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2022年のライフログ:夜に歩き、昼に歩く

1月:きっかけ

年明け早々、48歳にして人生初のお見合いをすることになった。
 
前年末、父が所属する地域の趣味サークルでの忘年会。
父と知人との会話で、双方に「離婚経験のある40代の独身息子(娘)」がいることがわかり、「一度会わせてみよう」という話になったそうだ。
そして「先方の娘さんから正式な誘いが来た」と父から突然告げられた。
 
僕は父に対して「嫌だ」と辞退した。
ようやく結婚からも仕事からも逃げきって、家賃収入だけで生計を立てる+資格試験勉強という誰にも邪魔されない生活を勝ち取ったのだ。
 
そうやって父に対して断る理由を並べながら、同時に「会いもしないで断るのは相手に対してあまりに失礼では」という気持ちが湧き上がってきた。
 
48歳男、離婚歴あり、別居の子供あり、自営業。
スペック的に婚活市場での市場価値はゼロに近いに違いない。
そんな僕に対して互いに写真も見たことのない女性側から「一度会ってみませんか」と提案してもらえたのを、断れる立場に自分はいるのだろうか?
 
僕は考えを改めて辞退を撤回し、彼女と直接メールでやり取りし、近くのホテルラウンジで待ち合わせをした。
 


ほとんど共通項のないふたりだったけれど、音楽の趣味だけはびっくりするくらいにマッチした。Daughterの話からEX:Reの「Romance」について語れて、他にも同じUKロックやネオソウルのアーティストをSpotifyに登録していた。
 
ここまでの趣味の合致は得難いな、と思いつつ、終了後には僕の方からお断りの返事をした。
僕は音楽友達がほしかったわけではなかったし、そもそも自分が結婚したいのかどうかもよくわからなかった。
 
誘われたのに会わないのが失礼なのではない。
結婚するつもりがないのにお見合いに行くのが失礼なのだ。
 
申し訳ないことをしてしまった。
 

 
昨年合格した宅建の登録実務研修(実務経験のない合格者が宅建士証の交付を受けるために必要な法定講習)を2日間受講した。
 

 
賃貸不動産経営管理士に合格し、実務講習に申し込んだ。
 

 
今年は新たにマンション管理士と管理業務主任者を受験すると決め、講座に申し込んだ。
 

 
知人に推薦された香月泰男展(シベリア抑留経験を元にした作品を多く残した画家)の予習として山崎豊子の「不毛地帯」を読み始めた。

2月:ロケットスタート

1月のお見合いがきっかけで婚活系のインフルエンサーのYouTube、Twitter、ブログなどを吸収するようになっていた。
そこで共通していた原則のひとつが「今日のあなたが最も若く、最も市場価値が高い」というセオリーだった。
 
確かに!
とシンプルに思った。
 
それならあと1年ちょっと、「40代」と名乗れるうちに自分の「市場価値」を試してみよう。

ダメならダメで失うものはないのだし。
2年前に17キロ痩せて、クローゼットの中身を丸ごと入れ替えた効果もまだ持続しているし。
 
2月に入ってすぐ結婚相談所に入会し、婚活写真を撮影し、独身証明書を取り、活動を始めた。すべてを3日間で済ませた。
 
中高年男性の婚活が難航する最大の原因は「高望み=若い女性を狙う」ことだということも予習していた。自分は全くそこにこだわりがなかったので、年齢が上でも下でも価値観の合いそうな人に片っ端からお見合いを申し込んだ。
 


あっけないくらい簡単に、多くの女性とお見合いに進むことができた。
お見合いが成立した女性とは、8割くらいの確率で仮交際に進むことができた。
こちらから断ったのも、断られたのも数人だった。
むしろみんな魅力的な女性ばかりで選べない!
 
一方で僕は複数の人と並行して交際するのがとても負担だった。
結婚相談所が公式に推奨するセオリーは、2〜3人の仮交際相手をキープしつつ、3〜5回ほどのデートを重ねるうちに最もよい人を選んで真剣交際に進む、というもの。
でもどうしてもそれができない。
 
結婚相談所の担当カウンセラーに相談すると「そういう場合は、結婚に積極的な女性を優先するのがよいです」「『結婚したいかどうかわからない』みたいに優柔不断な女性を相手にするのは時間の無駄です」とキッパリ言われた。
 


なるほど。それこそ1月の自分の姿だ。相手にしてはいけない。

僕は「理想の相手」や「運命の人」や、ましてや「スリリングな恋愛」を探しているのではない。
50代を目前に穏やかで対等な人生のパートナーを求めているのだ。
そのための「結婚」なのだ。
 
僕は思い切って仮交際中の女性のうち、最も積極的な本命の女性だけを残して、他のすべて交際終了にし、2月を終えた。
 

 
念願だったcomoliのタイロッケンコートを買えた。限定色のブラック!
 

