イマーシブシアター(体験型演劇)「黄昏のまほろば遊園地」にいってきました! イベント紹介と「体験型の物語」について。

はじめに

 この記事はSCRAPが2023年6月現在、東京ドームシティアトラクションズで行っている「黄昏のまほろば遊園地」という公演の紹介と、「体験する物語」についての筆者の徒然です。既に行った人が読んで面白い感想、というより、興味はあるor知らない方向けの記事になります。ネタバレはないです。
 では、いってみよ!

イマーシブシアターとは

wiki張っときますね……。

言ってしまうと、「客席に座っている必要がない、舞台となっているフィールド上を自由に観客が歩き回れる演劇」です。
海外発祥で、マクベスを下敷きにした「Sleep no more」という有名公演があるのですが、私はそれで知って興味を持っていました。有名なので検索すると紹介ブログとか出てくると思います。ビル5F分のあちこちで同時進行に物語が起き、観客はどこに行って誰を見てもいい、というやつです。
このイマーシブシアターは日本でもぽつぽつ公演があり、今回の監督であるきださおりさんがいくつか手掛けていらっしゃって、その最新作が「まほろば遊園地」になります。

「黄昏のまほろば遊園地」とは

「嫌な記憶を一つ忘れることができる」という、黄昏時だけに出現する遊園地を舞台。実際、この遊園地に関わって行方不明になってしまった人が何人かいるようです。彼らを探しにやってきた人たちに、参加者(私たち)は協力を求められ――というお話です。


1.謎解きではない

まず、主催はリアル脱出ゲームで有名なSCRAPなんですが、これはあくまで演劇であって謎解きではないです。ただ謎の提示とその解決はあるので、どちらかというとライトミステリを見る感覚に近いです。

2.コースは4つ

一応、どこへ行っても何をしてもいいんですが、参加時におおまかに4つのルートを選んでそこに分かれます。行方不明者が数人いるので、それぞれ対応した物語がある、という感じです。公式サイトに詳細が載っていますが、「部活の先輩を探している」「婚約者を探している」「友人を探している」「この遊園地の真実を解き明かす」の4つに分かれます。それぞれのコースにメインキャラが3-4人いるので、彼らについていって、どんどん分岐していく感じです。

3.話が分岐するわけではない。

これ、紛らわしいんですが、分岐するのはあくまで「私たちが得られる情報、見られる場面」です。物語自体は分岐しません。
要するに一人称の物語が、メインキャスト16人分あって、そのどれを見るか、という感じです。もちろんキャストが2-3人固まって行動している時もありますので、そこの情報は共通して得られますが、1人ずつにばらけると、自分がいなかった場面で他の登場人物に何があったかは分からない、という感じです。実際、再合流した時「どうしてそうなった!?」と頭を抱える場面が何度かありました。

4.登場人物と会話できる

登場人物は助けを求めている人間が多いので、「教えてほしい」「どうすればいいと思う?」などのアドバイスから、他愛もない雑談まで私たちに振ってきてくれます。私たちの返答が彼らの道筋を大きく分岐させる、ということは上述のようにないのですが、私たちが闇雲に放つヒントらしきものから登場人物は取捨選択していくので、「物語に関わっている」という感じは強いです。ゲームでいうなら私たちはアドバイスをくれる親友役のような感じ……。
定員は多いんですが、1人1人のキャストまでばらけると、1対数人、くらいになるので割と会話できますし、向こうも話を振って来てくれます。
この公演の魅力は、とにかくこのキャストさんたちです。
(話すのが苦手で見てるだけ、も充分可能です)

5.最後に全コースが収束する。

最後は遊園地そのものの謎が明かされてこちらに提示されます。ただ他のコースの詳細までは分からないので、自分のコース以外は「解き方をすっとばして答えだけ教えてもらえる」という感じです。実際私は最後のキャスト紹介で他のコースの真実を知って「え!?」とめちゃくちゃ驚きましたし、真相開示の醍醐味が強いのが「真相を解き明かす」コースなんじゃないでしょうか。(私は別のコースを選びました)
ただこの分からない、は「知らなくても物語に支障はない」という部分なので、リピーターにも一回のみの方にもちょうどいいと思います。絶妙のバランス。

行った感想

面白かった! おそらくこの規模でやるとしたら最上の公演なんじゃないかと思います。キャストさんたちがとても魅力的で、いわゆる「応援したくなるキャラ」的な創作になっています。他のコースも「いい話なんだろうな」と推察できる空気でしたし、都合があえばリピートしただろうと思います。

これから行く人向け

1.公演時間は120分だけどそれより早く行く

です。時間をチェックしてたんですが、私は19時公演で、会場を出たのが21時13分でした。遠征の人向け。
ただこの公演、「開始前に来て受付してアトラクションを指定の中から一つ選んで乗って、10分前にステージに来てね」なので、実際は開演の1時間前くらいに行くといいかもです。受付が結構行列なのでね……。ステージには早く行くとキャストさんがいて話をしてくれます。シルク・ド・ソレイユのクラウンアクトみたいな感じです。

