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【脚本】『VAMP!』(下)※無料※

ちょっと空いてしまったけれど、『VAMP!』完結編です。
こちらは(上)(中)(下)それぞれ無料公開です。

そういえば脚本執筆秘話も書いてました。
こちらも併せてお読み頂ければ、より楽しんで頂けるのではないかと思います。


#17

日生研。時間経過。沢口も戻ってきている。
未来は別室にて休んでいる。木下はそれについている。

さとみ 「Vital(ヴァイタル)Advanced(アドヴァンスド)Malformation(マルフォーメイション)Project(プロジェクト)・・・」
沢口 「当時は今のようにゲノム解析も進んでなくて、私たちは手探りで実験を進めました。大半の受精卵は生まれてくる前に死んでしまったり、生まれて来ても長くは生きられなかった。奇跡的に無事生まれてきた二人に、私たちは希望を託して新と未来と名づけました」
飯嶋 「だが、その二人にも吸血衝動という欠陥があった」
智子 「ちょっと、欠陥って」
沢口 「プロジェクトリーダーだった彼・・・赤城孝雄は、学会から強いバッシングを受け、研究資料の一切を破棄して、自ら命を絶った」
飯嶋 「そして研究のことは闇に葬り去られた・・・か」
沢口 「ええ、表向きには。でも、私は諦めることができなかった」
さとみ 「なぜ、ですか」
沢口 「彼との夢だったから」
さとみ 「え・・・」
沢口 「赤城の実家は、地方で代々大きな病院を経営してて、彼が私との結婚を考えていることを伝えると、私の家柄、家族の職業、学生時代の成績まで事細かに調べられました」
智子 「マジで・・・」
沢口 「最後には私のDNA検査。その時に分かったの。私自身が、疾患を引き起こす可能性のある遺伝子を持っているということが」
さとみ 「え・・・」
沢口 「もちろん、百パーセント子供に疾患が出るわけではない。あくまで可能性。それが原因で、彼との結婚は破談」
陽子 「うそでしょ・・・」
沢口 「それからの私たちは、先天性遺伝子疾患を未然に防ぐ研究に取り組みました」
智子 「だから赤城さんが亡くなってからも・・・」
沢口 「ええ、未来と新は、研究者・赤城孝雄が生きた証だから。私は吸血衝動を取り去る研究に没頭した。けれど、高見君は違った。二人の能力に気づいた高見君は、V.A.M.Pを再現して商品化することに傾倒していった」
飯嶋 「V.A.M.Pの商品化・・・」
沢口 「危険を感じた未来の代理母は、まだ子供だった彼女を連れて逃げた・・・」
さとみ 「そして10年前のあの日、高見社長が公安警察の力を借りて未来を探し出したんですね」
沢口 「ええ、なぜそれを」
さとみ 「当時のことを母に聞いたんです。そしたら、県警の捜査は突如打ち切り、それもどうやら公安の介入があったらしいって。田舎の小さな町だから、交番のおまわりさんなんかもみんな顔見知りで、本当はいけないことなんでしょうけど、そんな話も漏れ聞こえてきたみたいで」
沢口 「そう・・・」
智子 「まるで漫画か映画みたいな話ね」
陽子 「じゃあ、連続変死体事件は、あの新って子が」
沢口 「(頷く)」
智子 「陽子が普通じゃないって感じたの、ある意味正しかったのかもね」
沢口 「彼は言ってたわ。腹が減る、狩りをする、獲物を食う。それはどんな生き物もやってる自然の行為だって」
智子 「そりゃそうだけど・・・」
陽子 「飯嶋さん、このままだと彼は続けますよ」
飯嶋 「ああ、だが、公安と国会議員が後ろ盾にいるんじゃなぁ・・・」

木下がやってくる。

木下 「未来さんが目を覚ましました」
沢口 「そう、部屋に行きます」
木下 「それが、外の空気を吸いたいって屋上に・・・」

さとみ、駆けていく。

陽子 「あ、ちょっと」

渋谷署の三人も後を追いかける。

片山 「彼らは屋上の行き方知ってるのか」
木下 「・・・多分知らないと思います」
片山 「(苦笑して)案内してやってくれ」

木下、一礼して去る。

木下 「(追いかけながら)皆さん、そっちじゃありませんよー!」

沢口と片山だけが残る。

片山 「赤城先生とのいきさつ、初めて伺いました」
沢口 「ええ」
片山 「今まで勘違いしてたようです」
沢口 「え」
片山 「てっきり死んだ恋人の無念を晴らすために研究を続けているのかと」
沢口 「似たようなものだわ」
片山 「いえ、とても人間らしい理由かと」
沢口 「ReCreation社と民自党はこの前のウィルスを使って、この国から要らない人間を消そうとしているそうよ。協力を断ったら、来期以降の予算を削ると脅されたわ」
片山 「えげつないことしますね、再就職先探さなきゃな・・・」

片山、去る。 

#18

同屋上。
未来が佇んでいる。
さとみ、やってくる。

さとみ 「未来・・・」
未来 「・・・ここ、なんか似てない?」

辺りを見回して

さとみ 「わからなくもない」
未来 「でしょ」
さとみ 「あの頃毎日のように屋上で喋ってたよね。なんであんなずっと喋っていられたんだろ・・・おかしいよね、すごい楽しかったのに内容はほとんど覚えてない」
未来 「そうだね」

穏やかな時間が流れている。

未来 「・・・全部聞いちゃったんだ」
さとみ 「・・・うん」
未来 「さとみにだけは知られたくなかったな・・・」
さとみ 「なんで」
未来 「だって、私、ヒトじゃないんだよ。私、バケモノなんだよ」
さとみ 「バケモノなんかじゃないよ」
未来 「バケモノだよ!こんなもの(腕輪)付けられて、血が飲みたくて居てもたってもいられなくなって!」
さとみ 「そんなの関係ない。未来は未来だから」
未来 「時々、抑えきれなくなるの!私、生まれてきたらダメだったのよ!」
さとみ 「そんなこと言わないで。私はずーっと未来のこと探してたんだから」
未来 「私、さとみのこと、食い殺そうとしたんだよ!」
さとみ 「食べなかったよ、未来は食べなかったよ」
未来 「ダメ!またきっとさとみのこと食べたくなる」
さとみ 「大丈夫」
未来 「私・・・」
さとみ 「私がそばにいる」
未来 「さとみ・・・」