 
Chim↑Pom展:ハッピースプリング@森美術館。
ずっと追いかけてきたグループなので、リアルタイムで展示を見た作品がほとんどだったけれど、それでも感慨深い展覧会だった。
虎ノ門別会場、会期中の改名などのスキャンダルも含めて完成する作品で大満足。
 

 
香月泰男展@練馬区立美術館。
予習の効果で楽しめた。

そして、このために読んでいた「不毛地帯」が次章の本命女性と交際スタートをするきっかけになった。
何が役に立つのか本当にわからない。

3月:結婚に求めること

Aさんを「本命」と決断した理由は、彼女の段違いの積極性だった。
 
仮交際していたAさん以外の女性は受け身の構えで、連絡はこちらからするのが基本だった。
でもAさんは昼でも夜でも「かまってほしい」というスタンスで気軽に連絡をしてきた。
 
こちらも気軽に返信すると、彼女はLINEの向こう側で笑顔を返してくれた。
僕にはそれが心地よかった。
だって、お互い40代後半で自立している男女が一緒になろうというとき、ふたりでしか感じられない他愛ない安らぎ以外に何が必要だろう?
 
ただ、デートを重ねるうちに、その立場が少しずつ逆転し、3月の半ばには僕ばかりが連絡をするようになっていた。
 
理由はわからない。


 
ダミアン・ハースト「桜」展。
 

 
「ザ・バットマン」「ガンパウダー・ミルクシェイク」を観た。
 

 
Chim↑Pomのエリィ著「はい、こんにちは」とパク・ソルメの「もう死んでいる十二人の女たちと」を読了。
 

 
最後に会ってから2週間経った頃、Aさんから「交際終了」の連絡が来た。
 


Aさんと初対面のときに今読んでいる本について聞かれて「不毛地帯」と答えたところ、Aさんは「私も山崎豊子と司馬遼太郎が好きなんです」と目を輝かせた。

僕は山崎豊子は美術展の予習で一冊読んだだけだったし、司馬遼太郎は読んだことがなかった。

彼女の勧めで読んでいた「坂の上の雲」は4巻の途中で図書館に返却した。
 


まだ連絡があった頃「二〇三高地のところがしんどいですね」と書いた僕にAさんは「確かににあのあたりはしんどいですね」と返した。
 
今度の予習は役に立たなかった。

4月:再起動

僕は不貞腐れて、婚活アプリを開かなくなった。
 
クヨクヨと思い悩んでいた。
自主的に仮交際中の女性をすべて終了させたりせず、セオリー通りに並行交際しておけばよかった。
ああしておけばよかった。こうしておけばよかった。
 
でも僕にはそれができなかったのだ。
だから賭けに出て、それに負けたのだ。
結婚相談所のセオリーに向いていなかったし、運もなかったのだ。
それ以上でもそれ以下でもない。
 
当初の目的だった自分の「市場価値」も概ね調査できたことだし、4月末で相談所を退会しようと決めた。

でも、ひとつだけ心残りがあるのを思い出した。
2月に僕に仮交際が3人居たタイミングで女性側から申し込みを受け、キャパオーバーを理由に一度も会わずにお断りしてしまっていた女性(Bさん)がいたのだ。
 
最後にBさんに会ってから辞めよう。
そう思って今度はこちらから申し込み、アポイントを取った。
 

 
Coachela Festivalの配信をずっと観ていた。
The Marías、beabadoobee、Maggie Rodgersなど、近年追いかけてきた新しいミュージシャンが目白押しで感慨深かった。
 

 
ルシア・ベルリンの新刊「すべての月、すべての年」を読んだ。
僕の好みとしては「掃除夫のための手引書」を超えることはなかったけれど、同じように心を震わせる物語の集まりだった。

