eスポーツ選手会に関する労働組合・法人の設立・運営を応援します~ストリートファイターリーグの事例を踏まえて~

1 選手会の立ち上げ

選手等の地位向上を進める上で、一つの明るい話題がタイムラインを盛り上げました。「ストリートファイター」のリーグにおいて、有志の選手らが集まって選手会を立ち上げ、リーグの運営者やJeSUなどとリーグの日程や進行内容に関する話し合いの場を設けている、とのことです。知名度のあるトップレベルの選手が複数関わっており、大きな注目を浴びています。

2 選手会設立に至るまでのこれまでの経緯・声

私も不勉強ではありましたが、選手会立ち上げの機運というのは、特に歴史あるストリートファイターのリーグで、以前からあったようです。

梅原大吾選手

梅原さん eスポーツ界のレジェンドといえる存在の方ですが、梅原さんが選手会の会長になる、という提案自体は過去にあったとのこと。

また、有識者からも、これまで、いくつかの問題提起がなされておりました。(※他にも事例ありましたら追記するので、仰ってください)

編集長春日現八さん

春日現八さん 「私達が日本のeスポーツをリードします」っていうことを標榜している団体がもしあるのなら」と、選手の利益を代表・実現する団体の必要性を説かれています。

弁護士松本祐輝先生

同業者の方ですが、私よりも前からeスポーツに携わっている松本弁護士からも、eスポーツ選手会の必要性が指摘されています。

くるしまさん

面識はありませんが、情報収集してましたら、くるしまさんという方の投稿も拝見しましたのでご紹介。今は復帰されましたが、たぬかなさんの当時の炎上騒動に関連して選手会に言及されています。

3 労働(選手)組合設立の要件や意義・効果等

プロ野球の選手会とも比較されることが多いですが、選手会は、最終的にはしっかりとした規約を設け、団体としての実質を踏まえた上で、労働組合として資格認定・法人登記を具備すること等が、特に大事です。

労働組合設立の要件・手続等

例として、厚生労働省や東京都労働委員会のURLを引用します。使用者側・チーム側の代表者が入ってはいけないことはもちろんですが、一般的に言われるような、会社や団体として求められる要件が必要です。
わかりやすく言うと、団体としての意見を決めるルール(主に多数決)や、組合員・選手が一人抜けてもちゃんと団体が継続すること、選手と選手会との間のお金をちゃんと分けていること、等が上げられます。
(今回立ち上げられた選手会は、まだまだそこまでは至ってない、ということですね。)

また、栃木県がコンパクトにまとめた労働組合結成の手引きを公開していたので、備忘を兼ねて紹介します。
https://www.pref.tochigi.lg.jp/f06/advice/shigoto/roudou/documents/roudoukumiai_1.pdf


労働組合まで発展させる上で、以下の意義・効果が考えられます。

意義・効果① 団体交渉に応じる義務

上記の選手会のインタビューにも言及されていましたが、選手が何人かで集まって意見を表明しても、リーグやチーム側がこれを聞き入れるとは限りません。
「契約で決めたことだから」、「契約書にそんなことに応じる義務は書かれていない」などとして、一蹴されるという噂さえも聞きます。

これが、労働組合を通して交渉を求める事で、使用者側(※あえてリーグ・チームとせずに「使用者」と書きます)は、団体交渉に応じなければならない義務が法律上発生するのです。使用者が応じなければ、不当労働行為として、労働委員会を通して救済申立てをすることができますし、通常の訴訟手続に移行することも可能です。
つまり、選手の言う話を聞いて欲しいという要望は、しっかりとした法律上の根拠に基づく正当な要望に格上げされる訳ですし、使用者もそれに応じなければなりません。
労働者と使用者との立場を対等にする観点から認められた、非常に強い権利といえるでしょう。
私自身、弁護士として、こうした団体交渉の案件には携わったことがありますが、労働組合の与えるプレッシャーは、決して軽視することはできない、非常に強固なものだと感じます。

意義・効果② 団体行動の一環として事案を公表することができる

eスポーツ界隈は、SNSが主戦場の業界である分、本当に、晒し、炎上等のリスクを伴います。選手らの中には、名誉毀損や業界での評判を恐れて、誰にも言わずに、公表せず我慢をするというケースがありますが、労働組合は、一般に、どこと団体交渉をしているか等の情報は公表することが多いです。

たとえば、東京ユニオンさんのホームページを見ると、具体的な会社名を摘示した上で、団体交渉の経緯等を公表しています。使用者からすれば、非常に大きな不利益・プレッシャーになることは間違いないですが、こうした活動は、(程度問題こそあれど、)労働組合の活動として正当なものであれば許される(違法性が阻却される)という理屈が成り立ち得るのです。
eスポーツ界隈でも、選手が結成した労働組合を通して、本当に問題のある事例を厳選して公表することは、法律上も許容された行為として是認されることがあるわけです。一人で自暴自棄になって公表して、自身の選手生命を絶つよりは、間違いなく賢明な行動だと思われます。


