海外ウェブコミック紹介 14: Floraverse

ついにGlitched Puppet (略称 glip / gp )氏によるこの作品を紹介するときが来てしまった…今までこれを先延ばしにしていたのは、実のところこの作品を私自身がよく理解できていない…いや全然理解できていないからだ。しかしどうやらこの先待っていてもよく分かるときが来るとも思えないので、いまこの時点での紹介を書くことにする。

この作品のタイトルFloraverseというのは、verseという接尾語で分かるかもしれないが、単独の作品というよりは、ある作品群の展開する一つの世界およびその設定をさしている。大雑把に言うと、地球によく似た別の惑星とおぼしき世界だが、地球と違い地上世界(トップサイド)と地下世界(ヘルサイド)の二層からなっている。それぞれにポケモンっぽい多様な外観のさまざまな種族が住んでおり、トップサイダーとヘルサイダーの間ではあまり盛んではないが普通に交流もある。地下世界がヘルサイドと呼ばれ、その住人のうちいくつかの種族はデーモンとも呼ばれているが、彼らが特に邪悪とかそういうことはない。

この世界で同時多発的に、あるいは多重に進行する一連のストーリー群によって描き出されるのが本作品の全体像ということになる。

たとえば第一章にあたる"Seeds; a mini story"は、地上世界からある使命を帯びてヘルサイドへ旅をする二人の小さな人物(一体は小鳥のような姿のミン、もう一体は通常はウサギに似た形を取っているが不定形の液状生命クレス)の話。彼らは何かある重要な目的のために、「種」を携えて一年に一度の定期便に乗りヘルサイドを目指す。だが出だしから寝坊やらなんやらで、スムースにはいかない。問題続出しながらの弥次喜多道中で、お互いを盛んに罵りながら旅を続けているが、まあよくこれだけ相手を罵倒しながら友達でいられるものだと感心するくらいだ。そして苦難の末にヘルサイドにたどり着くや早々に、大事な種を盗まれてしまう…その混乱のさなか、二人はこの後の章で重要な役割を果たすことになるヘルサイドの「コマンダー」たちと出会う…

ヘルサイドは大洋に浮かぶいくつかの陸地(スケール感がよく分からないので島と言っていいのか、大陸というべきなのかが定かでないが、便宜上島と言っておく)に分かれており、それぞれの島に知事がおり、その直属の部下たちがコマンダーと呼ばれているようだ。彼らの活躍は、その次の大きな章"Itchy Itchy"で描かれる。この世界で最も恐れられている存在は"エンジェル"と呼ばれており、彼らはごく稀に、何の前触れもなく現れ、自然現象の如くに移動し、消え去る。しかしその過程でその存在に影響された者達はみな「天使の病」を発症し、ほぼ例外なく命を落とすことになる。しかもその病は患者から患者へと伝染し、きわめて広範囲に甚大な被害をもたらすのだ。このエンジェル禍に対応するため、知事アンドレは地上世界から医師メディアンを呼び寄せ、メディアンのサポート役として二人のコマンダー、ベレスとビフを任命する。ベレスはパペットマスター、いくつもの半自律人形を自動操作して遠くから隔離作業を行うことができる。特にベレスのお気に入りの人形の一つ、「ドクター・ナース」は一般的な怪我や病気の治療が可能であり、この任務にはうってつけだ。もう一人のコマンダー、ビフはネクロポッサムという種族であり、彼の特殊能力はあらゆる死体を自分の操り人形として操作できることだ。つまり二人ともいわゆる操作系であり、この任務には適任といえる。

彼らは協力してこの決死の任務にあたり、メディアンも一時は天使の病に感染して命を落としかけるが、辛くも踏みとどまりついに病気の封じ込めに成功する。だがすべてが解決したかと思われたとき、遠隔操作で感染の危険はなかったはずのベレスも病に侵されており、もう助からない状況であることが分かる。天使の病は精神を通じて罹患する恐ろしい病気だったのだ…アンドレは苦渋の決断をし、ベレスに再生の儀式を行うこと決意する。

と、ここまで表面的なストーリーだけ一部を書いてみたが、この作品の真のテーマはここには片鱗しか表れていない。エンジェルとは何者なのか?またベレスの再生とは何を意味するのか…ベレスは人形を操るパペットマスターだが、実は彼女(と呼ぶのも実は適当ではない。ベレス(Beleth)の英語での人称代名詞はtheyだ)自身もまた命ある人形であるらしいことが明らかになる。そしてベレスの再生の夢の中に現れる謎めいた登場人物たち…特に、ベレスの本体?のような存在であるジュペットとベレスの関係が実際なんなのか、ベレス自身は自分の存在をどう認識しているのか?また、この作品のストーリーは多重世界線上に展開している。特に、この病気になったベレスは白いベレスだが、別の世界線では「赤いベレス」が存在しており、彼らの関係も明らかではない…ベレスという単一のキャラクターのみならず、この多重世界が意味しているものはなんなのか、一章のミンとクレスは「種」を無事にヘルサイドに根付かせるために数限りなく失敗を繰り返し、次の世界線で同じ試みをしているようだ…ベレスの再生も何度も失敗し、万能と思われたアンドレも自信を失いかける。(アンドレはなんというか、アートの化身みたいなキャラクターであり、こういうシリアスモードでないときはなんとも人をくった存在であり、ベレスの読んでいる同人コミックの中に入り込んで驚かせたりといった茶目っ気をよく見せる)これらの世界線を明示的に認識していると思われる存在の一つとして、TALというコンピュータがいる。ベレスの生みの親と思われるジュペットもこのTALの下で活動しているチームの一人のようだ。アンドレたちはTALの存在を知っているのか?TALの役割は何なのか?

これは途中の展開のごく一部をなぞっただけであり、今はまた全く違うストーリーが展開している。だが新しい章で新たなストーリーが描かれるたびに、以前の謎に対するヒントは与えられるがそれに増してより多くの謎が提示されるので、この世界の全体像はいまだに判然としない…読者のコメント欄を見ても考察勢の考察もありながら、皆煙に巻かれている様が伺える。

作者のGlip氏は極めて生産的な人物であり、この作品も通常のコミック形式だけではなく、途中のいくつかのストーリーはマルチメディアのインタラクティブなアニメーションとして作成されている。またそこで使われている多彩なBGMもすべて氏の自作であり、アルバムとしてダウンロード販売もされている。また連載の合間に別のゲーム制作に参加していたりしており、これらのゲームもそれぞれ独特な世界観に仕上がっている。

さらに特筆すべきこととして、Floraverse世界の設定は、その地理、登場するさまざまな種族の特性や能力にいたるまでが詳細に資料ページとして公開されており、しかもそれはクリエイティブ・コモンズライセンスでの公開となっている。つまり積極的にこの世界観の元で誰かがオリジナルストーリーを作ることが推奨されている。

最後に、つい最近になってGlip氏自らがFloraverseの裏サイトも作っていることに気がついた。この圧倒的なペースでの創作に加えて…と呆れるほどであるが、内容が内容なのでそちらはリンクは貼らない。興味のある人は自力で見つけてほしい。

作品へのリンク: http://floraverse.com/

Hive works: https://www.thehiveworks.com/







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