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紙芝居『22.GOD』

作・絵/西田シャトナー


この作品は
ワワフラミンゴ
演劇とコントと紙芝居と音楽の会『失くしもの』
(2023年5月15日公演)
で上演した紙芝居を、再現したものです。
どうぞお楽しみください。

各文章は普通の言葉で書いてありますが、
実際にはこれを関西弁で喋りました。


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今日は、僕が小学校5年生の時、初めて死んだ時の話をしたいと思います。
『失くしもの』の公演にあわせて、命をなくした時の話を選びました。
折り紙の話なので、僕の折った折り紙も横に置きながら、紙芝居をさせていただきますね。
(作品「エイリアン」を傍らに置く)

タイトルは、「22てんゴッド」と読みます。

これは、もともと「22.5度」という、角度を示す言葉です。
紙の端っこの角度「90度」を半分にすると「45度」、
さらにそれを半分に折ると「22.5度」。
いろんな作品を折ることのできる魔法の角度なんです。

さあ、僕が小学5年の時。

1976年の夏に、
『第128億回・全銀河系折り紙選手権大会』
が、この太陽系で行われたことを皆さんご存知のことと思います。

いつもは遠い星で行われているこの大会が、
この太陽系の金星で行われるというので、
地球からも僕が出場することになりました。

その頃、「天才折り紙少年」としてちょっと知られていたんですよ。


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全宇宙から強豪選手たちが、いろんなロケットに乗って、金星までやってきました。
金星が近いとはいっても、地球の科学はまだまだ遅れていたので、
僕は銀河系おりがみ会館が貸してくれたロボット型宇宙船に乗って、
金星に行きました。
この下の方にいるのが僕の宇宙船です。

金星は、地表温度460度、92気圧、大気はほぼ二酸化炭素。
すごい環境ですけれど、ちゃんと皆が集まって折れるように、
銀河系おりがみ会館が環境を調節してくれてました。


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全宇宙からきた強豪フォルダーたちが、
それぞれの紙をもって受付に並びます。
ちゃんと仕掛けのない紙一枚を持ってるか検査をしてもらうためです。
みんなそれぞれの星で売ってる紙を持ってきてて、
僕はまだ近所にハンズとかもなくて、
家にきたお中元の包み紙を正方形に切ったやつを持っていきました。

ちなみにフォルダーというのは、漢字で「折闘士」と書きます。
みんな凄いオーラを持っています。
オーラというのは漢字で「折力」と書きます。

いろんな宇宙人たちですから、皆超能力とか持ってるんです。
でも折り紙選手権は
もってきた1枚の正方形で折る勝負ですから、
超能力のない地球人の僕でも十分戦えるはずです。

それに僕はなにしろ天才折り紙少年と呼ばれていますから。

意外と優勝するんじゃないかな?
と自信満々だったんですよ。

ところが…ほかの選手たちの作品がみんな凄かったんですホント…  


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これは、ネコ星人・モントロールさんの作品。
ネコ星のトカゲです。

パッと見僕も折れる感じなんです、エイリアンに似てるし…
ちなみに1回このトカゲ、地球に逃げてきたことあって、
それを目撃した画家が、映画の参考にしたらしいです。

これは、作品タイトルが「トカゲ」とかじゃないんです。
『気配』
というのが作品タイトルなんです。
なんでそんなタイトルなのかな? と僕は不思議に思いました。

さあ、
作品を見たあとは、大会のルールで、
作品を開いてちゃんと1枚で折ってあることを証明しないといけません。
もったいないですけどルールですから…。

ネコ星人が開いた紙を見て、僕はびっくりしました。


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開いた紙が、折る前よりも小さいんです!
モントロールさんの額(ネコの額)より小さい紙なんです。

出来上がりの方が大きくなる…!!!

あっ、だから 『気配』 なんだ!
実際の体よりも、この獰猛なトカゲの気配が大きい、
それを表している作品なんだ!

でも、折る紙より大きな作品を折るなんて…
これが銀河系の最先端折り紙なのか!
これはやばい、と思いました。

その次、
手先の器用さでは宇宙一と言われる
ハエ星人のラング教授の作品もヤバかったです。

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これ、 ハエ星の街のジオラマなんですけど…
動いてるんです…
ハイウエイを車が走ってて、
海岸の波打ち際に波が押し寄せてて、
街の建物の窓が光ってて、
いやそこまでなら、
反則ですけれど電池とかモーターを仕込んだのかな? って思うじゃないですか。

でもここ見て下さい、空に、太陽が光ってるんですよ。
ハエ星の3つの太陽。
電線とか繋がってないんです、ただ空中に光が浮かんでる。

すごく不思議で、これ。
作品タイトルはずばり『パワー』。
開いてみると…

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開いた折り線の端っこ、こういうの「展開図」って言うんですけど、
その展開図の端っこに、
「エネルギー発生システム」の折り線
が、組み込まれてるんです。

紙をこの折り線でたたむと、
電力とプラズマが発生するんだそうです、スッゴー!
あっ、ラングさんは本業、物理学者だそうでした。


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素数ダコ星人、ラフォースさんの作品。
タイトルは『気持ち』。

完全に「真っ黒な鉄の球」です。
重い! 硬い!
まさかと思ったんですが、
これも開いてみると…


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開いたら真っ白な紙、1枚になりました。
折り線は1本だけ。
この1本を折る順番がすごく大切で、
7本腕の素数ダコ星人だからこそ折れるんですって。

折るだけで…物質の組成と質量と色が変わるなんて…
あり得ます?

