2023年11月29日 児童虐待撲滅イベント 山本昌子監督講演「虐待は大人になって終わりじゃない~虐待経験者のリアルな声~」を開催しました

【日時】:2023年11月29日(水) 20:00~21:30
【会場】:オンライン開催 (ZOOM)

まこ(MAKO)ちゃんの「M」でポーズ!

虐待された経験のある全国の若者達の声を集めたドキュメンタリー映画「REAL VOICE」(リアルボイス)の監督、施設出身者に晴れ着での前撮りを贈る「ACHAプロジェクト」代表、児童養護施設出身者3人組によるYouTubeの情報発信番組「THREE FLAGS -希望の狼煙-」のメンバー、居場所事業「まこHOUSE」の運営等、具体的な支援を精力的に行っている、まこちゃんこと山本昌子さんに講演していただきました。
ご参加くださった皆さま誠にありがとうございました。

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生後4か月から乳児院で育ったまこちゃん。保護理由はネグレクト。
親族が発見してくれたおかげで命は助かったものの、あと数時間遅ければ亡くなっていたかもしれない、という衝撃的なお話から始まりましたが、これまで関わってくれた人たちへの感謝に溢れ、ユーモラスで、未来への希望を持ち続けているまこちゃんのお話は、私たちにたくさんの勇気と、何かできるかもしれない、という自分への期待を与えてくれました。

まこちゃんが育ったのは少人数制で家庭的養護を実践する施設。
職員さんや子どもの入れ替えもあまりなく、同じメンバーで長く過ごすことができたのは良かった、と話します。
しかし、同じメンバーで長く過ごすと、何かと問題が起きます。
すると、多くの施設では人の入れ替えで対応することが少なくない、つまり、関係を切ってその場の問題を解決していくことが多いそうです。
なので、そうした人間関係の対処法が身についている子が多いとのことでした。
幸い、まこちゃんの育った施設はそのような解決法を取らず、言葉で解決できないなら手紙で、又は話し合いの場を設けて、とことん話をさせてくれたそうです。
悪いことをした時も職員さんは一方的に叱らず、ダメということを伝えてくれるとともに、いいところもセットで伝えてくれて、あなたのことが大好きだからこうしてほしいと思ている、と伝えてくれたので、愛情を感じて育つことができたとのことでした。
「ルールだから、決まりだから、従って」と対処される施設も多いであろう中、丁寧に説明してくれたことがありがたかったとのこと。
門限の早さに文句を言った時も、「暗くなってから帰って事件などに巻き込まれたら、あなたがつらい思い出を持って生きていくことになる。そうならないようにしたいから。」と理由を説明してくれたので愛情を感じていたそうです。
ならば、門限を守っていたか?と言うとそんなことはなく(笑)守っていなかったけれど、愛情はちゃんと受け取っていたと言います。
どんな小さな子でも、どうせわからないからとごまかしたり適当にあしらったりせず、しっかり向き合ってほしいとのことでした。(お子様を育てている各家庭でも、気を付けたいところですね。)

小学生の時は、施設の子は・・・と後ろ指さされないようにするための細やかな配慮がされつつも過剰な配慮をされることもなく、自分らしさを発揮しとことん発散させてもらって成長できたそうです。
それは、施設と学校の大人(職員)同士の連携がうまく機能していたおかげで、思い込みでの配慮ではなく、本当に必要な配慮をしてもらえたのだと思う、とのことでした。

実の親との関係についても話してくださいました。
お父さんは、施設にいる間も定期的に交流していて、今でも一緒にご飯や映画に行くこともあるそうです。
そんなお父さんには、裏切られるような出来事もあったけれど
「親は生んでくれただけで十分」
と解釈し、期待しないようにしたとのこと。