氷解する未来の心。
さとみの胸にすがる未来。

さとみ 「おかえり」

#19

このシーンはスイッチしながら同時進行的に描きたい。

にぎわう渋谷の街。スクランブル交差点。
赤色誘導灯を手に交通整理をする泉真琴。

真琴 「この先、代々木公園方面は取りぬけ出来ません!すみませんが迂回してください!」

行き交う若者たちは気にせず進む。

真琴 「ちょっと、代々木公園方面は通行禁止だってば!」

**************

週刊新流編集部。
原田が電話で話している。
喋ってる間にも社員たちは記事や資料を持ってくる。
原田は目を通しながらも話す。結構器用だ。
あおいはちょこまかと働いている。

原田 「(電話で)あー織田社長、お世話になってますぅ・・・ええ・・・おかげさまで今回も最高のグラビア撮れちゃいましたよ・・・時代は巨乳を求めてる!おっぱい最高!・・・ええ・・・次、サイパンロケしますので・・・はい・・・どうぞよろしくお願いしますぅ・・・はーい、失礼いたします」

原田、電話を切る。

原田 「福田!おい、福田!」
福田 「はーい」
原田 「なんやこれ」
福田 「へ?」
原田 「へ?ちゃうねん。人気芸人HとグラビアアイドルY、深夜の密会!」
福田 「はい!これは決定的な写真もバッチリですよ!ほら!」

福田、自信満々に写真を見せる。

**************

渋谷の街。
人混みはなおも止まらない。
飯嶋、陽子、智子が応援に駆け付ける。

智子 「真琴」
陽子 「機動隊が来るまで署員あげて交通課の応援だって」
真琴 「あー助かるー」
飯嶋 「はーい、そこ通れませんよー」

などと口々に雑踏を整理するも、なかなかうまくいかない。

**************

ReCreation社社長室。
高見、松本、坂崎。

松本 「始まったようですね」
高見 「はい」
松本 「Aは」
高見 「別段異常もなく」
松本 「予想通りか」
高見 「ええ」

加賀がアタッシュケースを手に入ってくる。

加賀 「社長」
高見 「お待たせしました。ひとまず民自党の先生方の分だけですが」

加賀、松本にアタッシュケースを渡す。

高見 「日生研に断られたワクチンの増産ですが、別で引き受けてくれるところが見つかりましてね」
松本 「国内で日生研以外に適任の企業があるのか」
高見 「国内ではありません」
松本 「なに」

**************

渋谷の街。
なおも整理の付かない雑踏。

智子 「なんでこんなに人多いの」
真琴 「次は田舎の警察署がいい・・・」

通りがかりの女子高生とぶつかる智子。

智子 「あっ」
女子高生「痛っ!どこ見てんのよ、おばさん」
智子 「おば・・・!」

**************

原田 「アホ!」
福田 「え・・・決定的なの持ってこいって・・・」
原田 「あのな、さっき、俺は誰と電話してた」
福田 「織田社長っすよね」
原田 「このグラビアアイドルY!織田社長のとこの子やろ!こんなん出したら次から仕事受けてもらわれへんなるやろ!」
福田 「あ・・・」
原田 「ったく、おまえ何年目やねん(福田の頭を叩く)」
福田 「痛っ!・・・すんません」
原田 「ほんま、勘弁してくれや・・・鈴木さん、コー」
あおい 「はい、コーヒーどうぞ」
原田 「お、おう・・・ありがとう」
あおい 「どういたしまして♪」
鈴木 「あおいちゃん、すっかり馴染んでますね」
原田 「そやな」
鈴木 「なんだかんだ手の足りないところは補ってくれてるし。高校卒業したら即採用しちゃいます?」
前原 「いいっすねいいっすね~」

**************

渋谷の街。

陽子 「ほら、代々木方面通行止めって言ってるでしょ。投げるぞ」
真琴 「もう嫌・・・」
智子 「今夜合コンなのに・・・」
飯嶋 「・・・スクランブル交差点封鎖できません!」

**************

ReCreation社社長室。

松本 「国内ではない、とは」
高見 「中国のナンバー2の製薬会社、上海バイオファーマが製造ラインを提供すると」
松本 「中国だと」
高見 「ええ、残念ながら中国第一の規模を持つ香港の新亜細亜有限公司には断られましたが」
松本 「・・・どうするつもりだ」
高見 「中国は長らく人口問題に悩まされています。また、辺境地域での民族紛争も絶えません」
松本 「そこにNプロジェクトを・・・」
高見 「来たる二十一世紀は大陸の時代です。田之倉先生にもきっとご理解頂けるかと」

**************

各部屋のテレビ、そして渋谷の街の屋外ビジョンにニュースが映る。
それぞれが注目する。

キャスター「代々木公園のホームレスを中心に発生した新型のインフルエンザによる入院患者が20名を超え、厚生省は注意を呼び掛けております。木村さん、この季節にインフルエンザの流行というのは、珍しいですよね」
木村 「そうですね、ですが通常の季節性インフルエンザ以外にも、鳥や豚を介したインフルエンザもありまして、その場合の発症は冬に限ったものではありません」
キャスター「ええ。今回のウィルスは過去の鳥インフルエンザとの類似はあるのでしょうか」
木村 「いえ、国立感染症研究所の発表によりますと、過去のウィルスとの類似性は低いようで、新型のものと思われます。また、今回入院した方たちは直近での海外渡航歴も無く、感染ルートが現時点では不明です。それから、代々木という限定された地域で発生していることも不可解ではあります」
キャスター「そうですね、入院患者の状態はそこまで重篤ではないとのことですので、その点だけは不幸中の幸いですが・・・」
木村 「インフルエンザウィルスは常に進化を繰り返します。いつ猛毒性に変化してパンデミックを引き起こさないとも限りません。今後の厳重な注意は必要です」

真琴 「恐怖の大王・・・」

間。
三つの空間が動き出す。

原田 「ほらちゃっちゃと働かんか!」
高見 「(加賀に)お見送りを」
陽子 「だから通行止めだっていってるでしょ!シメるぞ!」

わらわらと動く人たち。

#20

渋谷の街、裏通り。深夜。足音。
歩いてくる女性。フードで顔を隠している。
行く手を阻むようにハルカが現れる。
後ろを振り返るとチヒロが逃げ道を消している。
女、逃げ出す。
追いたてるハルカ・チヒロ。
女の逃げる先に新が現れる。
女、足を止めて、フードを上げる。未来だ。

