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【三菱商事様・DX支援事例】統計理論を駆使し、鉄鋼等の素材流通業界向け在庫最適化サービス開発を支援

製造業に携わる各社にとって材料の発注は、過剰在庫や欠品を起こさず、最適な数量で行いたいもの。三菱商事が鉄鋼等の素材流通業界でDX推進を掲げ展開するSaaS型ソリューションのラインナップの一つ、「在庫最適化サービス」では、さまざまな統計理論を組み入れて、最適な発注数量を算出・推奨します。このサービスの開発に携わったのが、NRIデジタルのデータサイエンティスト石川陽一です。開発経緯や工夫について話してもらいました。

石川陽一(いしかわ・よういち)
2017年に新卒でAIベンダーに入社し、データ分析業務を担当した。2020年に野村総合研究所(NRI)に転職し、NRIデジタルのデータサイエンスチームへ。大学では数学科で統計解析などを学び、その数学的素養を活かしてデータサイエンティストのキャリアを歩んでいる。

---石川さんが直近で関わった仕事について教えてください。

三菱商事様が鉄鋼業界のお客さま向けに、統計理論を活用して鋼材の発注量算出・推奨を行う「在庫最適化サービス」を展開しており、その開発を支援しました。

データサイエンティストである私は、過剰在庫や欠品を起こさず、最適な数量の発注を実現する機能の開発に携わりました。
プロジェクトには2023年春に参画し、同年10月にはサービスがリリースされています。

---このサービスを利用すると、ユーザー各社はどんなメリットが得られますか?

このサービスは、鉄鋼業界をデジタル化する先駆者の位置づけにあると思っています。
今のところ鉄鋼流通業界では、発注業務はエクセルを使った手作業、発注量を決めるのは現場のベテラン担当者の経験と勘で行われるケースが多く、予測を外して材料不足の事態になると緊急材料手配等の追加フォローアップ業務が発生……といった状況が多々あります。
本サービスを導入すれば、発注数量算出に必要なデータは基幹システムから半自動で取り込まれ、事前設定したロジックに基づいて明細毎に発注数量を推奨し、発注伝票はボタン一つで表示されるので、大幅な業務効率化が図れます。

---発注数量を自動で教えてくれることもポイントですね。

はい、適正在庫に関する統計アルゴリズムによって、欠品が起こらないよう、最適な在庫量を維持するように発注量が示されますし、複数の統計予測モデルから、今後の使用予定も算出されます。

---石川さんは、どういった経緯で本サービスに関わるようになったのですか?

もともと三菱商事様が、本件とは別に、デジタルを活用したサプライチェーンの課題解決を検討されていた際に、データ分析の専門家としてお声がけいただき、その検討プロジェクトにジョインしました。
そこで、実際にデータ分析で何ができるのか、メリットがあるかを理解いただくために、こんな分析ができるというメニューをクイックに作って紹介したのです。
こんなふうにデータ分析の成果を出していたら、在庫最適化サービスについても支援してもらえないかということで、発注数量を最適化する適正在庫アルゴリズムと統計需要予測という手法を活用した機能の開発に関わらせていただくことになりました。

---石川さんが、開発において工夫したことは何でしょうか?

統計需要予測に関して、このサービスにはすでに、最近流行りの先端技術ではなく、理論として形式が確立されたクラシカルな手法が搭載されていました。
そこで機能を高度化する余地はまだあると思いながらも、まずはクラシカルな手法をベースに機械学習の考え方を取り入れるなど、活用の仕方を提案させていただき、実際の開発に取り込みました。
需要予測には多数のモデルを盛り込んでおり、その中から予測精度が最も高いモデル(ベストフィットモデル)を選んで、その予測値を採用するという仕組みになっています。
このベストフィットモデルの選び方も工夫ポイントです。例えば、鉄鋼業界では、向こう3~4か月分の鋼材需要を見て発注数量を算出します。となると、予測精度は単月の実績と予測の比較ではなく、3~4か月の期間合計値の実績と予測の比較で見るべきなのか……そんなふうに悩みながら、手法を考えました。

---新しい機能に対し、利用者である各社から反発はなかったですか?

三菱商事様にとっても、実際にサービスを利用されるユーザー各社さまにとっても、新しい機能は本当に信頼できるのか、効果があるのか、という不安はあったと思います。
そこで事前に、本サービスを導入した場合の効果診断の資料を作り、有効性を示しました。
こうした試算を行ったことは、本プロジェクトにおける大きな工夫であり、本サービス導入推進の支えになったと思っています。
また、データ分析の技術や統計理論などは、一般の方々には難しく、内容も伝わりにくいと思っています。そのため、説明は丁寧に行い、言葉や表現もなるべく簡易でわかりやすくするよう心掛けました。

実際のユーザー様から「発注数量の予測値を機械任せにするのは怖い」という声をいただいたので、自動算出した発注数量はオプションの位置づけとして、現場の担当者が手作業で修正できる仕様に変えました。
推奨値として出された数値に対し、長年の経験から違和感を持つ、もしくは統計理論にはあてはまらない諸事情がある、などにも対応できるようにしています。

---実際にこのサービスの利用が始まってから、効果は出ていますか?

初期ユーザーさんの実証実験(サービス利用開始前)では具体的に「在庫が〇%減った」などの声を聞いているので、サービス本番利用後もその効果は出ると見込まれています。
今後、本サービス導入による効果をどう図っていくべきか、まさに議論を進めているところです。
効果の数値を出すロジックの組み立てが、今後の課題だと思っています。

---このサービスに関して、石川さんが改善したいことはありますか?

各社様への導入が進み、データがたまってきたら、予測手法のアップグレードができると思っています。
例えば、統計理論の手法をベースにした機能から、機械学習を活用した機能に変えたり、流行りの深層学習手法なども利用したりすれば、より高度な分析が可能です。

本サービスは鉄鋼業界に限らず、さまざまな素材産業にも有効です。
もともと三菱商事様が掲げる目標は、デジタル活用によるサプライチェーン全体の効率化でした。
そのどこかにデータサイエンティストとして関わることで、国内素材産業の発展に貢献できたらと思っています。

---自分のキャリアにとって今回の仕事をどのように位置づけていますか?

私には、1年以上にわたって同一のプロジェクトに関わった経験はあまりなく、私のキャリアのなかでも、本プロジェクトは付加価値の高いものの一つと位置づけています。
それと、この仕事を通じて、世界でもトップクラスの総合商社である三菱商事の方々の、モノを売る姿勢や、ニーズのとらえ方、物事の進め方などを知り、日々刺激をいただきました。私自身にとって、貴重な勉強の機会となり、感謝しています。

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