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自分のルーツを知ること

数ヶ月ぶりに実家に立ち寄った。姉に貸していたゲーム機を回収する目的だったが、なんとなく気が向いて、実家の近所を車で回ってみた。実家はしけった住宅街にあるのだが、いわゆる町の中心街からは離れる方向、つまり住宅街の奥地へ入っていくのは、もう数年、もしかすると十数年ぶりのことだった。小学校も低学年のころは、よく向かいの家の友達と、この住宅街の奥地まで張り巡らされた道路を、自転車で駆け巡ったものだった。

昔は家があった場所が更地になっていたり、父の働いていた工場が新興住宅地に飲み込まれて見る影もなくなっていたりした。それでもかつての同級生たちの家や、遊んだ公園などはほとんど記憶のまま、すこし小さくなったように見えたがそこにあった。

ふいに昔のこと、まだ幼かった頃の感覚が蘇ってきた。あの頃の自分はポケモンに夢中で、新しい町へ行き、新しいポケモンを捕まえ、育てることに胸を躍らせていた。そしてゲームで感じたワクワクが、現実世界でのワクワクとも大きく重なっていた。まだ見ぬ世界を旅するあの感覚は、現実でも、ゲームでも、同じことだった。

実家の自分の部屋に入ると、懐かしい匂いが鼻をかすめた。すこし埃っぽいカーテンの匂い、窓から差し込む夕日、しなびた畳の感触、すべてあの頃と同じだった。低いベッドに腰を下ろして、長く息を吐いた。

間違いなく自分は、この場所で育ったのだと感じた。そして自分の原初の価値観もまた、この場所で育まれた。忘れていただけで、たしかにそこにあった時間の大きさに、すこし触れたように感じた。

「最も個人的なことは、最もクリエイティブなことだ」

『パラサイト』の監督であるポン・ジュノ氏がアカデミー賞授賞式で語った、巨匠マーティン・スコセッシ氏の言葉。

自分にできる最も価値のある仕事をするには、自分のルーツを無視することはできない。それは誰にでもある、最も原始的なエネルギーの源泉だ。

たまには実家に帰るのも悪くない。助手席にゲーム機を載せて家路を急いだ。

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