新 「・・・!」
飯嶋 「はーい、そこまでだ」
陽子 「この辺りは今、立ち入り禁止ですよー」

赤色誘導灯を持った飯嶋と陽子が出てくる。
さとみも現れる。

さとみ 「連続変死体事件の犯人はあなたでしょ。そして、代々木公園で新型のウィルスをばらまいたのも。全部聞いたわ」
飯嶋 「君のおかげでこっちはフラフラだよ」
未来 「・・・新、もうやめよ。もうこれ以上、あの人たちの暴走に付き合っちゃダメ。私たちきっとヒトと一緒にやっていけるよ」
新 「・・・なんでそっち側に行くんだよ」
未来 「え・・・」
新 「なんでそっち側に行くんだよ!ヒトと猿とが分かり合えないように、俺たちとコイツらが分かり合えることなんてない。見えてる世界が違うんだよ。未来、おまえと唯一同じ世界を見てるのは、俺だけなんだぞ」
さとみ 「そんなことはない。あの頃、あの屋上で、私と未来は同じ景色を見ていた」
新 「そう思ってるのはアンタだけだって。なあ、隣でずっとおまえはコイツの喉笛を食い千切りたい、コイツの血を飲みたい、そう思ってたんだろ」
未来 「・・・」
新 「こっちへ来い。こっちへ来いよ!コイツら猿以下じゃねえか!低脳のくせに俺たちのこと見下しやがって!今までどんな仕打ちを受けてきた!思い出せよ!」
さとみ 「未来、乗せられちゃダメ」
飯嶋 「高見新。君の境遇には同情する。だが、犯罪は犯罪だ。渋谷署まで同行してもらおうか」

飯嶋と陽子、新を捕まえようとする。

新 「・・・あんたらに同情なんかしてもらいたくねえよ!」

暴れる新。
アクション。飯嶋と陽子は赤色誘導灯を武器に。
2対1にも関わらず、新が優勢。
新、飯嶋と陽子に打撃を食らわせて、咆哮とともにさとみに襲いかかる。

新 「おまえさえ・・・おまえさえいなければーっ!!」

それを受け止める未来。

未来 「新・・・もう終わりにしなきゃ」

新、未来を殴り飛ばす。

新 「・・・ふん、そうだな。終わりにしてやるよ。一緒に来なかったことを後悔させてやる」

新、踵を返して去る。

未来 「新!」

ハルカ・チヒロも新に付き従って去る。

#21

松本と坂崎。

坂崎 「お呼びでしょうか」
松本 「渋谷署の刑事と週刊誌の記者がEと接触したそうだね」
坂崎 「はい」
松本 「所轄署刑事の動きは封じるよう指示したはずだが」
坂崎 「申し訳ございません。渋谷署には改めまして」
松本 「坂崎君。期待を裏切らないでくれ。私はいずれ、君を警察庁に引き上げるつもりだ」
坂崎 「・・・恐れ入ります」

坂崎、一礼して去る。

**************

渋谷署。
真琴がいる。心配そうな感じ。
飯嶋と陽子、智子がやってくる。

真琴 「どうだった」
陽子 「大目玉」
智子 「謹慎三日、それから給料1カ月分、10パーセントカット」
真琴 「わちゃー」
智子 「秋物の新作バッグ欲しかったんだけどなぁ」
陽子 「巻き込んでごめん」
真琴 「まあでも、三連休取れたと思って切り替えるしか無くない?」
智子 「そうね、こうなったら合コン三連戦いくか」
真琴 「えーいいなー私も行くー」

帰り際の坂崎が通りかかる。

智子 「あ・・・」
飯嶋 「坂崎!」

足を止める坂崎。

飯嶋 「おまえ・・・」
坂崎 「この件には首を突っ込むなと忠告したはずだ」
飯嶋 「警察学校時代からおまえはいけ好かない奴だったけど、警察官としては、一本筋の通った男だと思ってた。だが、所詮お前も長いものには巻かれろのキャリア根性だったんだな」
智子 「ちょっと飯嶋さん」
坂崎 「言いたいことはそれだけか。ならば失礼する。放してくれないか。俺は三連休があるおまえのように暇じゃないんだ」

坂崎、去る。

真琴 「何あの言い方。エリートだからって腹立つなぁ」
飯嶋 「・・・なあ、山下」
陽子 「はい」
飯嶋 「おまえ、シドニー目指してたんだよな」
陽子 「なんですか、急に」
飯嶋 「引退して、悔いは無いか」
陽子 「・・・無いことはないですけど」
飯嶋 「俺、絶対後悔すると思うんだよ。この事件、このまま下りたら絶対に後悔する」
陽子 「でも、私たちじゃもう・・・」
飯嶋 「三日も連休、あるんだろ」
智子 「え、でも今度バレたらマジでやばいよ」
飯嶋 「俺たち刑事はサラリーマンじゃない。だったら上の奴のために自分の信念曲げる必要はねえ」
陽子 「・・・それも踊る大捜査線の名台詞ですか」
飯嶋 「悪いか」
陽子 「いいえ」
飯嶋 「いくぞ」
智子 「え」
陽子 「はい」
智子 「ちょっと始末書は」
陽子 「書いといて!」

飯嶋と陽子、飛び出してゆく。

智子 「ちょっと!・・・って、言って聞く奴らじゃないか」
真琴 「だね」
智子 「あーあ、合コン三連戦中止。署長と課長のご機嫌取り飲み会に変更」
真琴 「だね・・・」

と、文句を言いつつも、どこか清々しい二人の顔。

#22

日生研。屋上。
未来が煙草に火をつける。
木下がやってくる。

木下 「あ・・・」

先日襲われかけたことを思い出して無意識に体が強張る。
未来、それを察して煙草の火を消す。

未来 「美月ちゃん・・・この前は・・・」
木下 「お客さん。あなたに」

木下、そう言って怯えるように去る。
未来、その背中を寂しく見送るも、気を取り直して階段に向かう。

**************

週刊新流編集部。
原田に詰め寄るさとみ。飯嶋と陽子も来ている。

原田 「(原稿を手に)・・・これがホンマやったらえらいこっちゃで」
さとみ 「お願いします!一刻を争うんです!」
原田 「鈴木さん、コーヒー」
鈴木 「はい」
さとみ 「編集長!何を悠長に・・・」
原田 「こんな爆弾渡されて・・・ちょっと冷静に考えさせてくれ」
さとみ 「こうしてる間にも感染は広がってるかもしれないんですよ」
原田 「わーってる、わーってるから静かにしてくれ」
鈴木 「どうぞ」

