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関西演劇祭2023全上演感想/MousePiece-ree『しのぶ魂』

MousePiece-ree『しのぶ魂』ゲネプロ。

面白い! 私は文学を感じましたが、何も考えずに見てもきっと人生を愛しく面白く感じられる芝居。

いつもはこんなにシュッとしてる。
関係ないですが、大阪城公園の3人組石像。

MousePiece-ree『しのぶ魂』初日。

見る人に一切難しいことを考えさせない達人たちの描く人生讃歌。劇団のいつもの公演でおこなわれる定番のネタがあり、それも今回散りばめられていると伺いました。

つまり今作は今作だけの芝居ではなく、
これまでの劇団の歩みが積層して詰まっている芝居でもあり、
そのことが、
「人生が様々な経験の積み重なりでできている」
という今作のメッセージを体現する構造になっているのです。

いま目の前の時間におさまらない、劇団の10年以上にもわたる熟成された時間を、
私達は見ているのでした。
こうして、得も言われぬ心地よい説得力が、見る私達を優しく包んでゆく。
そんな45分。

笑って見ていたはずなのに、終わる頃には涙が流れてしまいました。

ただただ楽しい出来事を見ているのに、
いつしか人生への愛情に感動してしまいまう、
素晴らしい作品でした。

MousePiece-ree『しのぶ魂』2ステージ目。

改めて再び、難しいことを何も考えずに楽しみました。

50代、さまざまな演劇の現場、さまざまな人生のシーン、
周囲の人たちの喜び悲しみ葛藤を見てきたであろう作り手が、
ここまでシンプルな演劇に到達すること。

それは、
航空力学とデザイン理論の粋を集めたスポーツカーが、
流麗でシンプルな、フリーハンドにも思える車体のラインを持つことと
似ているのかもしれません。

速さと軽量化を求めたポルシェ、
楽しさと感動を求めたMousePiece-ree、
そんなことを思いました。

MousePiece-ree『しのぶ魂』3ステージ目。

私は、物語の構造を分析するために、
実はしょっちゅう時計を見ながら、観劇します。
この作品、ノリと思いつきで作られたように見えながら、
必ず泣かされてしまう。
だから必ず構造がしっかりしているはずだと思っていましたが、
やはりしっかり、
(専門用語ですが)プロットポイントⅠとⅡ、
そしてミッドポイントが、
45分の時間の中に15分、30分、22分あたりに
キレイに配置されてありました。

手練の仕事と言っていいでしょう。
しかし彼らは「偶然です」と頭をかきます。

フェスティバル・ディレクター、板尾創路さんは、
「ピエロを思い浮かべた。おどけた笑顔の仮面の下に、
 苦悩も悲しみも真剣も隠しているような」
そんなことをティーチインで言いました。
だからこそ、苦悩を知っているピエロたちの人生の珍道中に、
しっかり笑わされて、知らぬ内に泣かされてしまうのでしょう。

しかし彼らは「ただ遊ぶように作った」と笑わせます。

MousePiece-reeは、
見事にその匠の技の痕跡を消し、
純粋に「面白かった」を意味する観客賞にのみ輝きました。

それは、驚異的な特撮を見事にやりとげた円谷英二のとあるフィルムが、
単なる実写と思われていたことに似ているのかもしれません。
「気づかれないこと、それが私の栄誉だ」
と彼は言いました。

私はそのようなハードボイルドな栄光を、
MousePiece-reeに感じたのでした。


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