2.リピートできない人はVIPでなくてもいい……

これ、既にVIPチケット完売してるんで、あんまり意味がない話なんですが。
私は一度きりということでVIPで参加しましたが、VIPのメリットって「シアター時に前の席に座れる」「グッズがもらえる」「専用のプチ寄り道ができる」、くらいなんです。初回だとこの専用のプチ寄り道に行っている余裕がないので、別にVIPでなくてもいい……。開演前のキャストさんは優先的にVIPを構ってくれますが、公演中はまんべんなく話してくれるので、別にVIPじゃなくてもよさそう。リピーター向けだと思います。

3.実際の自由時間は1時間

公演時間は2時間なんですが、1時間経過したところで「絶対このコースの人はここに集合してね」というのがあります。そこから先は決め打ち行動になるので、好き勝手にうろうろできるのは前半1時間です。VIPの寄り道とかはそれを踏まえて動いてください。私は行きそびれました。ちなみにこの集合場所を無視すると、最後にどこに行けばいいのか分からんくなるので、初回参加者はマジで無視できない。知ってる人は無視してもいいと思う。

4.あんまり深刻なことをカードに書いてはならない

これ、「あなたの忘れたい記憶を一つ、ネームカードに書いてください」って最初に言われるんですが、「誰に提示するわけでもないから自由に」という割には、首から提げているので普通に見ようと思えば見れちゃうので、あんまり深刻なことを書いてはならない。多分ずっと落ち着かなくなると思います。

総じて、とてもよい体験でした。面白かった!
正直「もう終わり!?」と2時間があっという間に感じました。ずっと歩いてたのにな……私。もっとたくさん見ていたかった。

と言いつつ、今回の公演で感じた「体験型創作」についてをつらつら書いてみます。

体験する物語、雑感

ここからは「まほろば遊園地」の感想というより、体験型創作についての自語りなどのおまけです。

まず「何故この公演に行ったか」からなんですが、監督のきださおりさんに以前からとても興味がありまして……。きださんの企画っていつも「うわー、こういうのやってみたかった!」って挑戦的なものが多いんですよね。泊まれる演劇とか、カフェで他の人の話に聞き耳を立てるとか、参加型の学園祭とか。「行ってみたい!」「やってみたい!」のツボがとても近い。

私は昔から「体験型の創作を作りたい」と言っており、実際に個人創作サイトメインだった頃は2つこれ系の企画をやったことがあります。

1つは専用SNSを舞台にしたサスペンスホラー「アンリアル」
 これは300人くらいの参加者さんにご参加いただき、1週間ほどリアルタイムにネット上で進行していくサスペンスを体験していただく、という話でした。

もう1つはハロウィン企画で行った「エリノア・ラライと記録師」の物語です。3人の登場人物がそれぞれ一人称でリアルタイムに館を探索していくのを、読者さんたちがアドバイスをしてルート分岐させる、というものです。

これらはタイプの違う企画で、前者は「ストーリーが決まっている話を体験してもらう」で、後者は「アドバイスでルート分岐する」作りになっていました。

前者は参加者の動きを見ながら細かいところをリアルタイムで変化させていましたが、真相はあらかじめ決まっていて、そこに行きついた、という感じです。派手なルート分岐はなかった、はず。多分。でも全員の動きを見ながら調整していくのがめちゃくちゃしんどくて、1週間で3キロ体重が落ちました。睡眠不足と心労で。

一方、ルートを左右できたという点では後者の方が参加度が高い話なんですが、こういう形式はベストエンドに行きつくとは限らず、実際に当時もメインキャラが一人死ぬビターエンドになっています。これは一日限定ということもあって、めちゃくちゃやってて私が面白かったです。取返しがつかないのを皆さんが「うわ……」ってなってるのが楽しかった。

タイプの違う二つの参加型、ただし前者の作りだとストーリー固定で、参加者の自由度が低くなってしまう(決められた結末にしかいかない)……わけなんですが、参加型創作は今のところ、参加人数が増えれば増えるほど前者が最適解で、その分「いかに選択の不自由さを感じさせないか」が肝になっているかと思われます。

1.ストーリー固定型のメリットとデメリット

メリットは単純に「大人数を相手にできる」「主催の想定した通りの物語を提供できる(面白さの最低ライン担保がある)」だと思います。商業的にやっていくなら、こっちが多分正解……。

ただデメリットは前述の「実情の自由度が低くなる」というものの他に、「あまり複雑なストーリーにできない(大人数がついてこられなくなるから)」というものもあります。

実際、謎解きが関わる大規模ARG(拡張現実ゲーム)などでは、リアルタイムに追っていける余力と謎解きのひらめきがある一部の層だけついていけて、緩く参加している人間は何も分からなくなる、という事例に陥りやすいです。これは「謎解きが複雑」「話が複雑」な時に発生しやすく、それを避けるとある程度「ストレートな物語」という選択を取るのがベターになります。