鈴木、飯嶋や陽子たちにもコーヒーを持ってくる。

陽子 「どうも」
さとみ 「・・・鈴木さん、あおいは」
鈴木 「ああ、なんか午前中に電話あって出かけたわよ」
さとみ 「そう」
原田 「警察は・・・なぜ動かないんですか」
陽子 「我々も上司にかけあいました。ですが、相手は警察庁OBです。警察という縦割り社会の中では、誰も動こうとしません。動けないんです」
飯嶋 「ですから、外から動かすしかないんです」
陽子 「代々木に撒かれたのは毒性を弱めたテストタイプだそうです。今はまだ始まりに過ぎません。計画が本格化して、オリジナル株が撒かれたら・・・」
さとみ 「編集長、今が計画を止める最後のチャンスなんです」

原田、コーヒーを啜る。

**************

日生研。
未来を訪ねて来てるのはあおい。
沢口、片山がいる。
木下に続いて未来がやってくる。

未来 「あなた・・・さとみの」
あおい 「はい(礼をする)」
未来 「私に用って」
あおい 「これ、新から(と包みを出す)」
未来 「え・・・」
あおい 「俺にはコーアンが張り付いてて身動き取れないから。未来さんにこれ、渡してくれって。渡してくれたら分かるからって」

未来、訝しみながらも受け取る。
包みは何かのケースのようだ。軽い。
未来、開ける。
中には一枚の手紙が入ってるのみ。
未来、取り出して読む。

未来 「・・・!」

衝撃を受けて、その手紙を沢口に渡す。
沢口、読む。

沢口 「・・・片山君、すぐにこの研究所を封鎖」
片山 「え・・・」
沢口 「オリジナル株が入ってたのよ。ここにいる全員、空気感染の可能性があるわ」
木下 「え・・・」
沢口 「木下さん、すべての窓を閉めて。バイオセーフティレベル3もしくは4のウィルスと思って対処するわ」
木下 「・・・いや・・・いやぁぁぁぁぁ」

逃げ出そうとする木下。
追いかけて捕まえる未来。

木下 「離してよ!私、死にたくない!」
未来 「ダメ、今出ちゃダメ!」
木下 「バケモノ!あんたのせいでこんなことになったんじゃない!バケモノ!!」

沢口、木下に歩み寄り、平手打ち。

沢口 「落ち着きなさい。あなたも科学者でしょ」

へたり込む木下。

沢口 「片山君、国立感染症研究所に連絡」
片山 「・・・くそ」

片山、連絡しに行く。
呆気に取られているあおい。

あおい 「え、何・・・?」
沢口 「落ち着いて聞いてね。あのケースには、ウィルスが詰められてたみたいなの。目には見えないけれど」
あおい 「ウィルス?」
沢口 「そう。代々木公園のニュース見たでしょ。あれの、何倍も毒性の強いのが」
あおい 「新が入れたの・・・?」
沢口 「・・・そうね」
あおい 「・・・私、どうなるの」
沢口 「ごめんなさい。まだ分からない。ただ、被害を最小限に食い止めるために、ここを封鎖しなきゃいけないの」
あおい 「・・・私があれを届けたから・・・?」

沢口、あおいを抱きしめて

沢口 「これは、私たちが招いたことなの。あなたのせいじゃない。あなたのせいじゃないから」

沢口、木下を立たせて

沢口 「木下さん。今私たちにできることをやるわよ」
木下 「・・・はい」

それぞれが、研究所の封鎖に動き出す。

**************

日生研のバイオハザードを伝える速報。

キャスター「ここで緊急のニュースです。先ほど、東京都西多摩郡にある独立行政法人日本生命科学研究所でバイオハザードが発生したとの通報が国立感染症研究所に入りました。政府は事態を深刻に捉え、研究所を封鎖、専門家らを中心とした特別対策チームの派遣を決定しました。また、半径1キロ圏内を立ち入り禁止とし、近隣住民には避難勧告を出しております。研究所には研究員数名と民間人が一名、事態の安全が確認されるまで封じ込められているとのことです」

**************

週刊新流。

陽子 「日生研?」
前原 「バイオハザードってやべえじゃん」

慌てて日生研に電話をかけるさとみ。

さとみ 「・・・回線が混み合ってて繋がらない」
飯嶋 「何が起こってるんだ」
さとみ 「未来・・・」

**************

ReCreation社。
新、ニュースを見て笑っている。
そして、高見、松本の姿も。

高見 「バイオハザードを出したとなると、日生研は閉鎖を余儀なくされます」
松本 「・・・あなたという人は」
高見 「これが、科学的なやり方です」

**************

日生研。

木下 「封鎖、終わりました」
沢口 「ありがとう」
片山 「あとは専門家チームが来るのを待つだけか」

調子の悪そうなあおい。

沢口 「あおいちゃん?・・・(おでこに手をかざして)熱が出てきたわね。みんなは」
片山 「少し熱っぽい感じはします。気のせいであってほしいですが」
木下 「はい」
沢口 「そう・・・」
未来 「美月ちゃん、携帯貸して」
木下 「え・・・(躊躇う)」
未来 「お願い」

木下、未来に携帯を渡す。
未来、メモを見ながら新に電話をかける。
浮かび上がる新。

新 「もしもし」
未来 「・・・もしもし」
新 「あ、姉貴?プレゼント、受け取ってくれたみたいだね」
未来 「どういうつもり」
新 「何が」
未来 「なんでさとみの妹を巻き込んだの!」
新 「だってその方が断然面白いじゃん。姉貴は今後一生、唯一の友達から恨まれることになる。最高のシナリオだろ?」
未来 「・・・」
新 「あ、せっかく電話くれたから教えとくね。オリジナル株の症状は、発熱、頭痛、全身の痛み、嘔吐、下痢、吐血などなど。でも何より一番の特徴は、感染力の強さと潜伏期間の短さ。遅くても24時間、早けりゃ数十分で発症する」

