[3]日本のデザイン系デッサンは、独自の評価基準。海外の経験がマイナスになる事例も。

帰国生入試や留学生入試のデザイン系学科の受験対策をする時に、気をつけなければならないことがあります。それは、日本の美大で要求されるデッサン力が、「正確に形を取る能力」である、ということです。

日本の美大で必要とされるデッサン力は大雑把にいって、2系統あります。それは、「表現としてのデッサン(油絵系)」と「正確に形を取るデッサン(デザイン系)」の2系統です。

主に油絵・彫刻などで要求される「表現としてのデッサン」は、描いたデッサンが「絵としての魅力が素晴らしいか」を大切な要素と考えます。例えばワインの瓶がモチーフとされている場合、「ワインの瓶をいかに魅力的に描けているか」で評価が決まってきます。よって、ワインの瓶を構成する各パーツの比率やプロポーション、色彩や形の特徴などは誇張したり省略してしまっても、それが魅力的に見えるのならOKとなります。

それに対して、主にデザイン系で要求される「正確に形を取るデッサン」は、描いたデッサンが「目の前のモチーフを正しく画面上で再現できているか」を大切な要素と考えます。例えばワインの瓶がモチーフとされている場合、「ワインの瓶の各パーツの比率やプロポーション、形の特徴などを過不足なく再現できているか」で評価が決まってきます。よって、ワインの瓶を構成する各パーツの比率やプロポーション、色彩や形の特徴などは誇張したり省略すると、それは大きなマイナス点(目の前のモチーフを正確に再現しなかったので)となります。

日本の美大を外国人留学生入試で受験される方を見ていると、油絵・彫刻などで要求される「表現としてのデッサン」を学ばれた方が、デザイン系の学科を受験しようとする場合があります。そのような方には、日本の美大のデザイン系が要求するデッサン力が、「表現としてのデッサン」ではないことを説明して納得してもらう必要がありますし、説明すると、驚かれることがほとんどです。

このことから、日本の美大のデザイン系学科を受験する際には、「日本の美大ではモチーフの比率やプロポーション、色彩や形の特徴を正確に再現することがデッサンで求められていること」をしっかりと意識しながら対策をしていく必要があるのです。

なお、日本の美大のデザイン系学科で「正確に形を取るデッサン」が要求されるのは、伝統的に日本が「職人の国」だったからだと思われます。依頼されたものを正確に再現したり、寸分違わず複製したりすることが伝統的に要求され、昔の日本人はそれができるまでスキルを磨き上げることを誇りとして来ました。

「デザイン」という概念を表す日本語の呼称が見当たらないほどに、「デザインすること」が当たり前だった国が、日本です。それを支えて来たのは、「職人気質」だったと思われます。

それは現代になっても、日本の企業の特徴として現れているように思います。世界進出している日本メーカーの評判は、「故障が少ない」「大量生産なのに、ほとんど誤差がない」など細やかで正確な仕事が評価されているはずです。(近年では、発想の固着化と時代の変化に対する柔軟性の無さというマイナス面が目立って来てしまっている部分もありますが。まるで江戸時代末期がそうだったように)

よって、日本で「デザインすること」は、「職人としてモノを作り上げること」が精神性の源流としてずっと存在し続けています。それが、「正確に形を取るデッサン(職人気質のデッサン)」を美大のデザイン系受験で要求して来る理由だと考えてみれば、理解しやすいでしょう。



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