海底下生命圏』

☆mediopos3258  2023.10.19

登山のために
「高所順応」する話と
海底地下世界を生きる
生命圏の話から・・・

地球上では
高度が上がれば上がるほど
酸素濃度が低くなり
そこで生きていくのはむずかしくなる

高峰に登るときは
一気に頂上に登るのは高山病になって危険なので
「一日で上がる標高を最大で
700〜800メートルにおさえる」必要があるという

しかも標高4000メートルを超えると
体調に変化があらわれ
歩くスピードがも落ち呼吸もきつくなる・・・

8000メートル峰のアンナプルナのような
高峰に登る必要があるにもかかわらず
ビザの関係で日程調整ができないときなどは
低酸素室のあるトレーニング施設で
体を高所順応の状態に維持する必要があったりもする
(以下に引用した石川直樹のエッセイによる)

海底の地下においても
海深が深くなればなるほど
酸素濃度は著しく低くなる
しかもそこには海水の圧力がかかる

海底下1000メートル以上の
極限的な環境にも微生物たちは存在しているが

人間のばあい
海底に素潜りする
つまり息をこらえて潜る限界は
かつて30メートル程度といわれていた

ジャック・マイヨールは100m(1976年)
さらにヘルベルト・ニッチュは214m(2007年)の
記録を残しているとはいえ
そこらあたりが人間の身体能力の限界である

上記のことからもわかる通り
地球という惑星に生物が生息できる環境
さらには人間がふつうに生活できる環境は
きわめて限られている

生活環境を拡大しようとすれば
そして上と下の変化だけではなく
水平での環境の変化もあわせ
そこに「順応」するためには
それなりのその場に応じた準備と
それに要する時間が必要になる

しかし主に身体的な能力の問題だけではなく
それとは別に「魂」の問題も関わってくることになる

生存可能な環境だからといって
どんな「魂」でも
そこでたしかに生きていけるとはかぎらない

少しばかり話は飛躍するが
「魂の転生」ということを考えると
その「魂」にも「順応」ということが重要となる

ある環境に一気に慣れようとしてしまうと
「高山病」のような病を発症してしまいかねない
「順応」するための「魂」を訓練するプロセスが
必要となることもあるだろう
そのひとつが「イニシエーション」だったりもする
(生きていくことそのものもまた「イニシエーション」)

転生ではないが
たとえばキリストのばあい
人間のなかで生きていけたのは
3年ほどだけだったというから
(ウルトラマンはいちどに3分だけだが)
そうした困難というのも人間にはある
身体をもって生きていくのは大変なのだ

地球という惑星での生は
「制限」ということが特徴となっているそうだ
おそらく高峰に挑戦したり
スポーツなどのように肉体の限界に挑んだりするのも
そうした「制限」を克服することで
それにともなった「魂」の能力を高める試みでもあるのだろう

■石川直樹「高所順応の旅」
(『地上に星座をつくる』新潮文庫 令和五年五月)
■石川直樹「地上に星座をつくる 第122回 高所順応を維持するために」
 (新潮2023年11月号)
■稲垣史生『DEEP LIFE 海底下生命圏
      /生命存在の限界はどこにあるのか』
 (ブルーバックス 講談社 2023/5)

(『地上に星座をつくる』〜石川直樹「高所順応の旅」より)

「チベットのカイラス山に行こうと思ったのだが、カトマンズの中国大使館でビザがおりず、チベット行きはあきらめざるをえなかった。が、何もしないで日本に帰るわけにはいかない。今回2019年の旅の目的は、もちろんカイラス山という巡礼地をこの目で見ることだったのだが、もう一つの目的は高所順応だった。
 1カ月後に世界で二番目に高いK2に行くため、事前に5000メートルほどの高所にあがって身体を慣らしておく必要があった。高所順応ができて、しかも自分が前から行ってみたかった場所、ということでチベットを行き先に選んだわけだが、ビザがとれなかった以上、それに代わる旅先を急遽考えねばならない。」

「標高4000メートルを超えると、自分自身の体調にも変化があらわれる。歩くスピードがどうしても落ち、呼吸もきつい。通常、高山病にかからないためには、一日で上がる標高を最大で700〜800メートルにおさえるべきだと言われる。しかし、今回の行程は一日に100メートル以上の高低差を登っていく。いくら慣れていても体がついていかず、普段と同じようにはいかない。」