未来、無言で携帯を切る。

未来 「・・・片山さん、ちょっと」

部屋を出てゆく未来。
片山、怪訝に思いながらもついてゆく。

**************

ReCreation社。

松本 「オリジナル株は臨床試験前のはずだ。なぜそんな細かく症状が分かる」
新 「もう試しましたよ。俺のエサで」
松本 「何?」
新 「まあウィルスで死ぬ前に俺が食っちゃったから、正確な致死率は取れてないんすけどね」

**************

日生研。廊下。
未来と片山。

片山 「なんだよ」
未来 「私の血を抜いて」
片山 「は?」
未来 「私の血液なら抗体を含んでる。血清を作ってみんなに投与して」
片山 「おまえ、自分の言ってることの意味分かってるのか。四人分もの血清作ろうと思ったら・・・」
未来 「全部抜いてくれても構わない。ウィルスに特効薬はないの、分かってるでしょ。血清療法に賭けるしかない」
片山 「・・・俺一人の判断では。沢口先生に訊いてみないと」
未来 「ダメ。あの人には出来ない。あの人は私を殺せない」
片山 「俺一人に人殺しの罪を背負わせようってか」
未来 「大丈夫、私はバケモノ。ヒトじゃないわ」
片山 「・・・」
未来 「さ、早く。時間が無いの。重症化する前に叩かないと」

未来、片山を促して別室に。

**************

ReCreation社。
くっくっくと笑ってる新。

新 「アイツ、今頃きっと自分を責めてるだろうなぁ。せいぜい一人で苦しめばいい。地獄はまだまだこれからだ」

**************

日生研。
沢口、木下、あおいがいる。
強張った顔の片山がやってくる。
手には未来の血液から作った血清を持っている。

沢口 「どこ行ってたの。未来は」
片山 「・・・彼女に血清療法を施します。彼女が終わったら、我々も」

あおいの袖をめくり、注射の準備をしようとする片山。

沢口 「未来は。未来はどこ。」
片山 「これしか、これしか道は無かったんです」
沢口 「答えなさい!」
片山 「・・・医務室です」

出てゆく沢口。
処置を続ける片山。

**************

日生研。医務室。
青白くなった未来が横たわってる。
沢口が飛び込んでくる。

沢口 「未来!」

**************

キャスター「続報です。日本生命科学研究所に取り残されている民間人の方の名前が分かりました。サクライアオイさん、17歳。サクライアオイさん、17歳の高校生が取り残されているとのことです。また、なぜサクライさんが現場にいたのかは、現在まだ明らかになっておらず、調査中とのことです」

#23

週刊新流編集部。
あおいが日生研に取り残されていることに衝撃が走る。

さとみ 「あおい!」

飛び出していこうとするさとみ。
押さえる陽子。

陽子 「さとみさん、落ち着いて!落ち着いて!」
さとみ 「でも、あおいが!」
陽子 「すぐに確認しますから。飯嶋さん」
飯嶋 「ああ」

飯嶋、携帯で電話をかける。

前原 「なんであおいちゃんが・・・」
鈴木 「私が外出を止めてれば・・・」

落胆の色が皆に滲む。
電話が鳴る。

原田 「はい、週刊新流編集部・・・桜井」
さとみ 「え・・・」
原田 「あおいちゃんからだ」

受話器を差し出す。飛びつくように受け取るさとみ。
あおいが浮かび上がる。電話で会話する二人。

さとみ 「もしもしあおい!」
あおい 「お姉ちゃん・・・心配かげてごめんね」
(お姉ちゃん・・・心配かけてごめん)
さとみ 「あんた、なんで・・・」
あおい 「・・・新がね、おめにしか頼めないごどがあるがらって」

(・・・新がね、おまえにしか頼めないことがあるからって)
さとみ 「・・・大丈夫だの」
(・・・大丈夫なの)
あおい 「・・・まだ検査さ出来でねっけど・・・わ感染しでらがも・・・」
(・・・まだ検査は出来てないけど・・・私感染してるっぽい・・・)
さとみ 「・・・」
あおい 「なんかねづっぽくてさ、身体中がいでのよ・・・血清治療っでらの?やっでもらったすけわんつか楽さなっでらけど、どったら症状が出るか、まだわがんねぇって・・・お母さん心配しでらがな・・・たぶんお母さんさおごられるよね・・・わぁね、お姉ちゃんが羨ましかったの。わっつど友達もいて、田舎から出てって、東京ではだらいでらお姉ちゃんが羨ましかった。わさ、クラスに友達もいねくて、いつも一人だった」

(なんか熱っぽくて、身体中が痛い・・・血清療法?っていうのやってもらったら少し楽になったけど、この先、どういう症状が出るか、まだ分からないって・・・お母さん心配してるかな・・・きっとお母さんに怒られるよね・・・私ね、お姉ちゃんが羨ましかったの。沢山友達もいて、田舎から出てって、東京で働いてるお姉ちゃんが羨ましかった。私、クラスに友達もいなくて、いつも一人だったから)
さとみ 「・・・うん」
あおい 「東京さいげばお姉ちゃんさなれるど思っでらったのになぁ・・・週刊新流のバイト、結構楽しかったのになぁ・・・」

(東京に来ればお姉ちゃんみたいになれると思ってたのになぁ・・・週刊新流のバイト、結構楽しかったのになぁ・・・)
さとみ 「まだ戻ってきだらいいっきゃ」
(また戻ってきたらいいじゃない)
あおい 「うん・・・きっとね、新もそうだんだど思う」
(うん・・・きっとね、新も私と一緒なんだと思う)
さとみ 「え・・・」
あおい 「彼、いづも目の奥が笑ってねがった。ずっと、寂しがったんだど思う・・・」

(彼、いつも目の奥が笑ってなかった。ずっと、寂しかったんだと思う・・・)
さとみ 「あおい・・・」
あおい 「彼を止めでけろ」

(彼を止めてあげて)
さとみ 「え・・・」
あおい 「新さ止めであげでほしいの」

(新を止めてあげてほしいの)
さとみ 「だども」
(でも・・・)
あおい 「私だば大丈夫。大丈夫だすけ」
(私なら大丈夫。大丈夫だから)
さとみ 「だばって」
(でも)
あおい 「頼むすけ」
(お願い)
さとみ 「・・・わがっだ」
(・・・分かった)
あおい 「ありがと。へばねぇ」
(ありがと。じゃあね)

