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関西演劇祭2023全上演感想/演劇組織KIMYO

演劇組織KIMYO『ゴスン』ゲネプロ。

圧倒的ケレンと華とスピード感。これは驚きです。開いた口が塞がる前に芝居が終わります。ご覧になる方は何も心配せず、身を委ねて楽しんでください!

演劇組織KIMYO『ゴスン』初日。

凄まじい演劇的エンターテイメント性のせいでうっかり見過ごしかけたのですが、これは世界の芸能の中でも最も洗練された表現の一つ「落語」を拡張した表現なのだと気づきました。

噺家一人の肉体に代わり、劇団員たちという一個の大きな集合的肉体で演じること。
衣装もメイクも変えず、複数の登場人物をノータイムでチェンジしてゆくこと。
話のマクラが終わると着物を脱いで本論に突入してゆくこと。
扇子があらゆる道具になってゆくこと。

そうした符号に気づきながら、
そういえば落語の特徴は、「洗練された」という結果ではなく、
表現を突き詰め実験を繰り返しつづけたという、進化過程なのだ、と思い至りました。

その洗練結果を受け継ぐのではなく、実験姿勢を受け継ぐことこそ、
真に受け継ぐことだとも言えます。

そのようなことを思い感動しました。

演劇組織KIMYO『ゴスン』2ステージ目。

改めて、
凄まじい密度の演出、演技、スタッフワーク。

アイディアの入っていない瞬間がどこにもない。
全力で演じていない瞬間がどこにもない。
物語そのもの迫力、
登場人物の覇気と切実さもさることながら。
いま目の前で起こり続ける、
超常的なまでの「今これを生身の人間が上演しているんだ」
という出来事に、
見ている私達の体の細胞も沸き立ちます。

おそらく、噴火や爆発や暴風雨や野獣の攻撃や、
そうしたものに対峙した時の、細胞の沸き立ちに似たことが起きるのです。
アドレナリン。それかもしれません。

実在した伝説の脱獄名人「五寸釘寅吉」こと西川寅吉。
その奇妙で鮮烈すぎる本人に、
もしも私達が実際に出会えたら。
彼が実際行っていたという「五寸釘寅吉劇団」の巡業興行を、
もしも私達が実際に観劇できたとしたら。

この演劇組織KIMYOの、
凄まじすぎるほどの凄まじい密度と圧力と熱量とアドレナリンへの挑戦は、
その「もしも」にきっと迫っているに違いありません。

演劇組織KIMYO『ゴスン』3ステージ目。

激しいパワーや熱量や、
ケレンや華やかさ、演出密度。
それらに飲み込まれ、うっかり書かなかった
最も語るべき重要なことが、もうひとつありました。

それは、
この物語は、
圧倒的な熱量の暴力と策略と復讐の炎に
「謝罪と感謝」が勝利を収めるという、
鮮やかな逆転劇なのだということです。

物語の終盤まで、我々観客は、
寅吉が復讐を果たすか、あるいは果たしきれずに失意に沈むか、
どちらかの結末を予想せざるを得ません。

しかし実際に訪れる結末は、そのどちらでもないのです。

ついにたどり着いた憎き仇の熊沢と寅吉の最終決戦。
その時熊沢は、刃物や拳を構えるのではなく、
軽やかに土下座をし、本心から「ありがとう」と言い、
再会を喜んで酒を振る舞うのでした。
その感謝の笑顔に寅吉の闘争心の炎が吹き消され、
あっという間に寅吉の闘いに終止符が打たれてしまう。

そして寅吉は自分も、
集まった観客たちに芸を振る舞い、
「ありがとう」と感謝の笑顔を送る人になるのでした。

これは、
今私達が直面している、終わりなき闘いに、
ついに終止符をうつ方法をひとつ提示する物語なのです。

圧倒的エンターテイメントであり、
昔に実在した人物の物語でありながら、
今、私達に必要なメッセージを放つ。

素晴らしい作品を見ました。

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