野安の電子遊戯工房 ~2018年。ついに日本は"本当のワールドカップ"に触れたのかも~


 今回のワールドカップは面白いなぁ。

 ワールドカップのたび、4年おきにサッカーを楽しんでいるような方々も、今回はワールドカップ楽しめたんじゃないかと思います。

・前回大会で惨敗した相手に、いきなり勝利
・アフリカ勢と正面から打ち合い
・負けてるのに時間を潰し、勝ち抜けるというレア体験
・強豪国との真っ向勝負。そしてロスタイムでの悲劇

 こんな豪華なフルコースを堪能できるワールドカップは、めったに体験できるものではありません。あとはPK戦というデザートがあれぱ完璧だったかもしれませんが、そこまで望むのは贅沢というものでしょう。

 いまにして思えば、対回直前にハリルさんが解任されたことも、「雨降って地が固まらず、あらゆるものがグチャグチャ」な状況を生み、こういうマネジメントは最悪ではないのか? 日本はこれでいいのか? ほんと日本の組織はダメだ! といった日本人論めいたものを世の中に溢れさせる呼び水になり、ワールドカップへの注目を集める効果があったのかもしれません。

 だからなのか、今回のワールドカップは、試合のたびに「日本サッカーとは何か」「日本らしさとは何か」「この試合運びは日本として恥ずべきではないか」などと、自国文化と結び付けて語られることが多かったように思います。ふだんはサッカーを見ないような方々も、ふと日本人めたいものを混ぜ込みながら、日本代表について語っていたように観察されました。

 それは、これまでのワールドカップでは、あまり見られなかった現象だったように思いますし、わたし、ちょっと興味深く観察しておりました。




 だからこそ、わたしは思ったのですよ。

 今回、ついに日本は、世界基準の"本当のワールドカップ"に触れたんじゃないかなぁと。

 わざわざ説明するまでもないことですが、ワールドカップは、たかがスポーツの大会です。どこがナンバーワンなのかを決めるための大会にすぎません。

 にもかかわらず、世界中から人々が集まり、観客席で大の大人たちが敗北に号泣し、魂を抜かれたように席から立ち上がれなくなるほどに、他に類を見ない巨大なイベントとして世界中を熱狂させるのは、サッカーの代表チームが、自国の文化とか、自国の歴史とか、自国の民族性とか、そういったものを具現化した存在であるかのような"錯覚"に、いやおうなしに陥っていくからなんですよ。

 自国が勝つと、自国の文化が、歴史が、民族性が「勝った」ように誇らしい気分になっていくし、敗北すると、「すべてが否定された」ような絶望感に陥っていくんです。サッカーって、そういうスポーツなんです。

 日本でも、敗退後に、やはり今後も日本人監督がいいのではないか? 日本らしさを追求すべきだ! といった声が、ごく当たり前のようにワイドショーなどで語られているのを目にすると、2018年のロシア大会は、だからサッカーはこれほど人々の心を熱狂させるのだ――というワールド・スタンダードを、ついに日本人がごく自然に理解するようになった、そんな記念的な大会になったんじゃないかと、そんなことを思ったりしている昨今でございます。




 わたしは、その感覚を20数年前に知った人間です。

 初めてワールドカップを現地観戦したのは1994年のアメリカ大会。ドーハの悲劇によって、日本が出場を逃した大会ですね。

 その後、1998年のフランス大会、2006年のドイツ大会を現地観戦しました。ただし、その後の南ア、ブラジル、そして今回のロシアと、3大会連続で現地観戦はパスしております。「宿を確保しやすい」とか「電車で安全に移動できる」とか、そういった条件が満たされるときだけ現地に向かうという、中途半端に熱心なサポといえましょう。

 そのていどの中途半端なサポではありますが、今回、ワールドカップに興味を持ったような方に、ひとつだけアドバイスできることがあるとすれば、みなさん、人生で一度くらい、ワールドカップを現地観戦してみるといいですよ! ってことだったりします。そこには、テレビでは、まるで知ることのできない光景があるからです。