そんな、元気に強くたくましく生きてきたように見えるまこちゃんにも、辛い時がやってきます。それは「孤独」です。
施設にいる間は、職員さんや一緒に暮らす子どもたちがいました。
そこでの生活は満足のいくもので、学校でも施設で生活していることを隠すことなく、自分の人生に自信があったまこちゃん。
しかし、一人暮らしになるとその人生は「まぼろし」だったと考えるようになり、自分はひとりぼっちだ、不幸だ、死にたいと考えるようになります。
そんなまこちゃんを支えてくれたのは、専門学校の友人、バイト先の仲間でした。
死にたいと言っても、生きていて欲しい、と言ってくれる仲間、単位を落とさないように支援してくれた友人、そして何よりも、これまで大切に育ててくれた施設の職員さんを苦しませたくない、との思いから「お世話になった人のためにも生きていきたい!」と思うようになったそうです。

20歳を迎える時には、まこちゃんが振袖を着ていないことを知った先輩のACHAさんに、振袖を着せてもらうという経験をします。
その経験から「これをもっと多くの施設出身者にも届けたい!」と、ACHAプロジェクトをスタートさせます。
新型コロナウイルス感染症が猛威を振るうようになった時には、メイクさんやカメラマンさんと共に活動することや、育った施設を振袖を着て訪問することも難しくなり、他の形での支援を考え始めます。
それは、オンラインの居場所づくりや食料や衣服の提供でした。
寄附を募るなど、多くの人の力を借りて多くの支援につなげてこられました。
その後、リアルな居場所をつくろう!と空き家をリノベーションした一軒家に「まこHOUSE」をオープン。
そこで様々な虐待経験者や施設出身者と語る中で、虐待は大人になって終わりではないこと、その痛みを抱えて生きている大人もいることを知り、その声を届けたいと、映画「REAL VOICE」の制作を始めます。

映画では、45都道府県に出向き、70人のリアルな声を収録しています。
その際に役立ったのが、保育の専門学校で学んだ「ライフストーリーワーク」。
小・中・高の友人や施設の職員さんに会いに行き、生い立ちの整理をすることで「自分は愛されていたんだ」と気付くことができた経験から、撮影の時には、例え一言を撮る時でも、何時間も話しを聴き、本当に伝えたいことが出て来てから撮るようにしてきたそうです。
その時間は、生い立ちの整理をする時間でもあります。
自然に自分で自分のことを大切に思えるようになれるように、一人ひとりに向き合っていたそうです。
そんな、本当の心の声「REAL VOICE」を、多くの方に観ていただき、知っていただくことにつながったら嬉しい!とのことでした。

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【まこちゃん監督に聞いてみよう!Q&Aコーナー】
Q.
週末里親を受け入れているが、感情を出すのがうまくないと感じている。良い関り方はあるか?
A.
質問等聞いてもらうことで考えるようになる。何を言っても否定されてきた子は、考えないことで自分を守っていることがある。周りのコミュニケーションを見て学ぶこともある。半年~2年かかる子もいる。安心安全な場だとわかってもらうのが良いと思う。

Q.
施設職員にはいろいろな人がいると思うが、まこちゃんが育った環境はレアなのではないか?
A.
相性もあると思う。私にとって好きな職員でも、他の子にとっては嫌いということもある。幼少期のことを知っている存在が大きな存在になるので、長くかかわり続けてほしい。今は働く環境も変わってきているので、イキイキと働いている人も増えていると思う。

Q.
自分も様々な支援を行っているが、気持ちを言語化できない人が多い。人は信じられないけれど、動物や土(自然)は信じられるという人もいる。今日話を聴いて涙が出た。山本昌子さんという一人の命とこうして出会えてよかった。自分の住む地域ではまだまだ施設が充実していないので、もっとできるようにしていきたい。
A.
私は週末里親さんが犬猫を飼っていて、家に行くのが楽しみだった。動物との触れ合いに癒された。(地域差について)多くの人が声を上げることが大切で、多くの施設で寄り添った支援ができるようになれば、そちらが当たり前になれば、変わっていくと思う。

