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関西演劇祭2023全上演感想/バイク劇団バイク『そこいらによくあるありふれた話』

バイク劇団バイク『そこいらによくあるありふれた話』ゲネプロ。

静かな、世界の片隅の、ささやかな、丁寧な、私達自身の物語。
熱く優しく私の胸に刺さりました。

稽古風景。楽しそうです。

バイク劇団バイク『そこいらによくあるありふれた話』1&2ステージ目、一挙上演。

なんと初日に一挙に本番を2回やるというバイク劇団バイク。

ある売れない芸人の約10年の苦節の日々。なぜか並行して描かれるあるシンガーの年月が、クライマックスで見事に交錯します。

最初の10分がとてもゆっくりと流れ、
そこから一挙に35分、魔法のようにあっという間に時が進み、
驚きと希望に満ちた出来事が登場人物たちの知らないところで起きて、
とてつもない余韻の中で物語は終わります。

ずっとテンポかわらず同じく丁寧に会話劇が進んでいるはずなのに、
心の中の出来事が大きく嵐のように波打っている。
だから魔法が起きるのでしょうか。
驚きました。

世の中の誰も見てくれていないと思っていた自分の芸。
自分が芸の道を諦めて、芸人をやめたとしても、
それを見た誰かが知らない遠くで頑張って、夢を叶えているかもしれない。
その夢を叶えた誰かの歌が、また別の誰かを勇気づけ、
その誰かがまたどこかの子供に希望を与えているかもしれない。

切なくリアルな芸人の残酷物語を軸にしながらも、
同時にそんな寓話的な、夢のようなロマンが、静かに静かに描かれるこの作品。

それはまさに
関西演劇祭が掲げてきたテーマ「つなぐ」を体現している作品なのでした。

はっきりと、
「これは芸能界だけでなく、客席のあなたの物語でもあるのだ」
と、物語が語りかけてきます。
物語の作り手が、自分が拍手をもらうことよりも、客席の誰かを勇気づけることを選んだ、
優しい強い作品だと私は思いました。

バイク劇団バイク『そこいらによくあるありふれた話』3ステージ目。

演技の深さがより増して、さらに心に染み入る45分。
表向き、挫折が強く描かれるにもかかわらず、
目には見えない希望が明確に描かれ、
明るい気持ちで見終わることができる作品です。
敗北ではなく勝利の物語なのです。

つい私達観客は、
「主人公山下の芸が実は誰かを救ったということが
山下自身に伝わって欲しい、山下が救われて欲しい」
と思ってしまいそうになりますけれど、
実は脚本・演出家のバイク川崎バイクさんが言う通り、
<山下に伝わらないこと>こそが、作品に最終的な力を与えています。
なぜならばこの結末こそが、
私達観客も
「自分にはわからなくてもどこかに私の人生がつながっている」
と信じられるうメッセージになるからです。

登場人物を救うことよりも、観客を救うことを第一に考えた、
真に優しい強い芝居だと私は思いました。

と言いつつ、
実は後輩ハセを通して伝わる可能性がはっきりと描かれてありますから、
45分の物語のその先で、
きっと山下も救われるはずなんですよね。

それを願ったりもしました。

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