電話、切れる。

鈴木 「さとみちゃん・・・」
さとみ 「新が仕組んだそうです。あおい・・・感染してるみたい」

泣き崩れるさとみ。
鈴木が寄り添う。

原田 「・・・何しとんねん」
前原 「え・・・」
原田 「おまえら何ボーっとしとんねん。この記事、出すぞ。さっさと動かんかい!」
鈴木 「編集長・・・」
原田 「悲しんでる場合ちゃう。俺たちは、俺たちにできることをやるしかない」
前原・鈴木「はい!」
原田 「鈴木さん、この原稿ReCreation社と田之倉の事務所にFAX送れ。爆弾ぶつけて奴らの動き止めたれ」
鈴木 「はい」
原田 「前原、校正とレイアウト!」
前原 「はい」

慌ただしく動き出す編集部の面々。

鈴木 「編集長、どこに」
原田 「社長に緊急号発行の直談判や」

さとみの前に立つ原田。

原田 「行ってこい」
さとみ 「え」

さとみを立たせて

原田 「高見に突撃取材。ぶちかましてこい。この原稿を第一弾の緊急号で出す。続報で高見と田之倉の繋がりまで暴くで」
さとみ 「・・・はい!」

出てゆく、さとみと飯嶋、陽子。

**************

日生研。医務室。
未来は血液を経口補給している。

未来 「全部抜けって言ったじゃない。意気地なし・・・」
片山 「・・・」
未来 「なんで私が・・・ここに来てから何度も思った。特別な力なんて要らない。ただ、普通に暮らしたいとずっと思ってた。けど、やっぱり私はバケモノなんだなって。あんなに血を抜いたのに・・・」

未来、立ち上がる。

片山 「おい・・・」
未来 「新を止めに行く」
沢口 「未来!」
未来 「・・・私、新の気持ちがわかるの。もしかしたら私が新で、新が私だったかもしれないから」
沢口 「え・・・」
未来 「赤城孝雄がもし、新の入った試験管を選んでたら、お母さんの子供は新だったかもしれない。さとみに出会っていたのは新だったかもしれない。もし私が新の立場だったら・・・。だから、そんな新の心を利用する人たちを私は許せない。私が計画を止める。私が、新を止める」

未来、衝動抑制の腕輪を外す。

未来 「私にしか出来ないことだから」

出てゆく未来。

#24

キャスター「東京都西多摩郡の日本生命科学研究所で起こったバイオハザードにつきまして、特別対策チームが先ほど現場に到着し、ウィルス除染と、中に取り残された方々の救出作業を始めたようです」

**************

ReCreation社社長室。
高見、松本、新がいる。
加賀がFAX束を持って入ってくる。

加賀 「失礼します。社長」

加賀、FAXを手渡し、高見はそれに目を通す

高見 「・・・あの女記者か」

高見、FAXを松本に見せる。

高見 「今、ことが露見すれば総裁選にも響くでしょう。先生の方から火消しをお願いできますか」
松本 「ええ」

**************

日生研。
熱が上がり、うなされているあおい。
沢口、片山、木下も具合が悪そう。

化学防護服を着た数名の救急隊員が四人を連れてゆく。

救急車のサイレンの音。

**************

キャスター「日生研から緊急搬送された四名の安否につきまして続報が入ってきました。唯一の民間人、サクライアオイさんが重体、意識が混濁し、危険な状態とのことです。他の三名も、高熱を発症、医師たちが懸命の処置を行っている状況とのことです」

**************

週刊新流編集部。
社長を必死で説得する原田の様子が見える。(マイム)
社長はなかなか首を縦には振ってくれない。
祈る鈴木。

鈴木 「あおいちゃん・・・」

**************

ReCreation社。
さとみ・飯嶋・陽子に応対する加賀。
数人の社員が三人の行方を遮っている。

さとみ 「どいてください。高見社長に会わせてください!」
加賀 「ですからアポイントの無い取材は承りかねます」
さとみ 「どいて!時間が無いの!」
加賀 「下がりなさい!」

さとみ、社員と揉みあいになり突き飛ばされてよろける。
坂崎がやってきてそれを受け止める。

飯嶋 「坂崎」
加賀 「坂崎さん、彼らを外に・・・」

坂崎、胸元から逮捕状を出す。

坂崎 「ReCreation社社長・高見耕一郎氏、ならびに松本宏光氏に殺人未遂の容疑で逮捕状が出ています。捜査へご協力ください」
加賀 「え・・・」
陽子 「どういうこと」
坂崎 「だから首を突っ込むなとあれほど言っただろ」
飯嶋 「内偵捜査・・・だったのか」
陽子 「だったら、だったらなんでもっと早く止めないんですか!もう何人もの人が殺されてるんですよ!」
坂崎 「Nプロジェクトの全容を暴いて、黒幕の田之倉を挙げること。それが俺の任務だ。その為には目を瞑らなきゃいけないこともある」
陽子 「そんな・・・」
坂崎 「だが、それもおまえらが横槍を入れたせいで台無しだ」
飯嶋 「どういうことだ」
坂崎 「新流の緊急号だよ。元警察官僚の不祥事だ。おまけにV.A.M.Pという超国家機密まで関わってる。警察としては秘密裏に解決することが最重要課題だったんだ。総裁選を控えた田之倉にとっても、記事が出ることは致命打になる。双方の利害がそこで一致したんだよ。だから田之倉は高見と松本を生贄に差し出してこの件は手打ち、事件は表には出さない」
さとみ 「え・・・」
飯嶋 「何言ってんだよ。人命よりも組織の体面の方が大事だってのか!」
坂崎 「俺だって本星を挙げたかったさ。だがな、飯嶋、俺たちは警察官だ。テレビドラマの刑事じゃない。組織の中で生きてるということを忘れるな」

