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【初めて広報・マーケティングを検討する事業者様、担当者様へ】注意しておくべき公告表示規制について

1 はじめに 昨年・令和4年の運用状況

消費者庁が、令和4年度の不当景品類及び不当表示防止法(以下「景品表示法」)の運用状況等を公表しました。

昨年は、前年に比べて調査件数が減少(374件→274件)したにも関わらず、措置命令件数は同じ41件とのことです。このことから、調査を行った件数に対して、実際に措置命令を行った件数の割合が高まっていることが分かります。他方、措置命令等に至らない「指導」の件数は減少しています(172件→112件)。指導を介することなく直ちに措置命令に至った可能性があることを踏まえると、事業者様は、不測の損害を被ることにもなりかねません。

このように、景品表示法上のリスクには、十分に注意しなければなりません。

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2 近年の重要な法改正等

(1)法律の改正

改正法は、令和5年5月10日に成立し、17日に公布されました。
改正点はいくつか有りますが、実務上、気をつけなければならないことの一つは、直罰規定(48条)が設けられた点です。
これまでは、優良誤認・有利誤認等の不当表示に対しては、是正を求める措置命令が出され、それに違反した事実をもって、罰則規定が適用されていました。違反があったから直ぐに罰則、ということではありませんでした。それが、本改正により、不当表示の事実をもって直ちに罰則が適用される可能性が生じましたので、事業者の方々は、これまで以上に景品表示法上の注意をしなければなりません。

https://www.caa.go.jp/law/bills/assets/representation_cms212_230417_01.pdf

(2)新たな指定告示に係る不当表示・ステマ規制

また、景品表示法は、後述のいわゆる優良・有利誤認表示の他に、第5条3号で、「商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの」を表示規制に含めます。
有名どころでいえば、原産地国やおとり広告の表示規制がこれに含まれますが、消費者庁は、新たに、ステルスマーケティングの表示を指定告示に加えました(一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示、です。「広告は広告として表示すべき」と考える米国発祥の規制です。)
最近は、インフルエンサーさんが、事業主から報酬を得た上で商品のPRをする事例が散見します。「このインフルエンサーさんが使っている、あるいは、薦めているなら、きっと良い商品・サービスだから自分も買おう」と思う消費者は多くいらっしゃるでしょう。強い訴求力を有する広告手段にはなりますが、金銭を受け取った時点でそのインフルエンサーさんの意見は中立・公平な意見とはみなすことはできません。広告は広告として明確に表示すべきであるという観点から「プロモーション動画・投稿です」とか「宣伝の依頼を受けています」などの明示がなされていない広告は、不当表示として規制されることになるのです。
これは本年10月1日以降に施行される予定ですが、それ以前の投稿も、その投稿が削除されない限りは規制の対象となり得ますので、事業主の方々は、過去の広告も含めて、規制違反がないかを確認する必要が生じています。

3 優良誤認表示・有利誤認表示 

(1)条文上の整理


自己の供給する商品・役務の規格、品質その他の内容について、実際のものよりも著しく優良であると一般消費者に誤認されるような表示をしたり、あるいは、事実に相違して競業事業者のそれよりも著しく優良であると一般消費者に誤認されるような表示をしたりした場合は優良誤認表示にあたります。(5条1号)
同様に、自己の供給する商品・役務の価格その他の取引条件について、実際のものよりも著しく有利であると一般消費者に誤認される表示をしたり、あるいは、競争事業者のそれよりも著しく有利であると一般消費者に誤認される表示をしたりした場合は、有利誤認表示にあたります。(5条2号)
 いずれも、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるものは、不当表示規制の対象です。

これらは今回の法改正前からしきりに適用され、措置命令や課徴金納付命令の根拠となった条項です。かねてより問題になっている点をいくつかピックアップしたいと思います。

(2)優良・有利の判断基準は一般消費者であること


広告、マーケティングで悩ましいのは、多少なりとも過激な表現、誇張をした言い回しをしなければ、一般消費者の注目を集めることはできず、それが景表法違反のリスクを内在している点です。
業界の慣行や事業者の方々の認識では「そんな風に読み取ることは出来ないだろう」と思えても、消費者庁は、その表示内容全体から、一般レベルの常識のみを有している消費者が受け取る印象・認識を基礎として著しく優良・有利かどうかを判断します。これは、一般消費者の自主的かつ合理的な選択を確保してその利益を保護することが目的とされる景品表示法では当然と言えば当然の解釈方法です。その結果、業界では当たり前のことでも一般消費者に誤認される表示と見なされる事例はあり得ることは要注意です。また、そこに事業者の故意や過失は問われませんので、そんなつもりはなかったと弁明をしても、景表法違反を免れることはできません。

(3)打ち消し表示


広告表示では「○○第1位」「最大○%のシェア」「○週間以内で効果が見られる」などの断定的な、目立つような強調表示がなされることが多いです。もちろんそれだけでは当然に優良・有利誤認表示となってしまうことが多いので、事業者の方々は「個人差があります」「一部例外があります」等の打ち消し表示を用意することがありますが、打消し表示は、その表示方法によっては打ち消しの意味をなさないことも少なくありません。
消費者庁は打ち消し表示に関する実態調査報告書を作成・公表していますので、こちらをしっかりと読み込んで、法的に安全かつ魅力的な広告表示を検討していきましょう。

https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/pdf/fair_labeling_180607_0004.pdf


(4)二重価格表示


二重価格表示は有利誤認表示に該当する表示の一つです。自己の供給する商品・役務の価格を、事実と異なるにもかかわらず、他と比べることで、お得であること、すなわち著しく有利であることを一般消費者に誤認させる表示は規制の対象となってしまいます。

比較対象の価格とは競争事業者の価格やメーカーの希望小売価格などがありますが、良く問題に上げられるのは、過去の販売価格と比較して値引きセールをしていると称した広告表示です。
極論を言えば、その通常価格で販売したことはない(あるいはほとんどない)にもかかわらず、セール価格を表示して、あたかも、今買うことがお得であると消費者に誤認させ、その購入を決断するような広告は規制対象となります。
具体的に、二重価格表示が適法とされるには、あらかじめセール期間を明示する等の特段の事情がない限り、最近相当期間にわたって販売された価格を比較対象としなければなりません。
その相当期間とは、わかりやすく言うと、①直近8週間以内で過半を占める期間にわたり販売がされたこと、②(二重価格表示が)比較対象の販売期間が通算2週間以上あること、③比較対象価格で販売された最後の日から2週間以上経過しないこと、の3つが要件です。詳しくは価格表示ガイドラインや、専門書に付されたイラストを見る方がお勧めです。

価格表示ガイドライン第4の2(1)ア(ウ)

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