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思いがけない共感

自転車に乗って寺町通を南下し、市役所の脇で右折して御池通に入る。京都の道は碁盤の目だからルートはいくらでもあるけれど、御池通は道幅が広く街路樹の緑もきれいなので、いつも通る。
行き先は烏丸御池のハローワークで、失業給付の認定手続きのため。これで4、5回は通っている。3月までスペインで働いていたが、勤務先は日本の会社だったので、日本の失業保険に入っていた。

ハローワークの担当者が、私の番号を呼んだ。
ブースに座って求職活動について話す中で、私は「中学生と小学生の子供がいます」と言った。すると、小さな机の向こうの担当者は、「そうですか。大変でしたね、遊びたい盛りに」と言った。50才くらいの女性だった。
この日この場所で、そんな言葉をかけられるとは思っていなかった。私はうれしかった。そうなんです、と思った。同じように大学を出た友人たちが自分のことに夢中になっていたころ、私は家庭と仕事の両立のために必死だった。その上、目標を見失わないように、常に自分を追い込んでいた。
いろいろな立場や境遇がかつてよりオープンに語られるようになったけれど、予定外の妊娠に関する悩み苦しみは未だに公認されていないと思う。それは自分の責任だから。私自身、誰かに積極的に語ることはない。でも、実際のところ、本当にいろいろなことがあった。
そんなことを、一瞬のうちに思った。

ハローワークの職員の任務は一人でも多くの求職者を早く再就職させることであって、身の上話を聞くことではない。それに、きっとこの人は、今までにさまざまな相談者に対応してきた中で共感のツボを習得されているのだろう。それでもうれしかった。

そして、私はどう答えたかというと、「でも、海外に行ったり、自分のやりたいこともできています」と言った。「家族の都合で京都に来て、これからはやりたいことと今の状況の折り合いをつけていかないと、と思っています」と付け加えた。
つい、強がってしまったなあと思う。「そうですね、大変でした」と一言、言えたらよかった。仕事とはいえ、共感を提供してくれたことにお礼を言いたい。もし今度、同じような機会があったら、素直に受け止められる自分でありたいと思う。

タイトル画像は、御池通に今咲いている紫陽花。道行く人が足を止め、写真を撮っていく。私もその一人。

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