坂崎、高見・松本の逮捕に向かう。
無力感に動けない飯嶋、陽子。

さとみ 「私たちも行きましょう」
飯嶋 「だが・・・」
さとみ 「私たちには見届ける義務があります」

さとみに促されて、飯嶋、陽子も向かう。

**************

週刊新流編集部。
戻ってくる原田と鈴木。

前原 「編集長、レイアウト整いました!今すぐ入稿出来ます!」
原田 「・・・」
前原 「編集長?」
原田 「・・・中止や」
前原 「え・・・」
原田 「あかん。この記事は全部ボツや」
前原 「なんでですか!俺たちクビなんか怖くないっすよ!」
原田 「俺らのクビどころの話ちゃう・・・」
鈴木 「あおいちゃんが命懸けで戦ってるのに逃げるんですか!」
原田 「無理なもんは無理なんや!・・・あんな、桜井がそのV.A.M.Pの姉ちゃんと友達だっての、警察も掴んどったやろ。そこから桜井の経歴、仕事、果ては同じ職場の俺たちの個人情報まですっかり調べ上げられとった。情けないけど俺な、娘の名前を出されて、ビビッてもうた・・・身勝手なのはわかっとる。けどな、娘に辛い思いさせたないねん。ただでさえ父ちゃんおらんのや。これ以上悲しい思いさせたないねん・・・」
鈴木 「編集長・・・」
原田 「すまん・・・」

**************

ReCreation社社長室。
松本は電話している。

松本 「・・・ええ・・・ええ・・・そうですか」


電話を切る。

松本 「・・・わかりました」

ノックの音。

高見 「どうぞ」

加賀の先導で坂崎、飯嶋、陽子、さとみが入ってくる。

坂崎 「お二人に逮捕状が出てます。ご同行お願いいたします」
松本 「坂崎・・・」
坂崎 「通称・Nプロジェクト。これは国家転覆を図るためにあなた方二人で企てた計画ですね」

高見 「何を言ってる、Nプロジェクトについては君も・・・」
松本 「とかげの尻尾切りですよ」
高見 「え・・・」
松本 「(携帯電話を見せて)公設秘書からです。田之倉事務所に、松本という人物は在籍していなかったと」
高見 「我々を切り捨てるのか・・・」
松本 「しかし、残念だったな。本当は田之倉先生まで引っ張りたかったんだろう。ここで本命の田之倉優作を挙げてたら、昇進は間違いなかったのにな」
坂崎 「・・・」
高見 「V.A.M.Pはどうなる」
坂崎 「彼らは国で厳重に管理させて頂きます」
高見 「ふざけるな!これは私が長年かけて作り上げたんだ。誰の手にも渡すものか・・・」

松本、懐からおもむろに銃を抜き、高見の腹部を撃つ。

松本 「見苦しいですよ、高見さん」

坂崎も銃を抜く。
陽子はさとみを庇いながら身構える。
飯嶋、高見の止血。
松本、続いて新に銃口を向ける。

松本 「動くな。銃弾より早く動くことは出来ないだろう」
坂崎 「松本さん・・・」
松本 「V.A.M.Pを連れ帰ることが出来なければ、君にとっては大きな失点になる。坂崎、取引だ。Nプロジェクトは高見耕一郎の独断の行為だった。高見は追い詰められて拳銃を取り出した。制止すべくもみ合う中で拳銃が暴発し、被疑者死亡。これで上を説得しろ」
高見 「松本・・・貴様・・・」
陽子 「・・・何よそれ、アンタの方がよっぽど見苦しいじゃない」
松本 「何?」
陽子 「コソコソとウィルス撒いて!悪事がバレたら人に責任なすりつけて!人質取って元の部下に見逃してもらおうなんて、見苦しい以外の何物でもないわよ!」
飯嶋 「お、おい、山下」
陽子 「なんですか!だってそうでしょ!飯嶋さんもそう思うでしょ!」
飯嶋 「いや、そうじゃなくておまえ丸腰・・・」
陽子 「・・・」

一瞬やっちまった・・・とあからさまに顔に出るも、開き直って構える陽子。

新 「(笑って)超面白ぇ!刑事さん、最高!」
陽子 「・・・そりゃどうも。でもね、別にあんたのこと許したわけじゃないから」
新 「だよねー。俺も許してもらおうとも思ってないんだわ」
陽子 「え?」
新 「んで、取引の材料に使われるのも癪なんだよね!」

と、新、手に持った○○を松本に投げつける。
松本が一瞬気を取られた瞬間に襲いかかる。
陽子も反射的に動き、それにつられて飯嶋と坂崎も。
松本VS新/新VS陽子・飯嶋・坂崎/陽子・飯嶋・坂崎VS松本と、三陣営が入り乱れたアクション。
坂崎は誤射を恐れて撃てない。
最終的に、新が松本の首筋に咬みつき松本は死亡。
初めて見る凄惨な吸血の光景に、皆、足がすくむ。
口を拭う新。
三人、慌てて再び構える。

新 「何今さらビビッてんだよ。これが、アンタらが生み出した新しい人類だ。いずれ俺たちがアンタらを食い尽くす。破滅はもう、始まってるんだよ」
さとみ 「・・・なんで?なんでそこまで・・・」
新 「なんで?ふん、さとみちゃんてさぁ、周りに愛されて生きてきたでしょ。だから分かんないんだよ、きっと」
さとみ 「え」
新 「昔さぁ、遊び半分で日生研のサーバーをいじってたら、正体不明のファイル見つけたんだよね。通常の検索では見つからないように奥底に隠されて、ご丁寧にロックまでかかってた。ファイル名はエスアイエヌ、シン。作成者は赤城孝雄、俺たちの親だ。さすがに親父が自分の名前の付いたファイル遺してたら子供心にも気になるよね。なんとかロックを解除して、開いてみた。出てきたのはV.A.M.Pの設計図だ」
さとみ 「え・・・」
新 「その時ふと気づいたんだ。赤城孝雄は、実験の失敗を責められて自殺した。ファイル名のエスアイエヌは、俺の名前のローマ字入力だと思ってたけど、そうじゃない。Sin、罪って意味だったんだ。つまり、俺たちは生まれてきたこと自体が罪だったと、死んだ親父から告げられたわけ」
さとみ 「そんな・・・」
新 「と、思うでしょ?俺も思ったよ、マジで。でもさ、俺たちが生まれてきたことが消せない罪と言うなら、俺たちが生きることは、あんたらが背負う罰なんだ」
未来 「赤城孝雄のレシピ、あんたが持ってたんだ・・・」

未来がやってくる。

さとみ 「未来・・・」
未来 「新、辛かったね。私も一緒。恨むしか方法が分からなかった。けど、もうそれもおしまい」

未来、構える。

新 「終わらねえよ」

新も構える。
咆哮を上げながら衝突する二人。
二匹の野生の獣がぶつかり合っているよう。
異形の者として生まれてきた二人にしか分からない哀しさがぶつかり合う。
皆、息を呑み、動けない。
最後、お互いに首筋に咬みつく。
まるでキスをしているような情景。
離れる二人。