(『地上に星座をつくる』〜「あとがき」より)

「それぞれの断章は星として瞬きながら、また別の星と接続して無限の星座を形づくる。見る人によって、時代によって、思いがけない出会いを繰り返しながら、留まることなく宇宙の片隅で変化し続けていってほしい。そのように願ってやまない。」

「かけがえのない日々の経験が、まだ見ぬ新しい星座を次々に浮かび上がらせてくれることを信じて、ただ歩き続けていくだけだ。」

(『地上に星座をつくる』〜「文庫版あとがき」より)

「東京では本日3月14日に桜が開花したらしいが、ここネパールの山中では、夜になっても雪が深々と降り積もっている。ぼくは今ムクティナートというヒンドゥー教の聖地に滞在しながら、この原稿を書いている。標高は3800メートル、明日はさらに上のほうまで登って高所順応に務め、数日してから近くの6000メートルほどの山に登った後、8000メートル峰のアンナプルナという高峰に向かう予定だ。」

(石川直樹「地上に星座をつくる 第122回 高所順応を維持するために」より)

「パキスタンのガッシャーブルムⅠ峰に登頂して帰国したのは、2023年8月初めのことだった。秋にチベットの山に登る計画を立てており、パキスタン遠征で高所の薄い空気に順応した体をそれまでどうにか維持する必要があった。せっかく高所に順応した体も、低地に長く滞在すれば元に戻ってしまう。
 そこで、ぼくは久々に富士山に向かった。身体に染みついた高所の記憶を呼び起こすためには、少しでも高い場所に行くしかない。それが唯一にして最善の策である。」

「富士山から帰って直後の8月末に出国するはずが、9月になってもビザがおりず、延々と待たされる羽目になった。ぼくは高所順応が体から消えていくことに焦りを覚え、冒険家の三浦雄一郎さんが主宰するミウラドルフィンズの低酸素室の門をたたいた。
 代々木にあるミウラドルフィンズのトレーニング施設は、10年近く前にお世話になったことがある。低酸素室自体は日本のあちこちに作られたけれど、酸素濃度を標高6000メートル相当まで下げられる施設はまれだ。マラソンや格闘技などにおける低酸素トレーニングは標高3000メートル程度がせいぜいで、6000メートルまで酸素濃度を下げてしまうと、高所のことを知らないトレーナーには手に負えなくなる。部屋に入ってみればわかるが、普通の人は10分もしないうちに頭がくらくらしてくるはずだ。人間が生きていくために酸素というものがどれだけ不可欠か、低酸素状態に身を置いて初めて痛感する。」

(稲垣史生『DEEP LIFE 海底下生命圏』より)

「海底下では、深くなるにつれて圧力が高くなり、堆積物はギュッと押しつぶされて、泥の粒と粒の隙間がどんどん狭くなります。当然、そこに暮らす微生物たちも身動きが取れなくなっていきます。この間に、数万年以上の時間が過ぎています。海底から或る程度以上の深さになると、微生物たちは、「ああ。食べるものがほとんどないし、なんか息苦しいし、もう争いごとにエネルギーを使うのは附かれた。無駄だし、やめようと。ともに助け合っていこうよ」と話し合いを始めます。たぶん、微生物たちはそう言っています。
 私たち人間は、呼吸によって体内に酸素を取り入れています。その酸素を用いて有機物を分解することで、生きるためのエネルギーを得ています。微生物たちも同じです。生きていくためのエネルギーを得るには、酸素や硝酸、硫酸などの酸化物質が必要です。酸化物質は海水に豊富に含まれています。しかし、堆積物に染み込んだ酸化物質は、表層の微生物たちの呼吸によってすぐに消費されるので、深くなるほど酸化物質は少なくなります。高い山に登ると酸素濃度が低くなって、息苦しくなるでしょう。それと同じように、酸化物質の濃度が低い海底下深くでは、美説物たちは呼吸することが難しくなります。これは死活問題です。
 そこで微生物たちは、競争をやめ、共存共栄のための方法を模索し始めます。まず、異なる種類の微生物同士でパートナーシップを結び、生きていくために必要なことを分担します。さらに、パートナーシップを結んだ微生物たちが集まり。コミュニティー・ネットワークを形成することで、効率化を図ります。限りなく無駄をなくし、栄養や酸化物質が少ない環境でも平和に生きていけるようにするのです。」

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