私的SUMMER SONIC 2023で気になるアーティストたち

SUMMER SONIC 2023(東京)に行けることになったので、個人的に気になるアーティストをまとめていこうと思います。
筆者はインディーロックとオルタナティブに目がないので選出が明らかに偏っていますが、ご容赦ください。


1. Pale Waves

Pale Wavesはイギリス,マンチェスター出身のロックバンドです。
THE 1975やBeabadoobee、RINA SAWAYAMAらが所属するDirty Hitの中でも日本人気が高い(気がする)バンドです。
2018年にBBCによるSound of 2018やMTVのBrand New 2018など各省にノミネートされ、同年のNMEアワードでは最優秀新人賞を獲得。
同年のサマーソニックで初来日を果たすと、翌年のジャパンツアーでは東京2公演をソールドアウトさせています。

マンチェスター出身ながらもそのサウンドはとてもアメリカ的で、アヴリル・ラヴィーンに聴きなじみのある一定の世代の日本人に刺さること間違いなしのサウンドだと思います。
「Television Romance」「New Year's Eve」など、初期は80'sのような煌びやかなシンセ使いとポップさに溢れていたPale Wavesですが、直近のリリース「Unwanted」ではYUNGBLUDやMachine Gun Kellyを手掛けたZakk Cerviniをプロデューサーに迎え、よりドライブ感のある90'sポップパンクを鳴らしています。

そしてMVごとに変わるビジュアルの方向性とボーカル・ギターのヘザーのスタイリングも毎回楽しみです。
個人的にはこの曲がとても好き。全体を通して時折挟まってくるヘザーのソロカットでの歌い方がとても良いです。現代で一番ゴススタイルが似合っている気がする……。


2. jxdn

jxdn(ジェイデン)はUSテキサス州ダラス出身のシンガー・ソングライターです。
バズのきっかけはTikTokからで、これまでに世界で915万ストリーミングを超え、SNS全体で2200万以上のフォロワーを獲得しています。
Blink-182のドラマーであるTravis BakerのレーベルDTA Recordsからリリースされたデビューアルバム「Tell Me About Tomorrow」はポップパンクの新星として高く評価されています。

去年かおととしくらいに何回目かのロックは死んだ論が話題になった時期がありましたが(ストリーミング配信におけるギターソロ問題はともかくとしても)明らかにLil Peepやxxxtentacion以降、BeabadoobeeやMaggie Lindemannなどを始めとして若手シーンではギターサウンドが多くみられるようになった気がしています(個人の感想)。

死んだほうがまし、というタイトルの曲が800万回以上も再生されているいっぽうで、日本でヒットしたのはAdoのうっせぇわだった事実は深堀りしてみると面白そうではありますが。
それはさておき、「jxdnはTikTokerじゃない。Rockstarだ」というコメントが彼の人気を物語っていると思います。


3. Wet Leg

Wet Legはイギリスのワイト島出身のインディーロック・デュオです。
2022年のデビューアルバム「Wet Leg」で全英アルバムチャート第1位を記録。2023年のグラミー賞とブリット・アワードではいずれも2部門を受賞し、その直後の初来日ツアーも全公演ソールドアウトさせています。

「理由のひとつは『いまから音楽をやるには、歳をとりすぎているし、仕事にもわりと満足している』と思っていたから。心から人生を楽しめるところまで来ていた。でも、夏にはまた一緒に音楽フェスに行って、気持ち悪くなるまで酔っ払いたいから、音楽をやることにしたの」

Rolling Stoneでのインタビューより

Wet LegについてはRolling Stonesのこの記事がとても良いのでこちらを読むことをオススメします。(UK版の記事の和訳ですが、インタビューなのに短編小説の様なエピソードと質感たっぷりで読みごたえがあります)

島民すべてが知り合いのような田舎の島で生まれ育った二人が奏でるナチュラルなサウンドは、そのバックグラウンドも含めてリスナーたちに愛されていると思います。

へスターとリアンがワイト島で踊りまくっているシュールなMV。最高。


4. DURDN

DURDN(ダーダン)は、韓国にルーツを持つシンガーBaku(バク)と、トラックメイカーのSHINTA、トップライナーのyaccoによるプロデュースデュオ=tee tea(ティー・ティー)によるプロジェクトです。
2021年の活動開始直後から12か月連続のリリースを達成し、2022年8月3日にリリースされたシングル「何年後も」ではダイハツ タフト「TOUGH LIFE」篇のCMソングとして抜擢されました。これを皮切りに多数のタイアップも決定し、今年にはSpotifyの「RADAR: Early Noise 2023」に選出されています。