未来 「・・・もし今度生まれ変わるなら、普通の姉弟に生まれたいね・・・」
新 「・・・まっぴらごめんだ」
未来 「ふふ」

二人、バタリと倒れ込む。

さとみ 「未来!」

駆け寄り抱き起すさとみ。

未来 「さとみ・・・ごめんね・・・」
さとみ 「ううん、未来のせいじゃない」

**************

キャスター「速報です。日生研のバイオハザードで、ウィルス感染により意識不明となっていたサクライアオイさん17歳ですが、意識を取り戻し、容体も安定の方向に向かっていると搬送先の病院の医師の発表がありました」

**************

さとみ 「・・・!」
未来 「良かった・・・」
さとみ 「うん・・・さあ、未来も」

と、さとみは未来を起こそうとする。
未来、力を振り絞って新の目を閉じてやる。

未来 「・・・さとみ、お願いがあるの」
さとみ 「ん?」
未来 「全部、跡形もなく消して・・・私も、新も・・・」
さとみ 「・・・」
未来 「お願い」

さとみ、躊躇った末に頷く。

未来 「ありがと・・・ねえ、さとみ」
さとみ 「ん?」

**************

10年前の屋上のシーン

未来 「ねえ、さとみ」
さとみ 「ん?」

未来、何かを言うがチャイムが鳴り、聞こえない。

さとみ 「(ん?)」

**************

未来 「・・・さとみに会えてよかった」
さとみ 「・・・私も」

力尽きる未来。

さとみ 「未来!未来ーっ!!」
飯嶋 「・・・坂崎、しばらく昇進は諦めろよ」
坂崎 「・・・ああ」


坂崎、ちょっと微笑んだような。
飯嶋、さとみを立たせて陽子に託し、おもむろにコートを脱ぐ。
飯嶋、脱いだコートを未来と新の遺体にかける。

陽子 「飯嶋さん?」
飯嶋 「山下、俺たちは慎ましく謹慎中だ。何も見てない。何も聞いてない。そうだよな」
陽子 「・・・はい」

マッチを擦ってコートに火をつける。
火はだんだん大きくなる。
しばらくそれを眺める四人。

飯嶋 「・・・行こう」

四人、出てゆく。

**************

炎の音。
消防車のサイレン。

キャスター「渋谷区のReCreation社で起こった火事は、最上階のワンフロアが全焼したところで消し止められ、消防と警察の発表によりますと焼け跡から男性一名の遺体が見つかったとのことです。同社社長、高見耕一郎氏が行方不明となっており、見つかった遺体は高見氏と見て、身元の調査中です」

#エピローグ

2019年。東京。
桜井さとみ(45)の幻想社SF小説新人賞受賞記念パーティ。
パーティも終盤。賑わう会場。
客の中にはあおい、陽子、飯嶋の姿も。

司会 「まだまだお話しは尽きぬところかとは存じますが、ここで皆さまに、嬉しいお知らせがございます。今回、幻想社SF小説新人賞を受賞された桜井先生の著作『世紀末のヴァンパイア』の映画化が決定致しました!」

来場客のどよめき。

司会 「今年の8月にクランクイン、来年、2020年秋の公開予定となっております。どうぞ映画版もお楽しみになさってください。嬉しいお知らせをお伝えしましたところで、本日の新人賞受賞記念パーティはそろそろお開きとさせて頂きます。ご多忙の中のご列席、誠に有難うございました。皆さま、先生に今一度大きな拍手をお願いいたします!」

一同の拍手のうちに閉会。
三々五々立ち去る客。

**************

パーティ会場入口。
帰り支度のさとみ。見送る司会者。

司会 「ちょっとお待ち頂ければタクシーお呼びしますのに」
さとみ 「ありがとうございます。でも、久しぶりに渋谷の街を歩いて帰りたくて」
司会 「そうですか。では、こちらで」
さとみ 「失礼します」

司会者、建物の中に戻る。

雑踏。
『週刊新流』元編集長・原田の姿。

原田 「おう」

原田に気づき歩み寄るさとみ。

さとみ 「来てくださってたんですか」
原田 「おう、元部下が晴れて新人賞受賞の作家先生や。どんなツラして出てくるか一目拝んでやろう思てな」
さとみ 「それはそれはお忙しいのにわざわざ。20年ぶりに見る可愛い部下の顔はいかがですか」
原田 「四十過ぎて小汚ないオバハンにでもなっとったら思いっきり笑ってやろう思ってたのに、ちょっと拍子抜けやわ」
さとみ 「相変わらずですね。セクハラで一発アウト」
原田 「ふん、まったく生きにくい世の中になったもんやで」
さとみ 「で、読んでくださったんですか」
原田 「ああ」
さとみ 「ご感想は」
原田 「まあ・・・良う書けとる。何より、SF小説とは考えたな」
さとみ 「これしか道はなかったというか」
原田 「確かにな。まあ売れて当たり前っちゃ当たり前のネタや。ったく、よくも古巣のウチやなくて競合他社から出してくよったな」
さとみ 「新流にご迷惑をおかけしてはいけませんから」
原田 「痛いとこ突くなぁ」
さとみ 「20年モノの厭味です」
原田 「大分熟成されとんな。もう腐りかけちゃうか」
さとみ 「ふふ」
原田 「・・・20年か。あの時、出させてやれてたら・・・すまなかったな」
さとみ 「編集長が謝るなんて珍し。熱でもあるんじゃないですか」
原田 「やかましいわ。ボケ」
さとみ 「・・・仕方なかったんですよ。あの時は。それに、編集長に「良く書けてる」なんて初めて言われました。それだけでも時間をかけた価値がありました」
原田 「ふん・・・まあ気が向いたら編集部にも顔出せや。締め切り前やなかったら飯でも連れてったるわ。ほなな」
さとみ 「・・・はい」

原田、去る。
見送るさとみ。

雑踏。
クラクションの音。音響式信号機の音。渋谷のスクランブル交差点。
歩み出すさとみ。
ふと、未来とすれ違ったような・・・

Cheeky☆Queens Stage#004「VAMP!」完

**********************************************

ご購読ありがとうございました。
コロナ禍が早く収まりますことを祈って。

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