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【検証】「歌ってみたのボーカロイド離れ」は本当に存在したのか? 標本調査から見えてくる実際のトコロ

歌ってみたのボーカロイド離れ?

 歌ってみたはボーカロイドと切っては切れないもの、という認識がある。この認識は、歌ってみたとボーカロイドの界隈のどちらでも、広く共有されている。

 しかし、その認識に一石を投じる調査が、myrmecoleon氏によって2014年に発表された。

 その調査は、ニコニコ動画の歌ってみたタグが付いた各年の動画をランダムサンプリングし、そこで歌われている楽曲の比率を調査するというもの。調査の結果、2012年から2014年にかけて、ニコニコ動画の歌ってみた動画でボーカロイド楽曲が歌われる比率が下がっているという結果が示され、「歌ってみたのボーカロイド離れ」が起こっている可能性が示唆された。

 本稿の目的は、myrmecoleon氏の調査で示唆された「歌ってみたのボーカロイド離れ」が本当に起こっていたのか、また、それ以降も継続して起こっていたのかを検証することだ。

 そのために、ニコニコ動画における2019年までの各年の歌ってみたタグが付いた動画をランダムサンプリングし、ボーカロイド楽曲の比率を求める。そして、どのような変化が起こっていたかを明らかにする。


調査方法

・検索ツールとして、ごくりん.info様のニコニコ超検索を使用する。
・ニコニコ動画に投稿された2007年~2019年の歌ってみたタグが付いた動画から、それぞれの年ごとに390本ほどの動画を無作為抽出(復元抽出)する。(詳しい数字は下記参照)
・抽出した動画を、ボーカロイド楽曲が歌われているか、そうではないかで分類する。

各年の母数とサンプル数

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分類基準

・本稿におけるボーカロイド楽曲とは、歌声合成技術VOCALOIDを使用した初音ミクや巡音ルカなどのソフトウェアのオリジナル楽曲に加え、他の歌声合成技術を用いた楽曲も含む。つまり、重音テトを用いた「おちゃめ機能」や「吉原ラメント」などもボーカロイド楽曲として分類する。

・HoneyWorksやhalyosyなどの楽曲の一部のように、ボーカロイドによる歌唱と人の歌唱による動画がほぼ同時期に公開された曲は、ボーカロイド楽曲に分類する。

・原曲のアレンジバージョンは、原曲がボーカロイド楽曲であれば、ボーカロイド楽曲に分類する。

・第三者が他者の歌ってみた動画を合成して作ったいわゆる“合唱動画”は、ボーカロイド楽曲の合唱動画であれば、ボーカロイド楽曲に分類する。

・JOYSOUNDのうたスキ動画は、ボーカロイド楽曲を歌っていれば、ボーカロイド楽曲に分類する。

調査結果

 上記の調査方法、分類基準に基づいてボーカロイド楽曲の比率を調査した結果、以下の結果が得られた。

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 調査結果によると、ニコニコ動画においてボーカロイド楽曲が歌われている比率は、2013年の73.3%をピークとして、減少傾向に転じた。myrmecoleon氏の調査では、ピークは2012年にあったが、今回の調査では異なる結果が出た。

 また、2013年以降、2016年まで比率の減少が続いているものの、それ以降は下げ止まり、2017年からはわずかではあるが上昇傾向に転じている。2015年以降、50%前後で大きな変化なく推移していると読み取ることもできる。


考察

 この調査結果からは、「歌ってみたのボーカロイド離れ」は確かに起こっていたものの、二つが完全に分離したわけではないことがわかる。たしかに比率は全盛期に比べると下がっているものの、全体の約半数をボーカロイド楽曲が占めている以上、未だに二つの文化の間には、深い関係があるといえる。

 また、ボーカロイド楽曲の比率が下げ止まっているだけではなく、上昇傾向に転じていることから、ボーカロイドと歌ってみたの関係が浅くなることは予想しづらい。このことからも、二つの文化の結びつきが強固なものであることが伺える。


今後の課題

 今回の調査では、YouTubeを調査対象に含まなかった。ニコニコ動画と異なり、YouTubeでは歌ってみた動画だけを抽出するのが難しいからだ。何らかの方法を見つけることができれば、折を見て検証したい。

参考文献

ねとらぼ「この10年間で“歌い手”という存在はどう変わったのか 歌い手「そらる」に聞く“歌ってみた”の可能性」https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1902/27/news134.html

ASCII.jp「「歌ってみた」のボカロ離れが始まっている?」myrmecoleon
https://ascii.jp/elem/000/000/877/877539/

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