SHINTAのトラックとyaccoによるトップラインの絶妙な組み合わせは「シティポップ」の枠組みだけでは説明できない素晴らしい個性を生み出しています。
個人的にですが、ギターが弾ける人のトラックにハマることが多いんですよね。特に「僕の夢」が非シューゲイザー的な意味でドリーミーで本当に最高です。


そしてBakuのボーカルこそがDURDNに欠かせないマスターピースであることがよくわかるのが「apart」With ensemble
普段のDURDNのトラックの中では都会的なイメージを纏いつつも、生楽器のアンサンブルの中においてはブレッシーなニュアンスが一層際立ち、その繊細さにますます引き込まれていきます。


5. 落日飛車(Sunset Rollercoaster)

落日飛車(Sunset Rollercoaster)は台北のシティポップバンドです。2009年に結成され、 2011年にアルバム「巴莎諾娃 Bossa Nova」発表。その年のSUMMER SONICに出演後、数年間の活動休止を経て、2016年E.P「JINJI KIKKO」を発表しインディーシーンで話題に。2021年には台湾のグラミー賞と言われる金曲獎の最優秀バンド賞を獲得しました。アーバンかつサイケでメロウな唯一無二のサウンドは落日飛車的アジアンオリエンティッドロック(AOR)と評されています。出典不明ですがうまいこと言ったものですね。

筆者もJINJI KIKKOで存在を知り、近況は追えていなかったのですが久しぶりにチェックしたところこのMVがとてもよかったので紹介しようと思います。

おそらく台湾の町中(わりと下町寄り?)で撮影されていると思うのですが、ヤシの木や、軒先にプラスチック製の屋台椅子が置かれているからなのか、どことなくオリエンタルな雰囲気を感じさせます。

このMVのすごいところは、何気なく挟まるカットのどれもがさりげなく動的で美しく、メロウでリラックスする曲調にもかかわらず目が離せないものに仕上がっている点です。

1:24~のカットは、こちらを向いている主人公の少年(London Lee)に注意が向いてしまいますが、その背後でローリングシャッター効果で歪んだ列車が走り抜けると、そこは駅であったことがわかります。そして、対岸のホームに人がいることを認識できるかどうかぎりぎりの速度ですぐに次のカットへと移り変わります。
この駅のカットは1:56~でもう一度登場し、視聴者に与えた先ほどの謎を解決しつつも、今度はその奥の人物と手前にいる主人公が同じ方向を向いている、というささやかな奇妙さを新たにもたらします。

その後、Orientalパートの導入でプールの中を泳ぐシーンが登場します。
これまでに登場していなかったシンセサイザーの音色と解決しないコード感が、水の中で揺れるカメラワークとマッチしている非常に印象的なシーンです。

プールのシーンが終わってからは、このMVにおけるストーリーラインが動き始めます。冒頭からアイコニックに登場していたビニール袋が2:37~から大量に飛来し始めると、まるでその行方(あるいは出所)を探すように主人公は夜の台北市街へと繰り出します。

人々が手にしている(買い物直後でまだ役目を果たしている)ビニール袋や、あるいは側溝の上に放置されている(すでに役目を終えた)ビニール袋が映し出されると、3:44~から少年は突然走り出します。

時折先ほどのプールの中で藻掻いている様子なども織り交ぜられつつ少年は走り抜けていき(4:38~の橋の上のカットも素晴らしく美しいです。自然光の奇跡としか言いようがない)最後に少年は海にたどり着きます。

このMVにおいてビニール袋が意味するものには、いくつかの候補があると思います。憧れや理想など、大人になる前のモラトリアムの中で揺られている思春期の心理の象徴、というのが(Youtubeのコメント欄でも言及されているように)最もスムーズな解釈でしょう。
あるいはビニール袋をSDGs的な文脈の一端と捉えたときには、都市の喧騒とそこからの逃避というテーマを見出すことにも(いささか直接的ではありますが)無理は生じません。

いずれにせよ、現代日本にいては見つけることが難しいオリエンタルなノスタルジアを感じさせる素晴らしいMVだと思います。


おわりに

2023年現在、新型コロナウイルスによる各種催事への規制はおおむね撤廃されており、様々なライブやフェスの現場でも歓声などがかなり戻りつつあります。
感染対策はしっかりと講じたうえでサマソニも含めた各種催事が安全に敢行されることを願いつつ、私個人としては人生初フェスが楽しみで仕方がないです。
今のところPale WavesとTDCC(有名なので紹介しませんでしたが)は絶対に観るつもりです。他のアーティストとのタイテ被りに戦々恐々ですが。

良い夏を過ごしましょう。


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