私が以前参加したイマーシブ系のイベントなどは「何が起きているか情報が与えられなさすぎる(リピート前提すぎる)」や「自由度が低い(主催の決めたようにしか物語が動かない感が強い)」や「ちょっと見逃すと話についていけない」「熱心な参加者でないと結局なんだったのか分からない」というものが多く、そこを行くと今回のまほろば遊園地は、このバランス感覚が絶妙だったな、と。
まほろば遊園地で私の選んだコースは割とストレートな話だったんですが、コースを分けることで複雑な話も楽しめますし、キャストさんの人数と力量という技術力で、ストーリーの固定感を意識させず、きちんと全員を拾って話についてこさせる、というマンパワーを感じました。複数コースがあるんで、終わっても分からない細かな部分も多いんですが、おおまかな回答を最後に共通認識させるおかげで、それを不満に感じさせない作りです。

ただし、このメリットが、メリットに感じない層がいるかもしれないから万人に勧められるかというと難しい……。そう、「自由度がめちゃくちゃ高い体験型に慣れている」「複雑な話が好き」な人には物足りないかもしれない、という懸念。

2.ルート分岐する話のメリットとデメリット

これは、マダミス、TRPG、ノベルゲーなどが代表的だと思います。
どれも自由度が高く、結末が複数あり、参加者の選択が大きく物語に寄与するという物語体験としてはストーリー固定型より強烈な体験をくれる可能性が高いです。
これらを遊び慣れている人にはストーリー固定型の大規模公演は物足りない、と思うでしょうし、逆にこういうコアユーザーを満足させられるストーリーは大規模公演ではコントロールできない、参加者の取りこぼしがでると思う……。

複雑な公演は、やっぱり少人数向けなんです。その分無二なものになる可能性はある、んですが、参加者の能動性も必要になります。参加側のハードルが高いし、参加者によって面白くもつまらなくもなる。振れ幅がでかい。

3.そもそも「体験」に重きをおかない人には固定型は向いていないかも

普段、小説や漫画、アニメなど、複雑な話に慣れている方には、ストーリー固定の大規模公演は「話がストレートすぎる」と思う可能性はあるんです。体験型物語はやっぱり体験に比重がある媒体なので、物語単体で見ると、体験を引っこ抜いた話の方が複雑にできるわけです。

だから体験に重きをおかない、ストーリーだけ重視の人には、イマーシブシアターはあんまり向いてないかもしれない……。むしろTRPGやマダミスの少人数型の方が複雑な話を用意してくれてることが多いので、そっちの方が楽しめるかもしれない……。

私のこういう雑文を読んでくれる方って、複雑な話に慣れている方が多いと思うので、これは念のためのお話です。私はめちゃ楽しかったけど、この楽しさはやっぱり体験の楽しさなので……。

参加して得られたもの

この参加型のバランスの難しさ、というのは常々感じていたので、「まほろば遊園地」の公演はとても勉強になりました。王道の話をいかに満足度の高いものに仕上げるか、という課題に一つの正解を出してくれたというか。

役者さんたちがやっぱりとても上手くて、参加者の一つ一つの発言を肯定してくれる、褒めてくれる、喜んでくれる、っていうのが多いんですよね。そういうリアクションが細かな満足度を積み上げて行っている。これ作った人は大変だったろうな、と思います。リピーターありの公演なので、ネタバレこみの会話を振って来られる可能性もあると思いますし……。

あとは王道の話にスパイスとして、ちょっと驚きの真実を混ぜておくと、複雑なストーリーに参加した感があるのでとてもよい……。その具体的な詳細が知りたい人はリピートするでしょうし、そうでなくても答えが分かればいい、という人にも満足感が出ます。キャストさんの何気ない掛け合いの中に驚きの伏線があったりして、気づけば楽しい、というポイントがいくつもありました。

私がやるとしたらどうするかなー、と夢が膨らむ楽しい体験でしたし、他の公演にもぜひ参加したいな、と思わせてくれる公演でした。少なくとも、参加して新幹線で帰ってから、夜中2時までかかってこのnoteをかきあげるくらいに面白かったです。

SCRAPが主催しているということで、イマーシブ系としては参加しやすさ随一だと思うので、気になった方はぜひぜひ。

あ、あと謎解きのこういう没入型だと、イマーシブとは違うんですけど謎組が毎年箱根でやってるイベントがいっつもクオリティ高いのでそれお勧め!
謎組は他の謎解き団体とはちょっと空気が違って没入度が高い企画を出してくるんですよね。イマーシブより謎解きやりたいけど没入感が欲しい、って方にはお勧めです。

そんな感じ! 

ここまでのお付き合い、ありがとうございました!


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