 いざ現地に行けば、これがスポーツの大会ではなく、それぞれの国の歴史とか、土地の匂いとか、そこに吹く風の色とか、つい口ずさむ歌とか、固い言葉で言うならば"自国のアイデンティティー"と呼ばれるものを身にまとった人たちが集い、ぶつかり合い、混ざり合う、すさまじいお祭りであることがわかります。だからこそワールドカップは、これほど世界中を熱狂させるということを、理屈ではなく、体感的なものとして理解できるんですね。

 残念ながら、そのとてつもない魅力は、日本でテレビを見ているだけだと、5%も伝わってきません。テレビ局は、これをスポーツの大会として報じるし、合宿所の様子や、試合の様子を中心にしてニュースで伝えるからです。

 だから、世界中の人たちが集い、試合前夜の街の広場に集った両国のサポたちが、がばがばと酒を飲み、大声で歌い続ける、あの魅力的な光景は、現地に行かないとわかりません。頭にチーズの帽子をかぶって、あえて「田舎者のコスプレ」をして乗り込んでくるスイス人のエスプリとか、到着した列車を降りたときは上品そうな服装だったのに、どんどん駅のトイレに流れていって、出てくるときはオレンジ一色の服に着替えて臨戦態勢に入っているオランダ人のスイッチの入れ方とか、イングランドが試合をする街に訪れては対戦する国の人たちの輪に入って一夜限りの同盟を組むスコットランド人の明るい自虐性とか、あらゆる試合に現れてはウェーブを起こそうとしてウザがられているのにずっと笑顔のメキシコ人気質とか、そういった「オレたちは、こういう民族性だよん!」という発露の光景は、現地に行かなければ知ることはできませんし、そんな光景を知ってから見るサッカーの試合は、テレビで見る試合とは、まるで楽しさが違うってことは、現地に行かないとわからないんです。

 だから今回、あまりサッカーに深く興味を持っていなかったけれど、つい「やっぱ監督は日本人がいいんじゃないかなぁ」「日本は日本らしいサッカーを目指すべきだよなぁ」といった、サッカーと自国文化を混じえて考えが口に出てしまったような人は、ぜひとも、次のワールドカップに行ってみるといいです。「あ、ワールドカップって、こういうことなのか」という、うまく言葉にできない、でも心からの素晴らしい体験ができるはずです。




 次の大会はカタールです。

 日本のワールドカップ出場が確定しているわけではありませんし、組み合わせ抽選会によってどうなるかはわかりませんが、今回同様、日本はグループリーグ突破の可能性が高めの大会になる、といっていいでしょう。

 サッカーの最先端はヨーロッパです。シーズンは秋~春です。つまりは「冬のヨーロッパ」という気候条件下で、もっとも勝利の確率が高い戦術が模索され、最適化されたものが最先端のサッカーなのですね。だからこそロシアで行われている今回の大会は、ベスト4をヨーロッパ勢が占めたわけですね。彼らは普段通りのサッカーするだけでいいから、力が出しやすいんです。

 でも、そんなサッカーは、中東のカタールで実行できるはずがありません。ヨーロッパ勢の戦力は、気候条件により、あるていどダウンするはずです。一方、ワールドカップ予選で、中東に慣れているアジア勢は有利です。日本には大きなチャンスがあるでしょう。

 なので、現地観戦って楽しそうだなぁ――と、そんなことを思った方は、4年後はぜひどうぞ。ほんと楽しいっすよ。




 なお、ホテルの確保とか、フライトの確保とか、そもそも試合チケット確保とか、そういうものが大変だよなぁ――と思っている方は、ワールドカップ期間中に、ワールドカップに出場しているヨーロッパの国に旅行して、現地のパブなどで試合を観戦する、という裏技的な方法を、最後にご紹介しておきましょう。

 その国の試合が行われる日に、パブリックビューイングに紛れ込んで、ビール片手に観戦するってのも、なかなか楽しいですよ。開催国で得られるほどの感動はありませんが、それでも、たっぷりとワールドカップ気分を堪能できます。

(2018/07/07)

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