仲道宇希

散文、短編小説など載せていきます。 よろしくおねがいします。

仲道宇希

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最近の記事

 彼を見かけた。 いや、もしかしたら私の見間違いかもしれない。めったに行かない街なかのコンビニで。  彼はもしかしたら、あの人なのかもしれない。もしかしたら違うかもしれない。あんな風貌だっただけで、近くで見たら違うのかもしれない。  よく考えたら、2秒以上彼の顔を直視したことがないかもしれない。もしかしたら私が勝手に彼の顔を作っているだけなのかもしれない。      本当の彼を見たら、私は何を思うだろう。意外とへんてこな顔だった。よく見たら、そんなにかっこよくない。  だけど

    • 愛され

       腰まである長い髪の毛を一つに一捻り巻き上げバレッタでまとめる。バレッタはリボンの形をしたキュートなデザインをしている。蝶々模様と幾何学的模様が施されたジップアップのフリースにスウェットパンツ。一日を終えた私は仕事で疲れた身体をリラックスさせて猫のミイミの顔に頬ずりしている。ミイミの濡れた鼻が時々頬に当たるのが気持ち良いし、愛情が増していく。  私は45歳を迎えたおばさんと呼ばれる年齢の女である。目尻には笑いジワができていて、頬も下がってきたと鏡を見ながら気持ちが下がっていく

      • 感触

         午前10時を回ったので、暇つぶしに外に散歩することにした。日焼け止めクリームを塗ってから帽子を被る。5月も終わりに近づくと太陽の光が重さを増してきて、皮膚に重くのしかかってくる。  私は日光が苦手だ。女性であるので、肌は白く透き通るようにいたい。もし彼に会った時に、少しでも儚げで美しい姿でありたいと願うからだ。  駐車場の車止めブロックをなんとなく踏みつけながら歩いてしまうくせがある。バランス感覚を養うためと言い聞かせながらチャレンジしてしまう。その時、こんなことを考えてい

        • 街中

           波子は、鞄の中に手を突っ込んで弄るように携帯を探している。書きたい衝動に駆られて、衝動が去っていく前に、何かを記したいのだ。「書きたい」。口を衝いて出た。大通りの人が行き交う今、この場所で、なにかに突き動かされ、導かれるかのごとく書きたいと身体の胸辺りから湧き上がってきた感情。  なぜ今なのかは分からない。人が前から何人も何人も歩いてくる。後ろからも同じだ。流動的な流れの中、逆らうかのように波子は立ち止まり、今こうしている。鞄の中に、四角いメタリックな物体が手の甲に当たった

          純子

           人は名前のように成るとよくいったものだが、私は名前とは全く逆に生きてきてしまったと思えてならない。 「純子」お母さんが私を呼んでいる。  私の名前は純子。名前からはたいそう貞操のよい女の人をイメージされるかもしれないが、私は一般に言うやりマンである。前述した通り名前とは真逆である。  私がやりマンな理由もしくは言い訳をするなら、男の人に好かれるからだ。私の顔は、一般に言う美人に当てはまらない。目が少し離れている。けれども鼻の形はよい。口元は小さくて特徴はないが、前歯の真ん中

          火照り

           「あつい」。 心の中で吐き出した。いや、声帯を通過して、声となり、言葉となり、外界に発していた。 「あっつ」。  私は暑いのだ。とにかく暑い。手足が火照り、どんなに文明の力を借りても暑さは減らない。手と足から湯気のような火照りが持続的に発せられ、顔や頭もモワッとした火照りが続くのだ。  キンキンに冷えた缶ビールを飲んだとして、爽快な冷感は最初の三口まで。煙草を一本吸い終わる頃には、缶の表面を触れば気持ち良いが、液体は当初の新鮮さを失っている。  空気が淀んでいる。文明の力が

          緑地

          「あなたの隣に居させて欲しいんだけど」。 そよこは、緑一面に広がる丘の上の草原で、一人座って、緑地に反射する太陽の光や、風になびく草花の様子を眺めていた。風が吹くと、そよこの髪の毛は、風の向きに沿ってなびいていく。  そよこは、人と一緒に行動することが、面倒くさいと思っている。友達が居ないわけではない。自分の小さな悩みや、恋の相談をし合う友だちもいる。けれども、彼女達と、空を流れる雲の様子や、月の満ち欠け、風に乗って流れてくる草花の香り。自分が心底感動したり、心から愉しんでい

          月光

          月光に照らされて貴方は踊る。 月を見上げながら細い顎を突き上げながら、踊る。 見上げた時に突き出る喉仏。細い首筋。差し伸べた腕の先に、三日月が乗っているよう。 私は書く。貴方を書く。 月光に照らされて踊り続ける貴方を私は書き続けていく。 私の筆先は、いつも月光に照らされた貴方の影を追っている。

          「またね」あなたが言う。「またね」私が言う。 「またね」あなたが言う。どうしてまた言うのか私は少し考える。そして言う「またね」。 彼はまた言う。「またね」。そこで私が気づく。 「またね、ね」。彼が嬉しそうに言う。「またね、ね」。 私が「ね、ね」と言う。それを何度も繰り返す。 私達は離れがたくて、何度も何度も繰り返してしまう。だからなかなか離れられない。だから私達は永遠に別れられないのだ。

          美月

          「私が世界で一番好きな花は藤の花なのよ。」 隣に座る美月が全く予兆もなく言葉を発した。 私はつい360度周りを見回してしまった。目視できるのは、電車の進路方向に沿って流れていくビルやマンションだった。 「どうしたの突然。何を見て藤の花に辿り着いたの」 私は口ごもりながらたどたどしく聞き返す。 「うん、最近何も感じないなあ。空を見ても、空だ。としか思わなくなって。その先がなくなったのよ。」向かいの窓から見える外を眺めているようで、決してそうではない様子で、美月がぽつりと言

          佐藤有希子の場合

           名前は佐藤有希子といいます。最近フェミニズムもしくはフェミニストという言葉をよく耳にするようになりました。私はこの言葉が好きではありません。女性の視点で事を書けばフェミニズムと括られ、迷惑です。男性の存在自体を疎ましく否定するような考え方もあると少し聞きました。ある国では、男性たちは言葉を聞くのも嫌がるとか。  私は正直、今更感があります。何故って? 私の子供時代は生粋のフェミニストだったと思うからです。そんな言葉がもてはやされる前から私は本能でフェミニズムを展開していた気

          佐藤有希子の場合