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カール・ローズ『WOKE CAPITALISM「意識高い系」資本主義が民主主義を滅ぼす』

☆mediopos3193  2023.8.15

「ウォーク(woke)」という言葉がある
それは「wake=目を覚ます」という動詞から派生し
当初は「社会正義」を
実践しようとする人びとに使われていた

その「社会的正義」とは
気候変動・環境保護・人種的偏見や性差別の撤廃
LGBTQ・性的暴力廃絶等といった
進歩的なポリティカル・コレクトネスに関わるものだが

その「ウォーク」は今ではむしろ
「表向きは意識が高いようなふりをしながら、
その実、これらとは矛盾する行動をとる
「えせ進歩主義者」を非難する言葉として
使われるようになっている」という

訳者はその「ウォーク」を
「意識高い系」という言葉で表現している

少しでも「意識」すれば明らかなように
そうした「ウォーク資本主義」現象は
企業が社会問題に取り組むことそのものを偽装し
実際は企業利益に直結する現代資本主義の構造を
如実に表しているといえる

企業による「社会的正義」を偽装した
「ウォーク資本主義」は
「民主主義の価値観と明らかに矛盾し、
富と所得の不平等を拡大し続け、
少数富裕者層の利益のための権力行使を永続させる」

現代日本の不可解で不条理なまでの増税や
それと同時に行われる企業負担等の軽減を見るだけでも
「ウォーク」は「目覚め」ではなく
むしろ人びとを眠らせる仕掛けであることがわかる

公共の利益や倫理に基づいているはずの
メディアや「科学者」たちさえ
人びとを眠らせる仕掛け人となっているのも
その主要広告主の意向に反することが
事実上できなくなっていることが大きな原因となっている

マイナンバーカードに関して
一企業が「納期」を守るようにといった言葉を
抵抗もなく使っていることからだけでも
さまざまな政策が経団連・財界の意向に基づいて
政治が実行しようとしていることは明らかである

地球温暖化やSDGsなどに関連した
行政上のさまざまな取り組みの意図についても
少しでも「意識」的になることさえできれば同様である

企業倫理も政治倫理も教育倫理さえ
いまでは人びとを眠らせるための
逆説的な「ウォーク」と化している感が強くある

どうすればほんとうの意味で
「目覚め」ることが可能となるのだろうか

■カール・ローズ(庭田よう子訳/中野剛志解説)
 『WOKE CAPITALISM「意識高い系」資本主義が民主主義を滅ぼす』
 (東洋経済新報社 2023/4)

(【巻頭解説】偽装された新自由主義(中野剛志)より)

「「ウォーク(woke)とは、「目を覚ます」ことを意味する。1960年代頃のアメリカで、黒人たちの間でよく使われたスラングだったらしい。その「ウォーク」というスラングが、今日では、別の意味を帯びて復活してきたのだという。
 しかも、近年、「ウォーク」は、あまり良くない意味や冷やかしの意味を込めて使われる言葉になっているという。
 それは、環境保護、人種的偏見や性差別の撤廃、LGBTQ(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー等)の権利、経済的平等といった進歩的なポリティカル・コレクトネスや社会正義に対して、表向きは意識が高いようなふりをしながら、その実、これらとは矛盾する行動をとる「えせ進歩主義者」を非難する言葉として使われるようになっているのだという。(・・・)
 そう、「ウォーク」という英語のスラングを、日本語の最近のスラングで翻訳するならば、「意識高い系」になるのである。
 人びとが使うスラングは、社会の相貌を映す鏡である。「意識高い系」という言葉が流行っているということは、日本にも「ウォーク資本主義」現象が起きているということにほかならない。」

「公共の利益を重視しているかに見える企業活動は、むしろ、企業の経済的な利益を守り、さらには殖やすための手の込んだ策略なのだ。ローズ教授は、そう主張するのである。
 まず、社会的正義に熱心であるという企業のブランド・イメージを打ち出した方が、より儲かる。だから、企業は、熱心に寄附を行っているのである。もっとも、それだけなら、たいして悪い話ではないかのように見える。それどころか、企業の私的利益と公共の利益が一致するならば、それは歓迎すべきことではないかと思われるかもしれない。
 しかし、問題は、そこにはとどまらない。
 富裕者層が巨額の寄付を行って公共の問題に取り組む姿勢を見せるのは、裏を返せば、民主政治が公共の利益を実現する必要はないというジェスチャーなのである。
 そのジェスチャーが意味するのは、公共の利益を実現するのは、一部の富裕者層や権力者であって、民主的に選ばれ、国民に対して説明責任を持つ政府ではないということである。
 それは、端的に言えば、民主主義の否定にほかならない。富裕者層にとる金権政治である。
 富裕者層の金権政治は、公共の利益のために私的利益をある程度は犠牲にするが、もちろん、私的利益を大きく損なうような公共への奉仕には決して応じない。富裕者層の金権政治における公共の利益は、富裕者層の権益を維持できる範囲内でしか、実現されないのである。」

