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中国・広州 part1 「食は広州にあり」~猿食の挫折~

ブログ欲が爆発し、3記事に及ぶ備忘録を書いてしまった厦门旅を終えた僕が次に向かったのは中国南部最大の都市広州であった。

誰もが一度は耳にしたことのあるだろう「食は広州にあり」という言葉の通り、豊富な食材に恵まれ、広東料理の本場として名高い広州。

僕が広州において一番期待していたのも「食」であった。

ただこの「食は広州にあり」という言葉、もとは広州の美食を指す故事であったのだか、近年では必ずしも意味が一致している訳ではない。

それを裏付ける言葉としてこんなものがある。

「広州人は四足なら椅子と机以外、飛ぶものは飛行機以外、二つ足は親以外の物は食べる」

どんなものでも食べてしまう広州人の性質を言い表したのがこの言葉である。

つまり「食は広州にあり」という言葉の「食」には美食だけではなく奇食も含んでいるのだ。

僕は以前中国人の友人から広州の奇食についてこんな話を聞いた。

「広州では猿の脳ミソを食べる習慣がある」

僕は耳を疑った。

脳ミソ? 猿? 何のために?

様々な疑問がすぐさま浮かんだが、僕の質問力とリスニング力では「猿の脳ミソが体にいいと考えている人がいる」ということぐらいしか聞き取れなかった。

ただその友人は「この文化は他の中国人にとっても理解できない」との様子でしきりに気持ち悪いと非難していた。

他の中国人にも軽蔑されるほどの独自性を持つこの「猿食」とは何物なのか。

それ以来僕は広州という言葉を聞く度に、この猿食の文化が頭をよぎるようになった。

いつの間にか僕の中で広州の「食」に関して本場の広東料理よりもこの「猿食」への興味が上回っていたのだ。

僕は厦门から広州へ向かう夜行列車の寝台で何度も「猿食」について調べた。

まず「猿食」の真偽であるが、中国の様々な地域で存在しており、特に広州を含む広東省でのエピソードが多いとのことであった。

次に猿の脳ミソを食べる理由としては中国の一部の地域では未だに動物の五臓六腑を食べることが自分の五臓六腑の機能を高めるのに有効だと信じられている。例 自分の胃の調子が悪いときに動物の胃を食べる。

猿の脳ミソを食すのも人間に近い猿の脳ミソを食べることで自分の頭が良くなるという理論の元で行われており、若く活きの良い猿であればあるほど高級食材として扱われるとのことであった。

この常軌を逸した理論は僕の猿食への興味をいっそう引き立てた。

しかし幸か不幸かこれらの「猿食」について解説したサイトはどれもこんな注意書きを残していた。

「現在猿食は法律で禁止されており、公に猿を食べることのできる場所はない」

いくら法律とはいえ需要があれば必ず供給があるのが中国であるのは以前の厦门旅が証明していた。

しかし所詮僕は初めて広州を訪れるただの日本人である。

広州で非公式で猿を提供するような店とのコネもなければ、探しだすほどの滞在時間も金もない。

僕は一度この奇食文化への興味を封印し、美食文化に傾倒することにした。

それからというもの僕の広州旅は典型的な旅行客そのものとなった。

広州一の繁華街「北京路」を散策したり、

見栄を張って広州飲茶を堪能したり、

学生半額に釣られて中国で最も高い広州塔に登ったりと広州を訪れる誰しもが行うような活動に終始した。

僕はすっかり奇食文化の思いを忘れ、「広州旅行」を満喫しつつあった。

ただ奴だけはそんな僕の腑抜けた姿を許してはくれなかった。

続く

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