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ペダステD2感想(エース戦について)/3月11日(2024


<舞台『弱虫ペダル』THE DAY 2 をご覧になった方むけの日記です。>

D2千秋楽(2024年3月10日)。

凄まじいクライマックス、劇場が焦げる程でしたね。
この熱さについて、ごく簡単な私なりの分析をさせていただきます。
私なりの分析ですから、事実と違うかもしれないことをご了承ください。
目的あって、役名ではなく俳優の名前で表記する文章になります。

(敬称略)
この日冒頭から、箱根学園エースを演じる髙﨑俊吾の気合と肉体と声の充実ぶりがずば抜けていました。おそらく、この日までの京都伏見高校エースを演じる新井將のすさまじさを見て、あれに絶対に勝たねばならぬという気迫が、本能・理性の両方で満ちていたのでしょう。
ライバルである総北高校エースを演じる川﨑優作が相棒にいてなお、真実勝てるかどうかわからない凄さなのです。

新井將は、練りに練った演技プランと不退転の気迫に加え、本番中にいかなる勝機も逃さずインスピレーションを次々に実現させる芝居を続ける俳優です。今作において、その演技姿勢は役柄の異常性と見事に呼応し機能しあった上、手加減なく稽古を積みに積み、ある種の限界点に到達しているようでした。
千秋楽、物語上は髙﨑俊吾がレースに勝つことは決まっていますが、「真実勝つ」かどうかはわからない。
おそろしい千秋楽になりました。

一方、髙﨑俊吾の声は公演に向けて稽古期間以前からはるかに長く磨き抜かれており、千秋楽のこの日、素晴らしいレベルで、その声に気迫が搭載されていました。
それが、劇冒頭の発声の瞬間から明確になりました。
明確にせざるを得ないのです。隠すわけにいかないのです。
それを冒頭から目撃した新井將の演技は、ますます力を高め、あらゆるシーンを布石にして充実してゆきます。
すべての計画と鍛錬とインスピレーションが、誠実さゆえの気力によってフル回転し、「限界を越えた次の瞬間には、またさらなる限界を超える」という、途方もないような演技を繰り出してゆきます。

その新井將に対し、敢然と、川﨑優作と髙﨑俊吾がエース戦に出撃してゆく姿が、とても良い。
物語上の闘いと俳優の闘い――芝居と真実の溶け合う光景でしたね。
それは演技プランや準備ではなしえない光景です。
配曲演出も作曲も良かった。
それぞれが同じ仕事をしていない。しかし一つのシーンを作っているのです。
演技では表現できない階層のことを音楽が奏でる。
音楽では語れない階層のことを演技が言う。
よい演出です。

こうして、この眼の前のすさまじい新井將に、「物語の筋だから」ではなく、真実勝つことができるのかという、脚本を書いた私にもわからないレースがクライマックスを迎えました。

ここで改めて凄まじかったのが、川﨑優作でした。
幼少期からの筆舌に尽くしがたい悲しさを持つ男を演じる新井將。
1年にわたるアイデンティティの崩壊を取り戻さねばならない男を演じる髙﨑俊吾。
物語にバックアップされた二人に対し、ただひたすら己の熱量と仲間の想いを胸にたたかわねばならない川﨑優作でした。
まるで徒手空拳の彼が、どこまで鍛錬を積んでこのシーンに挑んだのでしょうか、まったく遅れを取らない雄大な気迫で2人に拮抗してきたのでした。

この雄大な川﨑優作とともに、長い時間で積み上げた努力と才能を動員して走る髙﨑俊吾、死力を尽くす2人が、ついに2人がかりで新井將が倒れるシーンまで、拮抗して走り抜きます。
物語がそうだからだけではなく現実に最後まで拮抗して走ること。それは、この全力の新井將に対しての勝利を意味するのだと、私は理解しました。

ここまできた川﨑優作は、物語を真実のものにするためにも、決して手を緩めはしません。
全てを出し切ったあとも全力を続ける勝負が始まります。
この勝負に髙﨑俊吾は勝たねばなりません。
芝居を演じたことのある者にはわかる酸欠と筋肉の痛み。
その中を粘り抜き粘り抜き、絶対に手を緩めない川﨑優作を相手に、粘るだけでなくついに加速までして、ついに髙﨑俊吾はゴールにたどり着いたのでした。
その瞬間を我々は見ました。

物語だけでは勝てない、
気迫や技術や鍛錬やインスピレーションだけでも勝てない、
その闘いに、はっきりと、髙﨑俊吾が勝利する様を、我々は目撃したのでした。

この出来事は、登場人物である福富寿一、金城真護、御堂筋翔、3人の闘いそっくりそのままの闘いなのでした。
役名でなく、この感想を俳優の名前で書いたのは、それを確認したかったからなのでした。

芝居には、演劇には、素晴らしい「その先」があります。
全力を尽くして髙﨑俊吾を倒すべく闘い敗れたふたりには、
輝く褒美と祝福があります。
勝利を本気で目指した時間の全てが、
髙﨑俊吾の真実の勝利の結晶の一部なのです。
それはこの上ない栄誉だということです。

そんなクライマックス。
勝利の瞬間の髙﨑俊吾さんの歓喜と感謝が、福富寿一の歓喜と感謝と一体化して見えます。
それは、この真実の勝利のために全力を尽くして戦ってくれた川﨑優作さんと新井將さんへの感謝と、 そこまで運んでくれた皆への感謝と、 すべてに応えきった自分と自分の日々への歓喜なのでしょう。

いやー幸福な芝居を見ました。 芝居は上手な嘘をつくる場ではなく、 真実を体験する場所なのだと、 私はまた思いました。

言い忘れた。
髙﨑さんの身になって考えると、 川﨑さん新井さんが全力で襲いかかったことは、それは共演者髙﨑俊吾を信じてくれた事を意味します。全力の2人を乗り越えて勝利を手にする役者だと信じてくれたという事です。
実際にそれを成し遂げた時、どれほど嬉しく誇らしいことでしょう。
… などと。
私は想像しました。

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