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マスターアルゴリズム — 世界を再構築する「究極の機械学習」のゆるい感想

 講談社より出版されている『マスターアルゴリズム — 世界を再構築する「究極の機械学習」』を読み終えた。本書は 2015 年に出版された機械学習に関する本の日本語版である。原著の Pedro Domingos 氏は、ワシントン大学教授の機械学習・人工知能研究で長いキャリアを持つ研究者である。小生はこの分野には明るくないが Google Scholar を見ても氏が圧倒的な業績を誇っているのがわかる。翻訳をされた神嶌先生は『パターン認識と機械学習 — ベイズ理論による統計的予測』の翻訳をされていたり、『朱鷺の杜Wiki』に関わっている方である。これらは私のような平々凡々なソフトウェアエンジニアでもお世話になったことがある書籍およびページである。

 本書では『過去、現在、そして未来にわたる全ての知識は、単一の万能学習アルゴリズムによりデータから獲得できる』という仮説の検証を行なっている。このようなアルゴリズムをタイトルにもなっているマスターアルゴリズムと呼ぶことにしている。英語で "The Master Algorithm" と the をつけており、唯一無二のものということが分かる。

 ところで、機械学習に苦手意識を持っておられる方は少なくないのではなかろうか。私は苦手意識を持っている。うまく動く理由が説明できないのに気持ち悪さを感じるのが原因であると考えている(学部の頃は理論系の研究室に所属しており、証明を行なっていたのも原因の一つかもしれない)。そうは言っても便利であるから、仕事でのちょっとした調査や、自己満足のおもちゃを作るのに機械学習のライブラリを利用している。ちょっと皮肉った内容である以下の tweet に正直、同意している。

 閑話休題、本書ではマスターアルゴリズムの探究に向けて、機械学習における五つの学派(記号主義者、コネクショニスト、進化主義者、ベイズ主義者、類推主義者)の歴史と信念、基幹アルゴリズムに最も重要視している問題を解説している。学派の視点を変えた際の各種アルゴリズムの繋がりを解説し、その上でマスターアルゴリズムにつながるであろう著者らの研究を紹介している。

 本書を読む前の私ではマスターアルゴリズムという仮説を言われたところで否定的であったと思う。しかしながら本書を読んだことで、計算という行為におけるチューリングマシーンが存在しているのと同様に学習という行為におけるマスターアルゴリズムが存在していていもおかしくないと感じられるようになった。また、正直いうと学生時代に学んだことはほとんど忘れていたが、読後は自分の持っていた機械学習の知識が体系的に再整理された。そういう意味でも本書の読書体験は非常に価値があった。

 機械学習に関して一歩踏み込んで知りたいビジネスマンの方や機械学習を利用したい方、かつて少し機械学習を学びそれから長いこと離れていた方(例えば私である。私が大学で学んだ頃はニューラルネットワークは機械学習における古の手法と言われていた)にもおすすめする書籍である。というのも、本書は現代の機械学習の全体像(と言いつつ私はこの分野の門外漢なので、これが全体かは判断できない)とその繋がりを平易な言葉で解説している。解説を理解するのに多少の数学力は必要であるが、高校数学程度の内容を理解していれば問題ないかと思う。

 機械学習を学んでみたいという方にはその第一歩として是非とも推薦したい一冊であった。

目に見える形でのおめぐみをいただけたら幸いです……。