5月:分岐点

Bさんとは3週間で5回会い、お互いに「相手から申し出があればと結婚に応じよう」という状態になっているのがわかった。
 
でも、どうしても僕にはその一歩が踏み出せなかった。

彼女に対してスペック上は一切の不満がなかった。
僕より遥かに若くて、美しく、穏やかで、仕事を持った自立した女性だった。

でもどうしても「心」が動かなかった。
Aさんも僕に対して同じように感じたのかもしれないな、とこのときわかった。
 


そして5回目のデートの翌日、Bさんから交際終了の連絡が来た。
一歩を踏み出せなかったのは彼女も同じだったのだ。
 
今度こそ相談所を退会しようと決めた僕の前にCさんが登場し、僕は2カ月後に彼女と成婚退会し、正式に入籍することになる。
 
ただ、後述する事情からCさんについてこれ以上言及することはできない。
以降のCさんとの関係は事務的に事実を記録するに留める。
 

 
新居の物件探し。
宅建と賃貸不動産経営管理士の知識が役立つ。
 

 
「犬王」鑑賞。すごい。
 

 
「今子青佳書道展 筒井康隆『残像に口紅を』」@光村グラフィック・ギャラリー鑑賞。狂気の圧がとても良かった。
 


「世界で一番すばらしい俺」と「同志少女よ、敵を撃て」読了。

6月:あたらしい生活

新居を探し、賃貸契約し、採寸し、家具と家電を一気に買い揃えた。
 
過去に購入して居住し、今は賃貸に出しているマンション2部屋のリノベーションで培った住宅設備の選定基準やインテリア選び、直近約2年間の実家暮らしによる貯金、そして昨年の不動産資格取得で身につけた法律知識を集約した「作品」と呼びたくなるような部屋に仕上げることができた。
 

 
「ザリガニの鳴くところ」読了。
今年映画化! 絶対に観る!
 

 
「シン・ウルトラマン」鑑賞。「シン・ゴジラ」ではなかった。

7月:壊れ行く世界

Cさんと同居開始、入籍。
 

 
「リコリス・ピザ」鑑賞。
「マグノリア」がライフタイムベスト映画で、ハイムを聴いている僕にとってはご褒美作品。
 

 
婚活が完結したので1月に講座申込した以来、ほとんど手を付けられていなかったマンション管理士と管理業務主任者の試験勉強を本格的に開始。

Predawnの産休前ツアーファイナルを鑑賞。
 

Cさんと別居。

8月:無題

起床してから17時まで、資格試験の勉強。
暑さがやわらぐ17時から2時間、体型維持のための1万歩ウォーキング。
それだけを続ける毎日を始めた。
 

 
映画も音楽も読書もできなくなった。
心が受け付けない。

8月:無題


起床してから17時まで、資格試験の勉強。
暑さがやわらぐ17時から2時間、体型維持のための1万歩ウォーキング。
この季節は帰宅するまでずっと日が落ちずに明るい。
 

 
離婚調停の申立て。

10月:無題

起床してから17時まで、資格試験の勉強。
17時から2時間、体型維持のための1万歩ウォーキング。
少しずつ日没が早くなっていく。
 


2月にチケットを取っていた中村佳穂ツアー「NIA」を鑑賞。
この2時間だけ、心が潤った。
 

 
第一回目の調停期日。

11月:無題

起床してから17時まで、資格試験の勉強。
17時から2時間、体型維持のための1万歩ウォーキング。
歩き始めるとすぐに真っ暗になる。
 

 
第二回目の調停期日。
 

 
マンション管理士試験本番。
試験開始直後は手が震えてシャープペンが握れなかった。
結果発表は年明けだが、実力不足だったから合格基準点に届かないだろう。

12月:夜が明けたら

管理業務主任者試験本番。
前週とは打って変わってほぼ満点を取れた。
試験終了まで自制していたすべてのエンタメを解禁。
 

 
映画「ザリガニの鳴くところ」、「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」「ケイコ目を澄ませて」を鑑賞。
劇場でしか味わえない映像と音を体験するべきは「アバター」ではなく「ケイコ」だった。
 

 
「アノマリー 異常」読了。
 

 
「チェンソーマン」「おんがくこうろん」録画消化。
 

 
所有する賃貸物件のうち一室の退去に伴い、退去立会いや原状回復の打ち合わせ。
これまでの不動産資格の勉強がすべて役に立つ。
幸いなことに、すぐに次の入居者が確定。
 

 
次回の調停期日は1月。
 

 
12月になっても暖かい日が続く東京。
冬の僕は昼間に1万歩を歩いている。
 
来年の夏になったらまた、暑さがやわらぐ夕方に歩くようになるだろう。

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