ラフォースさんが教えてくれました。
「あのね、我々はね、
紙を折ってるんじゃないんだよ。
物理法則を折っているんだよ」

すごいのはすごいけど、作品タイトルが『気持ち』っていうのがなんか
気取りすぎだということで、
この人は優勝しませんでした。
素数ダコのラフォースさん、本業は古本屋さんだそうです。


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鉄人間ユートムさんの作品、『油断』。

これね…
普通に、単に正方形の紙が2枚なんですよ?

でも…まさか… 

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そうです、開くと1枚になるんです。
へんな折り線です。

ユートムさんが言うには、 物理法則の油断をついたら折り方なんですって。
だからタイトル『油断』。

ところで、もう、
僕は完全に自信を失ってしまっていました。
自分も地球では一番のつもりだったんです。
けど、 そもそも地球全体が遅れてた。

もう勝ち目はないなあと思いました。


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僕が折ったのは、これです。
折り鶴です。
タイトルなんて考えたこともなかったです。

あのね、いや、見た目よりはホント、
ずっとすごいつもりだったんです。
けど、銀河系のフォルダーの人たちの作品がすごすぎました。
小学生の僕はもう、
泣きたい気持ちになりました。

1976年はモントリオールオリンピックとかもあって、
日本は柔道でいっぱい金メダルとったりしてて。
僕も出かける時には、
皆から見送られて、
「折り紙でも金メダルもらってくるね!」
とか言って、
意気揚々とやってきたんです。
応援してくれた皆の顔が目に浮かびました。

がっかりされるだろうなあ。
でも勝てっこない。

「もう、どうせ負けですから。
開いたりしなくていいです。
もう帰ります」
と言いました。


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そんな僕に、銀河系おりがみ会館の審査員の人たちが
優しくて。

「泣かなくていいよ、開いて見せてみなさい」
って言うんです。
僕は、
「開くとご迷惑がかかるので、ホント開かなくていいです」
と言いました。
そうなんです、これちょっと開くと迷惑かかる作品なんです。

「きっと怒られてしまいます」
「怒らないから開きなさい」

っていうやり取りが丸1日あって…
ちなみに金星の1日は地球の117日なんですごい長いですから、
僕ももう諦めて、
「じゃあ8工程あるうちの、2工程分だけ開きますね」
と言って少し開いてみたんです。
まず1工程。

僕が折り紙を開くと、それにつれて、
まわりの空間も開いていきます。
そういう作品なんです。
審査員の人たちも、顔から段々開いて、
皆こんなふうになりました。

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作品をひらくと、周りが存在ごと開かれて、
こんなふうになるんです。
これは怒られますよね…

「ちょっとちょっと!」
という審査員の声が、折り線のあちこちから聴こえてきます。

続いてもう1回開きました。


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2回開くと、太陽系全体が折り線になりました。

審査員のみなさんが、
折り線のどこかで
「えええええええ!」と叫んでいます。
「わかった、わかった、わかったから!」
「もう開かなくて良い、畳みなさい!」

ああ、やっぱり怒られる。
僕は涙が出てきました。

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ところが、結果。
僕の優勝でしたー!

「君が一番すごかった」
と、審査員のみなさんが言いました。

「君はまさに22.5度の神だ」
「この作品のタイトルは『22.ゴッド』で良いんじゃないか」
と、題名までつけてもらいました。

ホントに嬉しかったです。

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あっそうだ、「僕の死んだ時の話」って言いましたね。
僕ね、優勝して、それでまたロボット型の宇宙船で家に帰る途中で、
隕石がロボットにぶつかって、爆発して死んだんです。

けど、 審査員の皆さんから、優勝のご褒美で命を4つもらっていたので、
大丈夫でした。

実は、大人になってからも、
同窓会に行こうとして 無人の惑星で遭難した時に、1回死んだんで、
僕、あと命3つあるんですよ。

またその同窓会の冒険の話もいつかしますね!

(おわり)




(撮影/佐藤拓央)
(撮影/佐藤拓央)
(撮影/佐藤拓央)
(撮影/佐藤拓央)
(撮影/佐藤拓央)


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