Vtuber宝鐘マリンさんの名誉感情侵害に関する発信者情報開示請求認容判決

いわゆる、Vtuberの「中の人」に対する名誉感情が侵害されたとして提起された訴えが、中の人を特定せずVtuberの名称を用いた場合でも認められるとされた判決です。
※ 大阪地方裁判所第16民事部令和3年(ワ)第10340号発信者情報開示請求事件、令和4年8月31日判決言渡し

宝鐘マリンさんは、ホロライブに所属し、YouTube等で配信活動をされている、自身の本名や容姿を明らかにしないバーチャルアイドルです。架空のキャラクターとはいえ、それを演じる実際の方の声はもちろん、生い立ちや考えに大きく依拠するものであり、「原告自身の個性を活かし、原告の体験や経験を反映したものになって」いることは、裁判所も認定しています。
問題となったのは、5ちゃんねるの投稿の中でマリンさんを批判する別の方の書き込みに対してなされた、「仕方ねぇよバカ女なんだから 母親がいないせいで精神が未熟なんだろ」という返答・メッセージです。
(書き起こすのも憚られるような表現ですが、お許し願います)

https://p2y.jp/osaka-district-court-orders-disclosure-of-information-on-vtuber-slander-to-avatar-is-slander-to-performer-and-voice-model/

発信者情報開示請求は、実際に書き込みをした人を相手に直接に損害賠償請求をするものではなく、書き込んだ人を特定するために必要な個人情報をサイト管理者に開示するよう求めるものです。
原告として訴えをしなければならないのは架空の人物宝鐘マリンさんではなく、実際の、その中の人です。
そのため、サイト管理者・被告は、このメッセージが「宝鐘マリン」に対するものであっても、中の人・原告本人に対してなされたものではない、との反論をしました(その他、Vtuberとして収益を得ている以上批判は甘受すべきとの反論もされましたがその主張は排斥されており、本件でも割愛します)。

裁判所は、マリンさんがどのようなキャラクターで、どのような活動をしているかを丁寧に認定し、原告・中の人がまさにマリンさんの名称で表現行為をしている実態を明らかにし、マリンさんに対する投稿は、その名称で活動をする者(すなわち中の人)に向けられたものであることを認定しています。そして、その投稿は社会通念上許される限度を超える侮辱であり(中の人が挑発的な言動をしたことで本件投稿がされた等の特段の事情もない)、5ちゃんねるで流通されたことにより、原告の権利・名誉感情が侵害されたことを認定し、本件請求を認めました。

最近増えてきた、Vtuberに対する名誉毀損を明示的に認めた、評価されるべき判決の一つだと思います。
マリンさんの名称で訴訟をすれば被害者保護が叶うところはありますが、現状、その被害者本人の名前を出さないと訴訟はできないことが多いです。訴えをすることは、自身の本名などを自ら明かすことになり、訴訟に踏み切ったのも大きな決断だったのではないかと思います(DV案件などで住所非開示で訴訟をする、等の例外はもちろんありますが、全てに適用されるわけではありません)。
そして、勇気を振り絞って訴訟をしても、マリンさんと中の人とは別人だから違法な誹謗中傷等にならないとなってしまうと、被害者保護はますます遠のいてしまいます。その点を解決してくれた、大切な判決の一つになりますね。

なお、参考までに、いわゆるTwitterの匿名のアカウントでも名誉毀損が認められ発信者情報開示請求が認容された案件もあるようです。詳細は明らかではありませんが、例えば一例として、ポケモンを好きでいらっしゃるアカウントのすいろさんという方が、訴訟などの進捗を明らかにしています。

他にもプロゲーミングチームのZETADIVISIONさんは誹謗中傷に関してチームメンバーを守る旨宣言をするなどしています。そこでも発信者情報開示請求というワードが出てきていますね。

発信者情報開示請求は、投稿をした人物の個人情報を明らかにする為の手続きです。次の段階で、投稿者自身に対する名誉毀損等の損害賠償請求をすることになります。
実際にその投稿が違法となるかどうかは、この2段階目の訴訟で明らかにされることになりますが、マリンさんの件含め、今後の動向に注目ですね。
(肌感触的に、発信者情報開示の訴訟は違法と見られやすいハードルが、その次の訴訟に比べてやや低いように思います。そういう意味では、発信者情報が開示されたからと言って、全ての投稿が、違法かつ悪質なものと断じることは出来ませんので注意が必要です。投稿をした方の表現の自由も踏まえると、社会通念上容認できないほどの誹謗中傷か、またそもそもの原因が被害者の挑発的言動にあることはないか、等の点は慎重に検討しなければなりません)


最近はSNSの発展で、いわれもない誹謗中傷に悩まされている方が多くいらっしゃると思います。中には自分から炎上商法をして批判を招いた方もいらっしゃいますが、そういう人ばかりではありませんし、炎上商法をしたからといってアンチからの批判が何でも許されることにはなりません。
よろしければ、費用面含めご相談ください。


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