野安の電子遊戯工房 ~取扱説明書がない時代のオープニングに期待すること~


 昨今のテレビゲームにおいて、オープニングシーンは、ものすごーく大事だと思うんです。

 なぜかというと、ゲームユーザーって、たいていは取扱説明書を読まないからです。このため、昨今のゲームでは、そもそも取扱説明書が存在しないことも多くなりました。

 とすると、ゲームをプレイする中で「操作方法を教える」しかないわけですが、ここで、ちょっと困ったことが起きるのですよ。

 生まれて初めてゲームをプレイする、といったスーパー初心者の人――つまりは「なにかあったら、とりあえずボタンを押せばいい」ということすら知らない人が、取扱説明書もないままゲームに対峙する可能性が出てきているからですね。

 さて。困ったことになりました。

 「ボタンを押せばいい」ということすら知らない人に、どうやってゲームの遊び方を伝えればいいのでしょう? というか、それ以前の問題として、どうすれば「ゲームの遊び方を伝えるところまで、プレイヤーを導いてあげられる」のでしょう?

 これこそが、現在のテレビゲームが直面している、もっとも大きな課題のひとつだろうなぁ――と、わたしは思います。




 この問題を解決する方法のひとつが、「優れたオープニングシーンを作ること」なのかもしれません。

 最近の大作ゲームの代表例として、「スーパーマリオオデッセイ」を見てみましょうか。冒頭、いきなりマリオとクッパによる、テンポのいい対決シーンが登場します。さらにはピーチ姫がさらわれてしまうというストーリーが描かれ、ほんの数十秒で主要キャラクターを全員、登場させてくるのですね。

 さて。主要キャラクターはひととおり登場したし、ストーリーも説明したし、ひと昔前のゲームなら、ここからすぐにゲーム本編に突入するところですが、「スーパーマリオオデッセイ」は、そんな性急な展開をみせません。ここから、ちょっとしたワンクッション入れてくるのです。

 ゲームに慣れている人なら、いきなり本編が始まっても、「なにかボタンを押せばいいんでしょ」と判断できるから、なんの問題もありません。

 でも、スーパー初心者の方は、そのように行動できません。そりゃそうですよね。初めて触れるマシンなのですから、「へたにボタンを押したら駄目なのかも」と不安になっている人もいるからです。このため、取扱説明書がない時代のゲームでは、ここでワンクッションが必要となるのでしょう。

 というわけで、このゲーム、いきなり地面とマリオしか見えないアングルになるのです。さっきまでのオープニングムービーで動き回っていたマリオが、まるで動かない、というシーンです。

 いやはや。このシーンは凄いぜ。

 だって、こうしておけば、きっと、このマリオを動かすゲームなんだな――と、どんなスーパー初心者でも理解できるもん。さっきまでのように元気に走らせなくちゃ、と思うもん。

 しかも、すごーく目立つように、Rスティックで「見まわす」というアクションができるよ、という情報が表示されています。「Rスティックという名称すら知らない人」のために、画面内にコンテローラーの実写映像を挿入するという徹底ぶりです。

 これなら、どんなスーパー初心者でも「まずはRスティックを動かせばいいのか」といったことが理解できますよね。こうして、とにかくコントローラーを操作すればいいんだね、というところから、まずは教えているわけですよ。この配慮は、ほんと凄いなぁ。

 その後は、Bボタンで「ジャンプ」し、Lスティックで「走る」というアクションができるよ――と、順を追って操作方法が表示され、それを体験させていくのですよ。そして、逃げていくキャッピーに追いつくと

 ようやく、もっとも大事な「帽子投げ」が説明される、という手順になっています。ここも、ちゃんと「コントローラーの使い方」の実写が挿入されるという徹底ぶりです。

 こうして、どんなスーパー初心者でも、ちゃんとマリオを操作する楽しさが体験できるようになるまで、ストレスなく導いていくんですよね。いやはや、オープニングシーンからの、この一連の流れは、ほんと上手いよなぁ。




 というわけで。

 ひと昔前のゲームでは、オープニングシーンというのは「ストーリーとか世界観を説明するため」に費やされることもありましたが、昨今では、「チュートリアルまで引っ張っていくための導入、あるいは演出」という意味合いが強くなっているんだろうなぁ、と実感しております。

 わたし、最近はインディーゲームをちくちくと遊んでいるのですが、ときおり戸惑ってしまうのは、こういった親切なオープニングがないことなんですよ。いきなり本編が始まってしまって、「さて。何を楽しむゲームなんだろう」と悩んでしまうことがあるのですね。

 インディーゲームは、スーパー初心者が手を出すようなジャンルではないので、オープニングシーンの作成に労力かけず、本編で勝負だ! という姿勢であることが正しいとは理解しているのですが、なんというか、もうちょびっとだけでいいから、導入部に力を入れてほしいなぁ、と思ったりしている昨今です。




 あ。そうだ。言い忘れてた。

 「スーパーマリオオデッセイ」のオープニングが凄いのは、たぶん「言葉がわからない子供でも、さほど苦もなく理解できる」ところですよね。

 昨今のゲームは、最初から数か国語の言語に対応していますが、それでも全世界の言語を網羅しているわけではありません。大人ならば「ゲームに登場する英語」くらいは読める人が多いでしょうが、小さな子供には無理な話です。

 そんな「英語すら読めない」子供たちでも、なんとなく操作方法が理解できるようになっているあたりは、ほんと上手いなぁと思います。なんというか、上手すぎて鼻につくくらい、めちゃくちゃ上手いですよね(笑)。

(2018/05/24)

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