意義・効果③  選手会によって雇用を創出することができる

eスポーツ選手は20代、30代の若い方が多く、選手生命は他のスポーツ選手同様に短いです。引退した後はチームのコーチや運営に回ったり、ストリーマーさんに転身したりすることがありますが、選手会という新たな雇用の場が作られることで、選手の立場に寄り添ったサポート活動を期待することが出来るでしょう。

(これは私の意見を大いに含みますが、それなりの歴史を重ねつつあるeスポーツ業界ですが、ここ数年、同じ問題がずっと取り沙汰されていながら、一向に解決することはありませんでした。その原因として、その問題を経験した選手が業界から引退したり(※引退してしまえばもう自分は関係ないからと言うことで、「噂」程度の話はしても、積極的に業界を変えるよう動くことはない)、使用者側として活動する以上は選手側に寄り添った発言を控えたりするようになったりしたことが挙げられると思います。選手会は、これを変え得る可能性が期待できます)

また、選手会、そしてそれに興味があって、支えようとする方々は、スペックの高く良いPCやデバイスを求める傾向があるでしょうから、メーカーさんたちは、チームに対してスポンサーをするよりも、直接に、選手会にスポンサーをすることで、より一層、商品の魅力を伝えることができるのでは、と思います。
(語弊を恐れず言えば、選手を応援している一般のライト層ファンの方は、観戦勢の方もいらっしゃり、必ずしもゲームがうまいわけではありません。スペックの高いPCやデバイスを求めるとは限らないでしょうから、メーカーさん関係のスポンサーさんは、選手会に対して直接にスポンサーをすることで、より一層、マーケティング効果を期待することが出来るのではないでしょうか。)

余談・・・業務委託でも労働組合を設立できるか?労働者性

ところで、いまeスポーツ業界では、「業務委託契約」というタイトルで契約書を交わしている選手が多いです。「自分は労働者ではないんじゃないか」と疑問に思う選手もいらっしゃるでしょうが、労働組合を設立すること自体は、問題ありません。
最近だと、アマゾンの荷物の配達員さんや、セブンイレブンのコンビニオーナーさんが労働組合を通して団体交渉を求めている事例が見られます(会社側は当然に労働者性を否定しますし、裁判所がどのように判断するかは非常に難しい問題です。
ここで言いたいのは、形式的な労働者ではなくても実質的に労働者であれば労働組合を設立して交渉をすること権利は保障されている、ということです)少なくとも、eスポーツ選手が労働組合を設立して会社と団体交渉を求めて裁判沙汰・不当労働行為の救済申立てをすれば、マスコミからも大きく取り上げられるほどの大きな話題になると思います。その分、労働組合設立は、チーム側も決して無視することは出来ない動きになることでしょう。

4 選手会のカバー範囲・限界等

もちろん、選手会が、あらゆる点において万能と言えるわけではありません。
たとえば、前述の通り、選手と対立する者として、あえて、「チーム」「リーグ」と「使用者」とを、分けて書きました。これは、いわゆる労働組合が機能するのは、労働契約の実質を有する選手契約を交わした選手とチーム・運営会社との間の場面であることを意味します。
順番を追ってわかりやすく考えれば、
選手→チーム→リーグ
となるわけで、
選手とリーグとの間を直接に労働組合がカバー出来るとは限りません。そういう意味で、最初に述べたストリートファイターリーグの選手会は、主に選手とリーグとの間の協議がメインなので、必ずしも労働組合が想定するような場面ではないように思います。
他方、見方を変えれば、リーグとチームとの間のやりとりが十分に選手の意見を反映したものとは限らない(ように感じられている)からこそ、こうして選手側が積極的に集まって選手会を立ち上げたと言うことでしょうから、その経緯を踏まえて、リーグ側は選手と協議の場をしっかりと続けてもらいたいと思います。

5 選手会の今後について

最後に、選手会を労働組合として発展させることは、私が、eスポーツ業界に僅かながら関わっていることの最終的な目標の一つになります。

現状の、ストリートファイターリーグだけに限った選手会の運営は、必ずしも労働組合までを求めるとは限らないようですが、他のゲームタイトルでも、同じような動きがあれば、是非とも協力・応援したいと思ってます。

もちろん、費用はどうしてもかかっていきますし、私も無報酬ではとても動けないような労力にはなりますが、知名度のある最高峰の選手が声かけをしてくだされば、クラウドファンディング、カンパなどを通して資金面はクリアできるんじゃないかな、スポンサーも得られるんじゃないかなと思います。
この記事を見るなどして、共感いただいた方いらっしゃいましたら、是非ともお声かけください。




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