Q.
過去に施設の実習で出会ったあの子はどうしてるかな?と思い出して涙が出た。まこちゃんは、今は実の親との関係はどうなのでしょうか?
A.
父親とは映画やご飯に言っている。友人のような感覚。友達や恋人は変わりがいるけれど、親は変わりがいない。両親がいたから自分が生まれたのが事実。「親は生んでくれただけで十分」と解釈し、期待しないようにしたとのこと。母親は、3年前にテレビの企画で探してもらって再会したが、色々と考え、今後は会わない選択をした。親以外の新しい大切な大人(施設の職員等)を見つけられると強くなる。ただ、虐待をする親は根っからの悪い人と言うことは少なく、優しい時もある。そうなると、関係を切れない子もたくさんいるのが事実。

Q.
施設に保護された子の他にも、保護されずに虐待されている子もいる。この映画は有意義だと思う。虐待の他、いじめなどでも傷つくこともある中で、どんな思いやりがあったらよいと思うか?
A.
わかってくれると嬉しい。誰もが、初めて会った時は背景はわからない。施設で育った子や虐待を受けてきた子は、あれ?と思う対応をすることがあるかもしれない。そんな時、あれ?なんかおかしいな?と思った時には、背景があると思う。そこを気遣えると良いと思う。理由なく誰かを傷つける人はいない、もしそういう人がいた時、助けたいと思っても難しいこともあると思う。そんな時は、何か背景があるんだろう、と考えて離れる選択をしてもよいと思う。せめて、傷つけないで欲しい。
虐待のせいにしたくないと思っても、人ができることができないと言うことがあったりする。完璧を求められ続けてきた子は、例えばバイトの初日に完璧にできないと苦しんでしまうこともある。初日でうまくできないのは当たり前と思うかもしれないけれど、そう思えない子もいる。そんな時は、何か理由があるのかも?と思ってほしい。
今私は、遠くの支援にも言っているけれど、身近の大切な人を大切にすれば、遠くの人が助ける必要はなくなると思う。その為にも、まずは一番身近な自分を大切にしてほしいと思う。

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【参加者の声】
・身近な人を大切にする。心にしみました。ありがとうございます。
・今日は、ありがとうございました。(問題行動をとる相手等に対して)何かあったのかな?って考える。自分を大切にする。身近な人を大切にする。離れる。とても勉強になりました。
・今日のお話はただただ圧倒される感じで聞き入ってしましました。以前ネグレクトの生徒さんが児相に相談して施設に入り、それで解決した!と思っていましたが、そうではなかったのですね。参考になりました。
・リアルなお話が聞けて勉強になりました ありがとうございました。
・まこちゃん監督ありがとうございました。涙を流しながら聞きました。孫との関わり方や孫の友達との関わり方を考えさせられる時間でした。
・ありがとうございました。親としていろいろ思うことがありました。身近で大事な人を大事にできているのか。ここが原点であると改めて感じました。ありがとうございました。
・貴重なお話ありがとうございました。問題行動の背景には何かがあると思ってみることが大事。身近な人をみんなが大切にできたら、遠くの人を助ける必要がないし、自分自身を大切にしていくことが大事。すごく心に沁みました。
・山本さんが声をあげて、かつ行動してくれる事でどれだけの命が魂が救われることでしょう!私達も身近な命を支えていける行動を今まで以上にしていきたいです!
・リアルなお話しを涙を流しながら聞いていました。自分が誰かに愛されていると実感できたら自分も周りの人も大切にできるのだと思いました。仕事で幼児・児童を相手にしているので、その事を伝えていきます

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「親は生んでくれただけで十分」
ネグレクトを受け、施設で育ったまこちゃんが発するこの言葉に衝撃を受けました。
一方で、生むことは親にしかできないけれど、育てること、成長を支援することは親でなくてもできる、と言うことでもあります。
自分の子だけでなく、身近な子どもたちにも目を向けていく価値をあらためて感じる時間となりました。

自分を大切にし、身近な人を大切にし、具体的な活動をし、常に前を向いて生きていく生き方に感銘を受けました。
まこちゃん監督こと山本昌子さん。貴重なお話をありがとうございました!
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REALVOICE (studio.site)
achaproject masako yamamoto
児童養護施設出身 まこちゃん - YouTube

文責:宗像

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