「「意識高い系」富裕者雄による「意識高い系」の社会貢献活動は、実は、進歩主義的なのではなく、その反対に、「富める者はますます富み、貧しき者は持っている物さえも取り上げられる」(聖書マタイ伝)という不平等な社会構造を維持し、富める者の既得権益を守るための極めて狡猾な策略なのである。」

「この悪質な偽装された新自由主義たる「ウォーク資本主義」は、すでに日本にも浸透しつつある。」

(「第1章 ウォーク資本主義に関する問題」より)

「ウォーク資本主義は、現代の経済・政治活動における、とくにわたしたちの生活を多面的に支配する巨大な多国籍企業における、拡大する一方の厄介な側面である。この危険な動向を批判することは、反動的な保守派の論客に同調することを意味してはいない。彼らはウォークネスを、利己的な利潤追求という資本主義の中核を踏みにじるものとして非難する。それに対して、ウォーク資本主義の本当の危険性は、資本主義体制を弱体化させることではなく、政治権力の企業エリートへの集中を一層強化することである。この動向が続くことが、民主主義に対する脅威なのである。それはまた、平等、自由、社会連帯の可能性にあえて希望を持ち続ける、進歩的な政治に対する脅威でもある。」

(「第13章 ウォーク資本主義から目を覚ます」より)

「新自由主義の秩序は民主主義の価値観と明らかに矛盾し、富と所得の不平等を拡大し続け、少数富裕者層の利益のための権力行使を永続させる、ウォーク資本主義にまで至らしめた。また。また、わたしたちの産業システムは環境を破壊し、この世界を将来の世代にとってますます住みにくいところにしている。ウォーク資本主義はその建前とは裏腹に、こうした問題に取り組むことはない。それどころか、問題を悪化させ隠蔽しようとしている。今こそ、ウォーク資本主義から目を覚ます(ウォーク)ときである。その特徴と政治的影響に気づくときである。すべての人のために世界を平等と正義の道へと導くためにも、介入するときである。」

○目次

【巻頭解説】偽装された新自由主義(中野剛志)

第1章 ウォーク資本主義に関する問題
第2章 企業ポピュリスト
第3章 ウォークの意味の逆転
第4章 資本主義、ウォークになる
第5章 株主第一主義
第6章 ウォークネスの皮を被った狼
第7章 見た目が良くても環境に良いとは限らない
第8章 CEOアクティビスト
第9章 人種、スポーツ、ウォークネス
第10章 人種的資本主義とウォーク資本主義
第11章 ウォークな企業の最高のあり方
第12章 右手で与える一方で
第13章 ウォーク資本主義から目を覚ます

◎カール・ローズ
シドニー工科大学UTSビジネススクール学長兼組織論教授
シドニー工科大学組織論教授。主な研究テーマは、企業が市民や市民社会からその行動に対してどのように責任を問われ、また問われるべきかに関すること。この研究は、社会における企業の役割を批判的に問い直し、繁栄を皆で分かち合えるようにすることを目的とする。倫理、政治、経済について、主流派や独立系の新聞に定期的に寄稿している。著者の記事は、『ファスト・カンパニー』、『ビジネス・インサイダー』、『ガーディアン』、『コモン・ドリームズ』、『カンバセーション』などで読むことができる。近著にCEO Society: The Corporate Takeover of Everyday Life(Zed Books, 2018, with Peter Bloom)、Disturbing Business Ethics (Routledge, 2019)がある。著書はこれまで、中国語、オランダ語、ハンガリー語、イタリア語、韓国語、ポーランド語、スペイン語、トルコ語に翻訳されている。

◎庭田 よう子(ニワタ ヨウコ)
翻訳家
翻訳家。慶應義塾大学文学部卒業。主な訳書に、ヤーデン・カッツ『AIと白人至上主義』(左右社)、ダニエル・リー『SS将校のアームチェア』(みすず書房)、ヨラム・ハゾニー『ナショナリズムの美徳』(東洋経済新報社)などがある。

◎中野 剛志(ナカノ タケシ)
評論家
評論家。1971年、神奈川県生まれ。元・京都大学大学院工学研究科准教授。専門は政治経済思想。1996年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。 2001年に同大学院より優等修士号、2005年に博士号を取得。2003年、論文“Theorising Economic Nationalism”(Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。著書に山本七平賞奨励賞を受賞した『日本思想史新論』(ちくま新書)、『TPP亡国論』 (集英社新書)、『国力論』(以文社)、『富国と強兵ー地政経済学序説』(東洋経済新報社)、『変異する資本主義』(ダイヤモンド社)などがある。

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