【舛添要一】 日本人はまるでウクライナが何もかも正しくて、ロシアだけがうそつきだと思い込んでいる 日本人はインテリジェンス能力を失っている 「このままいくと国が亡びる」というほどに



転載


舛添要一がロシア・ウクライナ戦争を「政治腐敗大国のうそつき合戦」と断じる理由



米紙ワシントン・ポストは6月30日、米中央情報局(CIA)のバーンズ長官が6月にウクライナを極秘に訪れた際、反転攻勢により、秋までに領土を大きく奪還してクリミア半島に迫り、ロシアに対して停戦交渉に持ち込む計画を語ったことを報じた。こういった報道も、アメリカによる情報戦の駆け引きなのか。『プーチンの復讐と第三次世界大戦序曲』(集英社インターナショナル)を上梓した国際政治学者で前東京都知事の舛添要一氏に聞いた。(聞き手/ビデオジャーナリスト 長野 光)

ウクライナ戦争によるロシア経済への影響は限定的

――「どういう形で戦争が終結するかは見通せないが、ロシアが大勝利を収めて、その国力、国際的地位が向上することはなさそうである」「その後のロシアの政治体制がどうなるかも分からないが、欧米の民主主義体制の対抗軸となるのは不可能なような気がする」と書かれています。どのような理由からでしょうか。

 ベルリンの壁が崩壊して、ソビエト連邦が解体し、ソ連共産党の一党独裁体制の時代が終わり、ロシアは選挙を行って大統領や議員を選ぶ国になりました。

 2014年のクリミア併合までは、主要国首脳会議(G8)のメンバーに入っていましたし、エリツィンが大統領だった時代には北大西洋条約機構(NATO)に入ろうか、という勢いでした。

 中国は、中国共産党の一党独裁ですが、ロシアでは複数の政党が選挙で政権を争います。プーチン大統領も選挙で政権に就きました。その意味で、民主主義の対極にある独裁は中国です。ロシアでは、完全な形では基本的人権が守られていませんし、陰湿な言論弾圧もありますので「権威主義体制」と呼ばれるのですが、独裁ではありません。ロシアでは、大統領選挙に出馬してプーチンを負かすことだって論理的には可能なのです。

 マルクス・レーニン主義を続けているのは中国ですが、一方、ロシアについては、一応は克服しています。加えて、ロシアは核大国ではありますが、経済的にはそれほど大きな存在とは言えません。2022年のIMFの統計でも、名目GDPでロシアは世界8位です。経済的にも政治体制的にも欧米の対抗軸にはなり得ません。

――ウクライナ戦争を始めたことで、経済的に窮地に追い込まれ、国力がしぼみ、これまでより西側に対抗していく力を失っている、という面はありますか。

 私は、この戦争によって、ロシアの経済力がそれほどしぼんだとは考えていません。まず、経済制裁の効果は限定的です。ロシアに経済制裁をかけている国は、全世界のわずか4分の1です。インドも中国も、中東やアフリカもやっていません。

 ロシアはあれだけの資源大国で、石油の売り先にも困っていません。インドが6月にロシアから輸入した原油量は過去最高の200万バレルでした。中国もロシアからのエネルギーの輸入を増やしています。陸続きだからどんどん入ってくるのです。

 イランとロシアの間にはカスピ海がありますが、船で武器や物資のやり取りもできます。実際、イランからドローンなどの兵器を購入していますし、また、カザフスタンなどの中央アジアの旧ソ連諸国を経由して武器を含めた物資が入ってきます。

 さらに、ロシアは戦闘機やミサイルなど、ものによってはアメリカの性能に勝るものを生産できる高度な兵器工場を自前で持っています。つまり、それほど軍事的に落ちぶれているとは言えないのです。

 日本はロシアへの追加の制裁措置として、中古車も含めた乗用車の輸出規制を拡大することを決めました。排気量1900ccを超えるガソリン車、ディーゼル車、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、電気自動車(EV)などの輸出を禁止するというものです。

 たしかにロシアでは日本車は人気で、特に中古車は人気があります。しかし、ロシアは中国製の車を入れ始めています。中国車も性能がかなり向上しているので、日本の輸出規制など痛くもかゆくもありません。

 ロシア国民の生活のクオリティーは落ちていないし、困っているとは言えません。

 にもかかわらず、多くの人が「ロシアは困っている」と思っている背景には、西側の情報操作があります。アメリカやイギリスはうそをつくのがとてもうまいのです。

 ただし、ロシアがこの戦争に敗北し、ウクライナでの占領地域を全部取られるような事態になれば話は別です。それは、核兵器を使ってでも避けようとするロシアのレッドラインでしょう。



 しかし、今の状況が続く限り、ロシアの経済力はそれほど弱体化しないと思います。石油も天然ガスも豊富な資源大国なのです。

「政治腐敗大国」同士のうそつき合戦

――「ウクライナとロシア、それは狐と狸の化かし合いである」と書かれ、ウクライナにも手放しでは褒められないさまざまな問題があることについて言及されています。

 世界的な民間社会運動団体トランスペアレンシー・インターナショナルが調査・公表している各国政府の「腐敗認識指数スコア」によると、ウクライナの政治腐敗はロシアに近いレベルです(2022年のデータでは、180カ国中、ロシアは137位、ウクライナは116位)。

 戦争をやっているときに、国民には外に出るなと言いながら、ウクライナのオリガルヒ(新興財閥)たちは、こんな状況でも海外に遊びに出かけています。海外からの援助をピンハネして自分のポケットに入れる役人がいます。海外からの援助の4分の1くらいが役人への賄賂に使われているともいわれています。こんなことは日本では考えられません。

