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こおろぎ兵士の夢

まるで村上春樹さんの短編小説のタイトルのようだが、そのとおりの夢を見た。

ヘルメットをかぶった、こおろぎの兵士が身を潜めている。僕の身体はこおろぎ大になっているらしく、こおろぎ氏は人間くらいの大きさに見える。周りに草が茂っているから、ここはどこかの庭なのだろう。

こおろぎ氏はじっと何かを待っている。僕は、「何やってんだよ、敵がやってくるよ。早く行こう」と彼を急かす。危機が迫っているのだ。

こおろぎ氏は、ただ一つのことを除いて、一切の記憶を失っていた。彼は「友達がここに帰ってくるんだ、だから何が何でも自分はここにいなきゃいけない」と言う。僕がどれだけ言っても動こうとしない。

記憶を失くしてわけがわからなくなっても、彼には自分の命よりも友情のほうが大切なのだ。こおろぎ氏の目と声には迷いがない。

その姿に心を打たれながらも、僕は彼を残して行くことにする。このままここにいては自分の命も危ない。「さらば、こおろぎ君」と、後ろ髪を引かれる思いで立ち上がったところで、目が醒めた。

はっと我に返る。妻が、「大丈夫?あんた泣いてたよ」と心配している。「置いていかないとあかんかってん、こおろぎの友達を」と説明すると、金切り声を出して爆笑していた。あんな風に笑う人を僕は見たことがない。でも真剣に悲しかったんだよ(笑)。

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