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サバイバルツール

日本の家族が、朝日新聞の土・日曜版を時々ほかのものと一緒に送ってくれる。紙媒体の日本語はちょっとうれしい。

今日は仕事で文字どおり走り回っていて、やり切った感はあるけれど疲れたなあと思いながら帰ってきた。疲れていると、その時やらなくてもいいことをしてしまいがちだ。夕飯の後、シャワーを浴びるタイミングなのにまだリビングに座って、手近にあった新聞を読んでいた。

目に止まったのは、「悩みのるつぼ」。
私は人生相談は苦手だ。わかっているのに、疲れていると興味がないものをあえて読んでしまう。
相談は、「15年前、学生時代に中絶したことをずっと後悔している」という内容。
回答者は美輪明宏。アドバイスは「「正負の法則」をご存知でしょうか?」ではじまる。曰く、人は幸せ(正)ばかりを求めがちだけれど、正と負は同じくらい訪れる。今まで長年苦しんだ(負)相談者には、これからそれを補うほどのプラスの出来事(正)が起きるはず。もし子供を授かる機会があれば、あの時世の中に出てこられなかった赤ちゃんと同じ子が出てくるはず。

……そんなわけある?

「正負の法則」なんて聞いたことない。仮に幸せと不幸が同じくらいやってくるとしても、だからと言って不幸を受け入れられる?そもそも、それは本当に不幸なの?

なんだか、占い師が言いそうなことかなぁ、とも思った。占い師に相談したことがないので、イメージで言うけれど。
実際、相談する人はそういった回答を求めているのかもしれない。そういえば、相談文の最後に「過去の過ちを受け入れながら前に進むアドバイスをいただけると幸いです」と書かれている。美輪明宏の回答は、求められているとおりのアドバイスなのかもしれない。優しく背中を押してくれるような言葉だ。
そうやって毎日をどうにか明るく過ごしていれば、たしかにそのうち良いことがあるかもしれない。前向きであることはサバイバルツールだ。

でも、私はそんなフワッとした話では全然納得できない。
なにか苦悩の種があるなら、いつ・どうして・どのようにそれが起こったのか、なぜ自分は苦しんでいるのか、これからどうしたいのか、ひたすら考える。
答えがあるのかないのか、どこまで辿り着けるかはわからない。それでも考え続ける。

さて、記事を読んでそんなことを思ったところで、私はシャワーを浴びるために席を立った。いつの間にか気分が切り替わって、今やるべきことをできる状態になっていた。美輪明宏の回答について心の中で反論したおかげで、前向きになれたみたいだ。


タイトル画像は、エニシダの花。パッと鮮やかな黄色。花から花へ、蜂が忙しそうに飛び回っていた。

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