「こんな状況でなぜ援助などしなければならないのか」と我々はもっと怒らないといけないでしょう。そのくらいウクライナという国は腐敗しているのです。

 加えて、戦争という状況下では、どちらも情報操作、うそつき合戦をやります。ところが、日本人はまるでウクライナが何もかも正しくて、ロシアだけがうそつきだと思い込んでいます。この状況を見ると、日本人はインテリジェンス能力を失っていると思います。「このままいくと国が亡びる」というほどに、これは深刻です。

 うそつき合戦の一例を挙げましょう。

 昨年10月に貨物車両で大規模な爆発が発生して通行止めになったロシア本土とクリミア半島を結ぶクリミア大橋(ケルチ大橋)ですが、今年7月に再び破壊されました。

 1度目の爆破の後、ウクライナはロシア側の攻撃だと主張していましたが、最近になって自分たちがやったと認めました(7月8日、ウクライナのマリャル国防次官が「ロシアの補給を混乱させるためにクリミアの橋に対して最初の攻撃を行った」と通信アプリに投稿した)。今回も無人潜水艇を使って爆破させているので、ウクライナがやった可能性は高い。

 ロシアはこれに対して、ウクライナ南部オデッサの軍事関連施設などに報復のミサイル攻撃を行いました。すると今後は、クリミア半島にあるロシア軍の訓練施設で火災が発生しました。これもウクライナがやった可能性があります。

 お互いに「お前がやった」と言いながらうそをつき合っている。これが戦時下の情報戦です。「鬼畜米兵を撃退した」と言いながら、実際には負けていた太平洋戦争の日本の大本営と同じです。

 専門家ではない一般の方は、公開情報を追いかけるしかありませんが、『全部うそかもしれない』という考えを持って情報を見ることが大切です。どちらが勝っているか、負けているか、ということは現場を見てもいないのに判断できません。二つの「政治腐敗大国」が闘っているのですから、通常以上にうそをつき合っていると見るべきです。マスコミも「現場を確認していないので分かりません」という前提を伝えてから各ニュースを伝えるべきです。

 イギリスの秘密情報機関(MI6)のトップであるリチャード・ムーア長官が7月19日に「プーチン大統領は明らかに苦境にある」と公開の場で語りました。この立場の人がこのような発言をすることは通常ではあり得ません。プーチンを追い詰めたくて意図的に公言したのでしょう。これが英米のうそのつき方です。

ロシアから見たウクライナの「裏切りの歴史」

――独立や併合をめぐるロシアとウクライナの戦いは古く、その歴史は中世にまでさかのぼります。「ロシアから見ると、ウクライナはロシアを裏切り続けてきた」と書かれています。ロシアとウクライナは、長い歴史の中でどのように衝突してきたのでしょうか。

 両国は大陸の中で国境線を接しており、領土の取り合いが戦争の歴史を作ってきました。1740年頃の地図を見ると、隣り合っていたロシアとポーランドはしばしば戦争をしており、ポーランド側の一部にウクライナがありました。そして、リトアニアやポーランドがロシアを抑える存在でした。この頃はまだドイツは存在していないし、時代ごとにこの辺りの国境線はどんどん動いています。

 1870年代、日本の明治維新の頃に、イタリアやドイツが統一を果たしますが、その前は、ロシア帝国やポーランド王国がぶつかり合っており、やがて、オーストリア帝国も出てきました。ウクライナはロシアに取られたり、ポーランドに取られたり、自分たちだけで独立できる強い存在ではありませんでした。独立を果たしたのは最近のことです。

 1917年にロシアで2月革命が起こります。そして、ほころび始めたロシア帝国を見てウクライナは独立をもくろみました。レーニンがソビエト連邦の基礎を作ったように、ウクライナも「ウクライナ中央ラーダ(ウクライナ中央議会)」という政治的中枢機関を作ります。

 レーニンが率いた左派の一派ボリシェビキに対抗しながら、ウクライナ中央ラーダが独立を図ります。この時、第一次大戦でロシアはドイツと戦争しているのですが、ウクライナ中央ラーダはドイツとの間で、100万トンの穀物を提供する代わりに助けを求める闇取引をしました。その結果、革命を成功させたかったレーニンは邪魔されてしまった。これがウクライナの裏切りです。

 この後、ブレスト=リトフスクという講和条約が結ばれました。ロシアは、フィンランド、ポーランド、バルト三国、そしてウクライナを、ドイツに割譲することになりました。ロシアからすると「あの時ウクライナがドイツと組んだから自分たちは負けた」という恨みがあります。レーニン政府はウクライナに対して恨み骨髄なのです。

 後に、ロシア内戦(1918-1922)が起きて、赤軍(共産主義者)と白軍(保守派)が衝突しますが、この時もウクライナ政府はロシアを邪魔しました。



 当時、ウクライナはポーランドの子分のような存在で、ロシアはポーランドとウクライナを両方倒したいと考えていました。そうした中で、ポーランド・ソビエト戦争(1919~1921年)が起こり、ロシアの赤軍がポーランドに攻め込みますが、敗北してしまうのです。

 この失敗で、スターリンは左遷されて島流しにされました。ウクライナの裏切りに対するスターリンの怒りが、その後、ウクライナでの穀物の強制徴発による「ホロドモール」と呼ばれる大量虐殺につながりました。

 ロシアとウクライナの間には、こういう因縁の歴史がずっと続いてきました。今回も、ロシアは「またウクライナは欧米と組んで裏切ろうとしている」という目でウクライナを見ているのです。

https://www.msn.com/ja-jp/news/world/舛添要一がロシア-ウクライナ戦争を-政治腐敗大国のうそつき合戦-と断じる理由/ar-AA1f9Ors?ocid=socialshare&pc=U531&cvid=acce6dd322ad449bb0c851bf063f29f9&ei=6