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令和4年2月文楽公演見聞録

陽性者が出てしばらく休演していたが、この日の公演はなんとか開催。朝一の第一部と昼からの第二部を続けて鑑賞。久々の国立劇場。


第一部は「ニ人禿」「御所桜堀川夜討 弁慶上使の段」「艶姿女舞衣 上塩町酒屋の段」の三幕。文楽の演目は大体3種類に分かれると思っていて、言祝ぎの儀式のようなめでたもの、軍記もの、人情ものに大別できると思う。この部はそれを一つずつ楽しめるお得パックですね。私はバシコーン!!とキマる軍記ものが特に好きだが、「御所桜堀川夜討 弁慶上使の段」も展開がドラマティックで良かった。地元で公演しなくなってからしばらく文楽を観ていなかったが、やはり久しぶりに観ると震えた。これですよこれ!!文楽にしかないこのパワーなんですよ!!竹本錣太夫(語り)と竹澤宗助(三味線)の圧倒的な強度。圧巻。


しかし今回のハイライトはやはり第二部!!「加賀見山旧錦絵」から「草履打ちの段」「廊下の段」「長局の段」「奥庭の段」を続けて四幕。この「長局の段」奥の竹本織太夫、鶴沢藤蔵、桐竹勘十郎による完璧な強度空間!!!!マジで至高だった。これまで観てきた中でもマジでトップなんじゃないかと思う。

私は全ての芸術の良し悪しは、そこに特異的な強度空間を現出せしめられているかどうかにかかっていると思うが、文楽で生み出される強度空間は唯一無二だと思う。やはり語り、三味線、人形遣いというそれぞれの分野に人生を捧げた達人達の技術が完璧に調和することでしか生まれない芸術だからではないだろうか。観てるとアツすぎてゲボ吐きそうになるんですよ。これは楽譜とか台本みたいな西洋的な合理主義文化では絶対に習得できない技術だと思う。血が出るまで声を枯らして、撥を握って、人形を操ることでしか生まれないもの。私は人間のかような可能性を信じるために生きている。


しかし織太夫は素晴らしい太夫になりましたね。咲甫太夫として「にほんごであそぼ」とかに出てた頃から皆さんイチモクでしたでしょうが、今回も本当に素晴らしかった。いやほんとに、したり顔で「なかなかよいものですな」みたいな感じじゃなくて、血が沸騰して体が内側から煮え立つような感覚になるんですよ。是非未経験の方は一度観て頂きたい。また私はどちらかというと語りを聞きに行ってるタイプなので人形遣いの方はあまり覚えられないのですが、桐竹勘十郎はやはり素晴らしいですね。火を熾して薬を薬缶で温めるような細かい所作の一つ一つからバシッと見栄を切るとこまで、そのどれもに完璧な力が込められてる。鶴澤藤蔵の闘気を纏ったような三味線もほとんどひとごろしの領域だったし、本当に震えた。私もこんな風に楽器を演奏したいと心から思った。話に感動してとかじゃなくて、この芸の完成度の高さに涙が出ました。


呂勢太夫も良い声になってたし、咲寿太夫も少し軽いかなと思っていたがどんどん良い声になっているように思う。あと今の太夫って切り場語りはいないんですかね?配役に切の記載がありませんでしたが、仕組みが今だによく分からない。

惜しむらくは第三部が先述のコロナ休演で観られなかったことか。「平家女護島 鬼界が島の段」は好きだったんだけどなぁ。島流しに遭った3人の内、俊寛僧都だけが帰ることを許されなくて、「エッ俺だけ残んの?」みたいな切ない話。岩をクリクリ登って絶叫するとことか好きなんだけどなぁ。私も島流しの憂き目に遭うことがあったら、まずはワカメにまみれるところから始めてみようと思います。純然たる嫌味として。いやワカメまみれは崇徳天皇だったか?とにかく、そのあたりから始めてみたいと思います。


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